さだかつくんの恋人 11
「御来場の皆様。柏木醍醐でございます。
本日は、劇団醍醐一座公演にお運びいただきまして、誠にありがとうございます。これからの一時、どうぞこの世の夢とお思いになって、ごゆっくりお楽しみください。」
場内アナウンスが終わると、期せず割れんばかりの万雷の拍手が沸き起こった。
大量のスモークが舞台の両端から客席に溢れだし、夢想の舞台が始まった。
紅柄格子の背景に、雪洞が揺れる。
極彩色の打掛の裾を引く、艶やかな花魁姿の柏木醍醐の登場に、客席からはほうっという感嘆の声がさざ波の様に広がってゆく。かぶり付の席では衣擦れの音さえ、すぐ傍で聞こえる。
ねずみの国のワールドオンアイスと、着ぐるみの戦隊物の舞台しか見たことの無い湊と禎克は、身を乗り出して瞬きもせず見入っていた。
華やかなスポットライトとミラーボールの煌めく光の洪水の中、幻想的に浮かび上がった花魁が、長煙管をとんと煙草盆に打ち付けた。
「わっちは、腹を決めんした……。この命の尽きるまで、どこまでも主さんとご一緒するでありんす。」
「高尾……。一緒に逝ってくれるのかい?ああ、うれしいねぇ。」
愛する男と添うには心中するしかなかった色町の籠の鳥、高級遊女の高尾花魁が、きっぱりと心を決めて心中の道行に向かい、蝶に変化して舞い踊る。男蝶、女蝶の切ない連れ舞に、客席の御婦人方は、そっと目元を抑えた。
生きては添えない薄幸の二人だった。
流し目若さまと異名をとる柏木醍醐の、憂いを含んだ視線がとろりと流れるたび、あちこちで小さく歓声があがる。
はらはらと舞い落ちる雪のような花弁の下で、白無垢の花嫁衣装を身にまとい、花魁は覚悟を決めて手を合わせ神仏に祈りを捧げた。
やがて愛する男の白刃に、くつろげた胸元を深々と突かれて、花の中に崩れ落ちた。
そして、必死に花魁を探していた禿が、花の中に埋もれた高尾花魁の姿を見つけ走り寄る。
紅い紐で、男の手としっかり結ばれた花魁の冷たくなった白い手を、可愛がっていた禿が両手でかき抱き、悲痛に叫んだ。
「高尾花魁~~……」
*****
「えっ……~ん。」
舞台に目を奪われていた母が、泣き声にふと現実に戻ると禎克がえぐえぐと泣きぬれていた。現実と舞台がないまぜになって、禎克はそれからしばらくしくしくと泣いていた。
「大二郎くん~……。」
「あらあら、さあちゃん。これはお芝居なのよ。大二郎くんのお父さんが亡くなったわけじゃないのよ。」
「え~ん……。大二郎くん~……。」
その後の、舞踊ショーの間も泣きやまなかった禎克の手を曳いて、母は用意してきた差し入れを持って舞台後の楽屋を訪ねた。
(*⌒▽⌒*)♪……時代物じゃないぞ~。舞台の様子を描写しただけだもん~。
本日もお読みいただき、ありがとうございます。
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本日は、劇団醍醐一座公演にお運びいただきまして、誠にありがとうございます。これからの一時、どうぞこの世の夢とお思いになって、ごゆっくりお楽しみください。」
場内アナウンスが終わると、期せず割れんばかりの万雷の拍手が沸き起こった。
大量のスモークが舞台の両端から客席に溢れだし、夢想の舞台が始まった。
紅柄格子の背景に、雪洞が揺れる。
極彩色の打掛の裾を引く、艶やかな花魁姿の柏木醍醐の登場に、客席からはほうっという感嘆の声がさざ波の様に広がってゆく。かぶり付の席では衣擦れの音さえ、すぐ傍で聞こえる。
ねずみの国のワールドオンアイスと、着ぐるみの戦隊物の舞台しか見たことの無い湊と禎克は、身を乗り出して瞬きもせず見入っていた。
華やかなスポットライトとミラーボールの煌めく光の洪水の中、幻想的に浮かび上がった花魁が、長煙管をとんと煙草盆に打ち付けた。
「わっちは、腹を決めんした……。この命の尽きるまで、どこまでも主さんとご一緒するでありんす。」
「高尾……。一緒に逝ってくれるのかい?ああ、うれしいねぇ。」
愛する男と添うには心中するしかなかった色町の籠の鳥、高級遊女の高尾花魁が、きっぱりと心を決めて心中の道行に向かい、蝶に変化して舞い踊る。男蝶、女蝶の切ない連れ舞に、客席の御婦人方は、そっと目元を抑えた。
生きては添えない薄幸の二人だった。
流し目若さまと異名をとる柏木醍醐の、憂いを含んだ視線がとろりと流れるたび、あちこちで小さく歓声があがる。
はらはらと舞い落ちる雪のような花弁の下で、白無垢の花嫁衣装を身にまとい、花魁は覚悟を決めて手を合わせ神仏に祈りを捧げた。
やがて愛する男の白刃に、くつろげた胸元を深々と突かれて、花の中に崩れ落ちた。
そして、必死に花魁を探していた禿が、花の中に埋もれた高尾花魁の姿を見つけ走り寄る。
紅い紐で、男の手としっかり結ばれた花魁の冷たくなった白い手を、可愛がっていた禿が両手でかき抱き、悲痛に叫んだ。
「高尾花魁~~……」
*****
「えっ……~ん。」
舞台に目を奪われていた母が、泣き声にふと現実に戻ると禎克がえぐえぐと泣きぬれていた。現実と舞台がないまぜになって、禎克はそれからしばらくしくしくと泣いていた。
「大二郎くん~……。」
「あらあら、さあちゃん。これはお芝居なのよ。大二郎くんのお父さんが亡くなったわけじゃないのよ。」
「え~ん……。大二郎くん~……。」
その後の、舞踊ショーの間も泣きやまなかった禎克の手を曳いて、母は用意してきた差し入れを持って舞台後の楽屋を訪ねた。
(*⌒▽⌒*)♪……時代物じゃないぞ~。舞台の様子を描写しただけだもん~。
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