さだかつくんの恋人 1
幼稚園の頃の禎克は一つ上の姉に泣かされて、いつもぴいぴい泣いていた。
その頃の記憶の中で輝いているのは、今も心に残る鮮烈な一つの出会いだけだった。
***
禎克には一つ年上の活発な姉がいて、毎日同じ幼稚園に通っていたのだが、いつも朝一で禎克の青いスモックは奪われて、残された女の子用の桃色スモックを着るしかなかった。
日々禎克は、べそをかいた。
「おねえちゃ~ん。ぼくのスモック返してよ~。男の子はみんな青いスモックなんだよ。」
「いいじゃん。どうせ、あんた女の子みたいなんだから、そっちで。その方が似合ってるし。」
「やだ~。おねえちゃんが女の子でしょう。ピンクのスモック着てよ。おかあさ~ん。おねえちゃんが~。」
「あっ。早くしないと、幼稚園バスが来る時間。めそめそしてないで、さっ、急いで。」
「え~ん……。ぼくのスモック~。」
頭から容赦なく姉の制服のスモックが被された。仕上げにぽんと、黄色の帽子を乗せられる。繰り返される朝の光景だった。
「いつまでもぴぃぴぃ言わないの。それと、おねえちゃんと呼ばずに「湊くん」と呼びなさいって言ってるでしょ。わかった?」
「え~ん……わかった~。湊くん~。」
困ったことに、姉のピンクのスモック(白い丸襟、お花の刺繍付き)は、禎克にとてもよく似合っていた。さらさらの明るい栗色の髪、大きな二重の禎克は、最近はやりの売れっ子の子役のように文句なしに可愛い。
母も、逆ならよかったのにねぇと笑っている。大人たちは笑うが、禎克は真剣に悩んでいた。「女の子みたいに可愛い」と言う形容詞は、禎克にとって褒め言葉でもなんでもなかった。
お迎えの幼稚園バスに乗っている川俣先生は、毎朝繰り返されるそんな姉弟の様子を、にこにこと笑ってみていた。
「おはよう、禎克君。今日もおねえちゃんに青いスモック、取られちゃったのね~。」
「う……ん。まけた~。」
髪をうんと短く切って、男児にしか見えない姉は快活に朝の挨拶をしていた。
「おはようっす!かわまた先生。」
「おはよう、湊(みなと)ちゃん。今日もかっこいいのね。」
「そんなこと、ないっすよ。つか、かわまた先生、髪型変えたんすね。めっちゃ可愛いっす。」
「や~ん……、湊ちゃんったらちびのくせに、男前~。先生、うっかりときめいちゃうじゃない。」
「湊、嘘は言わないっすよ。先生はまじ可愛いっす。」
*****
幼稚園バスの一番奥の隅っこに、涙ぐんだ禎克が腰を下ろし、ポケットからハンカチを出してそっと拭っている。姉の湊は一番前の指定席に座って、乗り込んでくる園児たち皆に声を掛けていた。
「湊くん、おはよう~。」
「うっす。」
「今日の髪形素敵ね。」
「お母さんに、イングランドのサッカー選手みたいにしてもらったんだ。こういう髪型、ソフトモヒカンって言うんだよ。」
「湊くんに、似合ってる~。」
「ふふっ、ありがと。君たちもみんな可愛いよ。」
「いや~ん。」
女の子たちは姉のことを「湊くん」と男の子のように呼んだ。運動神経抜群で、かけっこも早くピアノも弾ける、空手の型も道場の模範となる。禎克とは真逆に完成された姉だった。
誰よりも男らしく格好いい万能の「湊くん」と桃色スモックの可愛い「さぁちゃん」の日々はこんな風だった。
そして「さあちゃん」こと金剛禎克に、思いがけない災難が降り注ぐことになる。
新しいお話が始まりました。これからしばらくお付き合いください。
お読みいただけると嬉しいです。
BL……には程遠い幼稚園児からのスタートです。(*⌒▽⌒*)♪←大丈夫なのか、このちん……。(汗)
その頃の記憶の中で輝いているのは、今も心に残る鮮烈な一つの出会いだけだった。
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禎克には一つ年上の活発な姉がいて、毎日同じ幼稚園に通っていたのだが、いつも朝一で禎克の青いスモックは奪われて、残された女の子用の桃色スモックを着るしかなかった。
日々禎克は、べそをかいた。
「おねえちゃ~ん。ぼくのスモック返してよ~。男の子はみんな青いスモックなんだよ。」
「いいじゃん。どうせ、あんた女の子みたいなんだから、そっちで。その方が似合ってるし。」
「やだ~。おねえちゃんが女の子でしょう。ピンクのスモック着てよ。おかあさ~ん。おねえちゃんが~。」
「あっ。早くしないと、幼稚園バスが来る時間。めそめそしてないで、さっ、急いで。」
「え~ん……。ぼくのスモック~。」
頭から容赦なく姉の制服のスモックが被された。仕上げにぽんと、黄色の帽子を乗せられる。繰り返される朝の光景だった。
「いつまでもぴぃぴぃ言わないの。それと、おねえちゃんと呼ばずに「湊くん」と呼びなさいって言ってるでしょ。わかった?」
「え~ん……わかった~。湊くん~。」
困ったことに、姉のピンクのスモック(白い丸襟、お花の刺繍付き)は、禎克にとてもよく似合っていた。さらさらの明るい栗色の髪、大きな二重の禎克は、最近はやりの売れっ子の子役のように文句なしに可愛い。
母も、逆ならよかったのにねぇと笑っている。大人たちは笑うが、禎克は真剣に悩んでいた。「女の子みたいに可愛い」と言う形容詞は、禎克にとって褒め言葉でもなんでもなかった。
お迎えの幼稚園バスに乗っている川俣先生は、毎朝繰り返されるそんな姉弟の様子を、にこにこと笑ってみていた。
「おはよう、禎克君。今日もおねえちゃんに青いスモック、取られちゃったのね~。」
「う……ん。まけた~。」
髪をうんと短く切って、男児にしか見えない姉は快活に朝の挨拶をしていた。
「おはようっす!かわまた先生。」
「おはよう、湊(みなと)ちゃん。今日もかっこいいのね。」
「そんなこと、ないっすよ。つか、かわまた先生、髪型変えたんすね。めっちゃ可愛いっす。」
「や~ん……、湊ちゃんったらちびのくせに、男前~。先生、うっかりときめいちゃうじゃない。」
「湊、嘘は言わないっすよ。先生はまじ可愛いっす。」
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幼稚園バスの一番奥の隅っこに、涙ぐんだ禎克が腰を下ろし、ポケットからハンカチを出してそっと拭っている。姉の湊は一番前の指定席に座って、乗り込んでくる園児たち皆に声を掛けていた。
「湊くん、おはよう~。」
「うっす。」
「今日の髪形素敵ね。」
「お母さんに、イングランドのサッカー選手みたいにしてもらったんだ。こういう髪型、ソフトモヒカンって言うんだよ。」
「湊くんに、似合ってる~。」
「ふふっ、ありがと。君たちもみんな可愛いよ。」
「いや~ん。」
女の子たちは姉のことを「湊くん」と男の子のように呼んだ。運動神経抜群で、かけっこも早くピアノも弾ける、空手の型も道場の模範となる。禎克とは真逆に完成された姉だった。
誰よりも男らしく格好いい万能の「湊くん」と桃色スモックの可愛い「さぁちゃん」の日々はこんな風だった。
そして「さあちゃん」こと金剛禎克に、思いがけない災難が降り注ぐことになる。
新しいお話が始まりました。これからしばらくお付き合いください。
お読みいただけると嬉しいです。
BL……には程遠い幼稚園児からのスタートです。(*⌒▽⌒*)♪←大丈夫なのか、このちん……。(汗)
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