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さだかつくんの恋人 15 

幼稚園に着くと、禎克は朝一番に競争率の高いレゴブロックの消防自動車のパーツを見つけ、握り締めると、小さくやった~とガッツポーズをした。それからすぐに、多くの園児がやって来る門の所まで大二郎を迎えに行ったが、なかなかやってこない。
待てども待てども、どういうわけか大二郎はこまどり幼稚園に来なかった。

「おそいな~」

禎克は門扉にもたれて、じっと長いこと遠くを見つめて大二郎を待っていた。

「もうすぐ朝のごあいさつの時間なのに、大二郎くん……ちこく~。」

既に事情を知っていた川俣先生が、様子をうかがっていたが、ついに引導を渡した。

「禎克くん。大二郎くんを待っているの?」

「うん。」

「あのね、禎克くん。大二郎くんは待ってても、こまどり幼稚園に来ないのよ。」

「……?おかぜひいちゃった?」

あのね……と、先生は切り出した。

劇団のお仕事の都合で、こまどり幼稚園には、最初から一か月だけ通う約束だったということ。昨日の公演が最後で、たぶん夜の内に次の興行先に向かったこと。幼稚園のみんなにはお別れする時間がなかったこと。川俣先生は、言葉を選んで禎克に説明した。

「だからね、残念だけど大二郎くんは、来ないの。」

「……大二郎くんと、ブロックで遊ぶんだよ。」

「禎克くん。大二郎くんは、明日も遊ぼうねって言ってた?」

「大二郎くんは……。」

「禎克くん。」

「大二郎くん……と遊ぶ……。」

禎克は、男らしく泣くまいと歯を食いしばっていた。ぽとりと手の中から消防自動車のレゴブロックが滑り落ちた。

「きっと、大二郎くんは禎克くんに、お別れが言えなかったのね。禎克くんの事、大好きだったからお別れしたくなかったのね……。」

禎克はそっとブロックを拾うと、川俣先生に手渡した。うるうると瞳が濡れて、川俣先生は禎克のやるせない本心を知りながら、思わず「可愛い……」とつぶやいてしまった。教育者としては、ちょっと反省。

最近、ちょっとだけ男の子らしくなった禎克は、川俣先生に一つお辞儀をすると門扉の隙間から幼稚園の外へ出た。

「あ!お外は駄目よ~、禎克くん。もうすぐ園長先生の朝のご挨拶始まるのよ。」

「ちょっとだけ~!」

「行っちゃ駄目!禎克くん!待って!」

川俣先生の伸ばした腕をするりとかいぐって、禎克は商店街の雑踏の中に走って消えた。

「禎克くん~!」




(´・ω・`) 「……」

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