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小説・蜻蛉の記(貴久の心)・7 

いつしか、わたしは母上のお気持ちがわかるようになり、お会いできない父上や兄上の、大事の折にはお役に立つ身で居たいと願うようになっていた。


わたしの乳母のお福も、ずっと母上にお供をしてきた人だったという。


「姫様が三里でお暮らしになるのなら、福もそう致します。」


家中の御納戸役と結婚し、同じ頃身ごもった福は豊富な乳の量で、わたしの乳母に選ばれたのだった。


大輔とわたしは、生まれ落ちたときから三里藩のために生きるようにと、親に望まれていた。


当たり前のように、乳兄弟の大輔もわたしが兄上を思うように、ひたすらわたしを慕ってくれていた。


大きな丸い目で、どこまでも付いてくる大輔は弟のように可愛かった。


いつまでも、子供のときのまま暮らせていたならどんなによかっただろう


父上にお目にかかったのは、法要の席が初めてだったが、あの日以来わたしの生活は変わってしまった。


動かぬ足を抱えて、わたしはいつも思っていた。


死にたい・・・と。

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