鏡の中の眠れるヘルマプロデュートス 6
夕暮れの校内は、二部の学生がそろそろ入って来るころだ。
そこに、知った者はいない。
かさ……。足音にふと視線を巡らせば、そこには見知った顔がある。
「え?鏡弥……。」
病院にいるはずの鏡弥が、ここにいるわけはない。だが、驚くほど似た面差しだった。
「……鏡弥がお世話になっています。」
深々と頭を下げた青年は、鏡弥と服の趣味も違い、雰囲気こそ違うが、体つきも首の細さも鏡弥によく似ている。何より長い睫のけぶる小さな顔がそっくりだった。出会ったばかりの、一瞬少女と見間違えた鏡弥を思い起こさせた。
「鏡弥に兄弟……?……がいたのか。」
「ぼくは、桜口充弥といいます。あなたの良く知る桜口鏡弥の……知り合いです。お伝えしたいことが有って……。」
「伝えたいこと?何だ?」
もうすぐバイトの時間だ、行かなきゃと、頭の隅でぼんやり考える。働き詰めで、食事も睡眠時間も削られている。いくら若くて体力のある陽太にも限界が近づいていた。無精ひげを剃る気にもならない。
「あの、お願いですから、鏡弥と縁を切ってください。あいつは、あなたが思っているような、清らかなモノではないんです。このままだと、あなたが身体を壊してしまいます。あの……差し出がましいことだとは、重々わかっていますが、ぜひそうしてください。」
神経を逆なでされた気がした。こいつは何を言ってるんだ。鏡弥の何を知っていると言うんだ。
「なんでそんなことを、君に言われなきゃならないんだ。鏡弥は困っている。手を貸してやりたいと俺は思っている。君が鏡弥の知り合いというのなら、手を貸してやってほしいね。生活に追われている母親と二人暮らしだと言う話は聞いて居るけど、彼が事故に遭ったってのに、誰も見舞いにも来やしない。俺はあの子を愛しいと心から思っているよ。薄情な知り合いよりは役に立っているつもりだけど?」
充弥と名乗った青年は、陽太にきつくそう言われて、強張った顔を向けた。
「ご迷惑をお掛けしていると思います。だからこそ、鏡弥と別れてほしいんです。その方が、あなたの為だと思うから。」
「そうは思わないね。彼には俺の手が必要だと思う。失礼するよ。バイトの時間なんだ。」
「待って!」
「まだ何か?」
隙を見せない陽太のきつい視線に、相手はたじろいだ。
「あの……ぼくのいう事が正しいと言う証拠をお見せします。」
「証拠?」
「ここに、来てください。どうして、ぼくが鏡弥と別れた方が良いと言うのか、あなたに理由をお見せします。鏡弥と別れないと、あなたが不幸になるから……。」
唐突に表れ、不自然に鏡弥の身内と名乗った、鏡弥に瓜二つの桜口充弥は、いつも陽太が金を納めに行く事務所の場所を告げた。時間を指定して、必ずその時間に訪ねて来るようにと言った充弥の目は、どこか必死で思わず反射的に頷いてしまう。何しろ、陽太の思い人とそっくりなのだから、無下にはできない。
承諾した陽太は、相手がほっとしたような泣きそうな曖昧な表情を浮かべたのに気が付いた。
「あのさ、知り合いって身内?本当は、兄弟じゃないのか?君と鏡弥は雰囲気は違うけど……本当によく似ている。顎の先の小さな黒子の位置までそっくりじゃないか。」
「……兄弟ではないです。もっと、近しい関係……。その時間に必ず事務所へ足を運んでください。全てわかりますから……。鏡弥とぼくの関係も……。ぼくが別れてくれと言った理由も。」
「わかった。必ず行くよ。」
約束通り次の日、事務所へ出向いた陽太は、半笑いを浮かべた男に、店の奥へと誘われ目を剥くことになる。
( ゚д゚ ) ジーッ 陽太:「鏡弥にそっくりだ……」
(´・ω・`) 充弥:「違います。ぼくは桜口充弥と言います。」
賢明な読者様には、展開が見えてきたかな……?(〃ー〃)ばれてないと、いいなぁ。此花咲耶
そこに、知った者はいない。
かさ……。足音にふと視線を巡らせば、そこには見知った顔がある。
「え?鏡弥……。」
病院にいるはずの鏡弥が、ここにいるわけはない。だが、驚くほど似た面差しだった。
「……鏡弥がお世話になっています。」
深々と頭を下げた青年は、鏡弥と服の趣味も違い、雰囲気こそ違うが、体つきも首の細さも鏡弥によく似ている。何より長い睫のけぶる小さな顔がそっくりだった。出会ったばかりの、一瞬少女と見間違えた鏡弥を思い起こさせた。
「鏡弥に兄弟……?……がいたのか。」
「ぼくは、桜口充弥といいます。あなたの良く知る桜口鏡弥の……知り合いです。お伝えしたいことが有って……。」
「伝えたいこと?何だ?」
もうすぐバイトの時間だ、行かなきゃと、頭の隅でぼんやり考える。働き詰めで、食事も睡眠時間も削られている。いくら若くて体力のある陽太にも限界が近づいていた。無精ひげを剃る気にもならない。
「あの、お願いですから、鏡弥と縁を切ってください。あいつは、あなたが思っているような、清らかなモノではないんです。このままだと、あなたが身体を壊してしまいます。あの……差し出がましいことだとは、重々わかっていますが、ぜひそうしてください。」
神経を逆なでされた気がした。こいつは何を言ってるんだ。鏡弥の何を知っていると言うんだ。
「なんでそんなことを、君に言われなきゃならないんだ。鏡弥は困っている。手を貸してやりたいと俺は思っている。君が鏡弥の知り合いというのなら、手を貸してやってほしいね。生活に追われている母親と二人暮らしだと言う話は聞いて居るけど、彼が事故に遭ったってのに、誰も見舞いにも来やしない。俺はあの子を愛しいと心から思っているよ。薄情な知り合いよりは役に立っているつもりだけど?」
充弥と名乗った青年は、陽太にきつくそう言われて、強張った顔を向けた。
「ご迷惑をお掛けしていると思います。だからこそ、鏡弥と別れてほしいんです。その方が、あなたの為だと思うから。」
「そうは思わないね。彼には俺の手が必要だと思う。失礼するよ。バイトの時間なんだ。」
「待って!」
「まだ何か?」
隙を見せない陽太のきつい視線に、相手はたじろいだ。
「あの……ぼくのいう事が正しいと言う証拠をお見せします。」
「証拠?」
「ここに、来てください。どうして、ぼくが鏡弥と別れた方が良いと言うのか、あなたに理由をお見せします。鏡弥と別れないと、あなたが不幸になるから……。」
唐突に表れ、不自然に鏡弥の身内と名乗った、鏡弥に瓜二つの桜口充弥は、いつも陽太が金を納めに行く事務所の場所を告げた。時間を指定して、必ずその時間に訪ねて来るようにと言った充弥の目は、どこか必死で思わず反射的に頷いてしまう。何しろ、陽太の思い人とそっくりなのだから、無下にはできない。
承諾した陽太は、相手がほっとしたような泣きそうな曖昧な表情を浮かべたのに気が付いた。
「あのさ、知り合いって身内?本当は、兄弟じゃないのか?君と鏡弥は雰囲気は違うけど……本当によく似ている。顎の先の小さな黒子の位置までそっくりじゃないか。」
「……兄弟ではないです。もっと、近しい関係……。その時間に必ず事務所へ足を運んでください。全てわかりますから……。鏡弥とぼくの関係も……。ぼくが別れてくれと言った理由も。」
「わかった。必ず行くよ。」
約束通り次の日、事務所へ出向いた陽太は、半笑いを浮かべた男に、店の奥へと誘われ目を剥くことになる。
( ゚д゚ ) ジーッ 陽太:「鏡弥にそっくりだ……」
(´・ω・`) 充弥:「違います。ぼくは桜口充弥と言います。」
賢明な読者様には、展開が見えてきたかな……?(〃ー〃)ばれてないと、いいなぁ。此花咲耶
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