さだかつくんの恋人 10
やがて、事態はあっさりと好転する。
ある日曜日の朝早く、母はおめかしをして子供たちを呼んだ。
「さあちゃん、湊ちゃん。今日はお出かけするのよ。支度してね。」
「なぁに?どこ行くの?」
何処か華やいだ母の様子に、お出かけなんだと二人もわくわくと浮き立つ。
「お買いもの?デパートに行くの?」
「おばあちゃんちに、お中元?」
「ううん。お芝居観に行くのよ。この前頂いた柏木醍醐一座の招待券使わないともったいないでしょう?パパが接待ゴルフで中々時間が取れないから、みんなで行ってらっしゃいって。もうすぐ、次の公演先に移動するって前のおばあちゃんが言ってたから、急がないとね~。」
「公演を見て、それからお昼ご飯は、ホテルの豪華バイキングいただきましょう。」
「やった~!バイキング~!」
子どもたちの目はきらきらと輝いた。
*****
興行を打っているホテルの周囲には、劇団醍醐の公演を知らせる華やかな幟旗が連なって翻っていた。
歌舞伎の幟を模したような江戸勘亭流の字体で、横断幕には「柏木醍醐一座」と書かれ、人気役者の公演らしく既に待ちかねた大勢の人が、長い列を作っていた。大河ドラマで一躍名を売った柏木醍醐のファンは多いらしく、お年寄りばかりではなく、若い女性が大勢いるのが目を引いた。
立て看板には、華やかな花魁の扮装をした柏木醍醐が、禿(かむろ)を従えたポスターが貼られている。
「醍醐さんって、本当に綺麗ねぇ……。」
うっとりとポスターを眺める母は、禿の下に柏木大二郎と書いてあるのを認めた。
「さあちゃん。ほら、この禿の子、大二郎くんですって。可愛いわねぇ。やっぱり蛙の子は蛙なのね。化粧映えのすること。」
「大二郎くん?違うよ、これ女の子だよ。」
「この綺麗な着物の人、誰だと思う?さあちゃん。」
「知らない。どこかのお姉さん。」
「よく見てみて。この前おうちに来た、大二郎くんのお父さんよ。」
「ええーーーーっ!?」
「うそ~!」
子どもたちはポスターに接近して、まじまじと眺めたが、むしろ線は細くても凛々しく男らしく見えた柏木醍醐が、男にしなだれかかった艶やかな絶世の美女になっていると聞いても、同一人物とはとても思えないようだった。
*****
特別招待券の禎克親子は、案内係に一番前のかぶりつきの席に案内され、大音量の音楽に圧倒されている。
「さあちゃん、すごいねぇ。」
「うん……。湊くん、あれ……。大二郎くんかなぁ。」
禎克は、上がりかけたきらびやかな緞帳の向こうで、小さな足が行き来するのを食い入るように見つめていた。
初めて大二郎くんの舞台を見ることになりました。
(〃▽〃)どきどき……。
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「さあちゃん、湊ちゃん。今日はお出かけするのよ。支度してね。」
「なぁに?どこ行くの?」
何処か華やいだ母の様子に、お出かけなんだと二人もわくわくと浮き立つ。
「お買いもの?デパートに行くの?」
「おばあちゃんちに、お中元?」
「ううん。お芝居観に行くのよ。この前頂いた柏木醍醐一座の招待券使わないともったいないでしょう?パパが接待ゴルフで中々時間が取れないから、みんなで行ってらっしゃいって。もうすぐ、次の公演先に移動するって前のおばあちゃんが言ってたから、急がないとね~。」
「公演を見て、それからお昼ご飯は、ホテルの豪華バイキングいただきましょう。」
「やった~!バイキング~!」
子どもたちの目はきらきらと輝いた。
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興行を打っているホテルの周囲には、劇団醍醐の公演を知らせる華やかな幟旗が連なって翻っていた。
歌舞伎の幟を模したような江戸勘亭流の字体で、横断幕には「柏木醍醐一座」と書かれ、人気役者の公演らしく既に待ちかねた大勢の人が、長い列を作っていた。大河ドラマで一躍名を売った柏木醍醐のファンは多いらしく、お年寄りばかりではなく、若い女性が大勢いるのが目を引いた。
立て看板には、華やかな花魁の扮装をした柏木醍醐が、禿(かむろ)を従えたポスターが貼られている。
「醍醐さんって、本当に綺麗ねぇ……。」
うっとりとポスターを眺める母は、禿の下に柏木大二郎と書いてあるのを認めた。
「さあちゃん。ほら、この禿の子、大二郎くんですって。可愛いわねぇ。やっぱり蛙の子は蛙なのね。化粧映えのすること。」
「大二郎くん?違うよ、これ女の子だよ。」
「この綺麗な着物の人、誰だと思う?さあちゃん。」
「知らない。どこかのお姉さん。」
「よく見てみて。この前おうちに来た、大二郎くんのお父さんよ。」
「ええーーーーっ!?」
「うそ~!」
子どもたちはポスターに接近して、まじまじと眺めたが、むしろ線は細くても凛々しく男らしく見えた柏木醍醐が、男にしなだれかかった艶やかな絶世の美女になっていると聞いても、同一人物とはとても思えないようだった。
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特別招待券の禎克親子は、案内係に一番前のかぶりつきの席に案内され、大音量の音楽に圧倒されている。
「さあちゃん、すごいねぇ。」
「うん……。湊くん、あれ……。大二郎くんかなぁ。」
禎克は、上がりかけたきらびやかな緞帳の向こうで、小さな足が行き来するのを食い入るように見つめていた。
初めて大二郎くんの舞台を見ることになりました。
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