さだかつくんの恋人 2
その日のひよこ組は、どこか浮き立っていた。
時期外れの転入生が来るのだという。
女の子たちは、かっこいい子だと良いね~、でも、湊くんよりかっこいい子なんていないよね~と話をし、男の子たちはサッカーチームに入ってくれるといいなと待ちわびていた。奇数だとパス練習をするのにも一人余る。チームにとってメンバーが少ないのは、切実な問題だった。
「先生。女の子が来るの?男の子が来るの?」
「はい。静かにしてね。発表します。今日ひよこ組さんに入って来るお友達は、男の子です~。」
「やった~!男の子!。」
禎克はぼんやりと窓の外を見ていた。新しいお友達が来ようがどうしようがどうだっていい。
誰も気にも留めない、桃色のスモックがずっと憂鬱だった。
禎克がぼうっとしている向こうで、新しいお友達が挨拶をしていた。
「はい、みんな注目~!新しいお友達を紹介します。柏木大二郎君です。ご挨拶できる?大二郎君。」
「はい。お仕事の関係で一か月だけ、こまどり幼稚園に通うことになりました。仲良くしてください。」
「は~い!」
ぺこりと頭を下げた子に、禎克以外注目していた。
*****
「さあちゃん……。さあちゃんってば。」
いきなり目の前に誰かの顔が近づいて、禎克は我に返った。
「おっす。」
「おっす……おら、ごくう?」
見知らぬ顔に、驚いて周囲を見渡すと、ほら、この子が新しいお友達なんだよと、皆が口々に言う。
「あ……の、こんにちは。はじめまして。」
お行儀のよい禎克は椅子から立ち上がると、新しいお友達に丁寧にぺこりと頭を下げて挨拶をした。くるりとカーブした長い睫が揺れる。
新しいお友達が、思わず「やべ……かわぇぇ~」と、ごちた。
「なぁ。お前めっちゃ可愛いからさ、おれの嫁さんにしてやるよ。いいな。」
「お?……お嫁さん……?ええーーーーっ!!!!!」
周囲は大騒ぎになった……というより、爆笑の渦になった。
「さあちゃんをお嫁さんだって!」
「きゃあっ。さあちゃん、大変~。」
「知らないもの、仕方ないよ~。」
女の子たちの方が、大騒ぎしている。
「なんだよ。何がおかしいんだ、お前ら。つか、もう誰か付き合ってる奴いるのか?」
禎克は、ぶんぶんと頭を振った。
「もしもそんな奴がいるのなら、おれ、そいつと決闘する。」
「決闘だって~!もてもてさあちゃん!」
「あわあわ……。」
ひよこ組は大騒ぎになっていた。編入してきた男の子は柏木大二郎という時代がかった名前で、年長さんのクラスに入っても遜色ないほど背が高かった。禎克はちらりと相手の様子をうかがった。
喧嘩しても、絶対叶わない……気がする。でも……。お嫁さんは無いと思うので、思い切って勇気を振り絞った。
「ぼく、女の子じゃないよぅ……。」
小さな声で抗ってみたが、禎克の精いっぱいの抵抗は、周囲の賑やかな声にかき消されてしまった。
「なぁ、なぁ。おまえ、名前なんて言うの?」
「……こ、金剛禎克(こんごうさだかつ)です~。」
可哀想なくらい見た目にそぐわぬ、男らしいごつい名前を名乗ったら、大二郎は目を丸くした。
「はぁ……?なんか、男みたいな名前だな。お前の父ちゃんと母ちゃん、ネーミングセンス悪すぎじゃね?お前なら、もっと可愛い名前のほうがいいのに。」
「ぼく、男だもん……。」
「は……?女子だろ?だって、ピンクのスモックじゃん。」
「湊くんが、ぼくのスモック取っちゃったから、これしかなかったの。」
「湊くんって誰?」
「おねえちゃん。今、あそこで女の子たちの真ん中にいる子。」
「おねえちゃんだぁ?ばか野郎、あれこそ思いっきり男じゃねぇか。ああいうのは「すけこまし」っていうんだよ。」
「す……すけこま?湊くんは太ってないよ。」
どうやら、ぶたこまみたいなものだと思ったらしく、会話はまるでかみ合っていなかった。
「おれの父ちゃんみたいなタイプだな。孤独になりたくてもさ、ああいうタイプは女がほおっておかないんだ。ま、もてない男からは嫌われるタイプだな。おれも前の幼稚園じゃ、かなりもてたけど……。あいつ、すげぇな。負けたぜ。」
「あう~。」
周囲は興味津々で、二人の会話を聞いていた。
どうなる、金剛禎克くん。
本日もお読みいただきありがとうございます。
新しいお友達とかみ合わない会話をしています。ちょっと、おっとり気味なさだかつくん。
大丈夫かな……(〃▽〃) 此花咲耶
時期外れの転入生が来るのだという。
女の子たちは、かっこいい子だと良いね~、でも、湊くんよりかっこいい子なんていないよね~と話をし、男の子たちはサッカーチームに入ってくれるといいなと待ちわびていた。奇数だとパス練習をするのにも一人余る。チームにとってメンバーが少ないのは、切実な問題だった。
「先生。女の子が来るの?男の子が来るの?」
「はい。静かにしてね。発表します。今日ひよこ組さんに入って来るお友達は、男の子です~。」
「やった~!男の子!。」
禎克はぼんやりと窓の外を見ていた。新しいお友達が来ようがどうしようがどうだっていい。
誰も気にも留めない、桃色のスモックがずっと憂鬱だった。
禎克がぼうっとしている向こうで、新しいお友達が挨拶をしていた。
「はい、みんな注目~!新しいお友達を紹介します。柏木大二郎君です。ご挨拶できる?大二郎君。」
「はい。お仕事の関係で一か月だけ、こまどり幼稚園に通うことになりました。仲良くしてください。」
「は~い!」
ぺこりと頭を下げた子に、禎克以外注目していた。
*****
「さあちゃん……。さあちゃんってば。」
いきなり目の前に誰かの顔が近づいて、禎克は我に返った。
「おっす。」
「おっす……おら、ごくう?」
見知らぬ顔に、驚いて周囲を見渡すと、ほら、この子が新しいお友達なんだよと、皆が口々に言う。
「あ……の、こんにちは。はじめまして。」
お行儀のよい禎克は椅子から立ち上がると、新しいお友達に丁寧にぺこりと頭を下げて挨拶をした。くるりとカーブした長い睫が揺れる。
新しいお友達が、思わず「やべ……かわぇぇ~」と、ごちた。
「なぁ。お前めっちゃ可愛いからさ、おれの嫁さんにしてやるよ。いいな。」
「お?……お嫁さん……?ええーーーーっ!!!!!」
周囲は大騒ぎになった……というより、爆笑の渦になった。
「さあちゃんをお嫁さんだって!」
「きゃあっ。さあちゃん、大変~。」
「知らないもの、仕方ないよ~。」
女の子たちの方が、大騒ぎしている。
「なんだよ。何がおかしいんだ、お前ら。つか、もう誰か付き合ってる奴いるのか?」
禎克は、ぶんぶんと頭を振った。
「もしもそんな奴がいるのなら、おれ、そいつと決闘する。」
「決闘だって~!もてもてさあちゃん!」
「あわあわ……。」
ひよこ組は大騒ぎになっていた。編入してきた男の子は柏木大二郎という時代がかった名前で、年長さんのクラスに入っても遜色ないほど背が高かった。禎克はちらりと相手の様子をうかがった。
喧嘩しても、絶対叶わない……気がする。でも……。お嫁さんは無いと思うので、思い切って勇気を振り絞った。
「ぼく、女の子じゃないよぅ……。」
小さな声で抗ってみたが、禎克の精いっぱいの抵抗は、周囲の賑やかな声にかき消されてしまった。
「なぁ、なぁ。おまえ、名前なんて言うの?」
「……こ、金剛禎克(こんごうさだかつ)です~。」
可哀想なくらい見た目にそぐわぬ、男らしいごつい名前を名乗ったら、大二郎は目を丸くした。
「はぁ……?なんか、男みたいな名前だな。お前の父ちゃんと母ちゃん、ネーミングセンス悪すぎじゃね?お前なら、もっと可愛い名前のほうがいいのに。」
「ぼく、男だもん……。」
「は……?女子だろ?だって、ピンクのスモックじゃん。」
「湊くんが、ぼくのスモック取っちゃったから、これしかなかったの。」
「湊くんって誰?」
「おねえちゃん。今、あそこで女の子たちの真ん中にいる子。」
「おねえちゃんだぁ?ばか野郎、あれこそ思いっきり男じゃねぇか。ああいうのは「すけこまし」っていうんだよ。」
「す……すけこま?湊くんは太ってないよ。」
どうやら、ぶたこまみたいなものだと思ったらしく、会話はまるでかみ合っていなかった。
「おれの父ちゃんみたいなタイプだな。孤独になりたくてもさ、ああいうタイプは女がほおっておかないんだ。ま、もてない男からは嫌われるタイプだな。おれも前の幼稚園じゃ、かなりもてたけど……。あいつ、すげぇな。負けたぜ。」
「あう~。」
周囲は興味津々で、二人の会話を聞いていた。
どうなる、金剛禎克くん。
本日もお読みいただきありがとうございます。
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大丈夫かな……(〃▽〃) 此花咲耶
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