さだかつくんの恋人13
湊は、大げさに肩をすくめた。
「良かった~。さあちゃんたら、やっと大二郎くんと仲直り出来たみたい。」
「え?まだ、仲直り出来てなかったの?そんな風に見えなかったけど。手をつないで行ったわよ。ほら……大二郎くんがお振袖だから、小さな恋人同士みたい~、可愛い。」
「お母さんて、呑気すぎ。さあちゃんなんて、思ってることを中々外に出せない特別ややこしいタイプだよ。湊、喧嘩したままお別れになったら、どうしようって本気で考えてた。」
「あら、そうなの?さすがは、お姉ちゃんねぇ。頼りになる。」
「周囲がしっかりしてないから、湊だけでもしっかりしなきゃね。」
*****
視線の向こうで、禎克と禿のこしらえの大二郎は、帰ってゆくお客様一人一人に、一輪花を渡していた。
「どうぞ、またお越しください。」
「お待ちしております。」
「本日のご来場、まことにありがとうございました。」
花を貰って思わず咽ぶ人、笑顔になる人、帰り際に帯の間に分厚いお花(ご祝儀)を下さる人も大勢いて、いつか禎克は大二郎の傍で、大二郎がするように共に深々と頭を下げていた。
見送りを終えた醍醐が、母親と湊の傍にやってきて、二人に優しい眼差しを向けていた。
「小さいのに大した気配りだ。大二郎がお客様と握手した後に、さり気なく一輪ずつ渡してくれている。さあちゃんは、本当にいいお子さんですね。大二郎が惚れこむわけだ。」
「このまま当地に長く逗留できたら、大二郎も幸せなんでしょうが……。以前は舞台のことばかりだったのに、今は毎日、幼稚園から帰ったら、さあちゃんのことばかり話すんです。いっそ、さあちゃんを、大二郎のためにかっ攫っていけたらと思いますよ。」
「そうなんですか。うちの子も、馬が合うと言うんでしょうか、仲良くしてもらって嬉しかったみたいです。そう言えば、もうすぐ次の興行先に行かれるんですか?」
「はい。今夜遅くに、発つ予定です。夜っぴて走って、明日の午後には最初の興行が始まります。」
「まあ。そんなに早く……。せっかく仲良くなれたのに。」
それでも、残念……とは言えなかった。元より大衆演劇の一座を構えるという事はそういう事だ。新しい興行先で、また出会いを繰り返し、多くの客と一期一会の絆を結ぶ。それが大衆演劇に生きる柏木醍醐と、その息子大二郎の日常だった。
「あの……大二郎くんは、そのことを知って?」
「はい。当初からの予定でしたので、わかっていると思います。毎度のことですから。こういう稼業に生まれた子供は、一番に諦めることを覚えるんです。華やかに見えてなかなか因果な商売です。」
「醍醐さん。あの……お別れは寂しいですけれど、禎克は大二郎くんとお友達になれてよかったと思います。。」
「はい。辛いことや哀しいこともありますが、また新しいお客様の笑顔にお目にかかれます。柏木醍醐は、この稼業が天職と思っておりますから、精いっぱい精進して参る覚悟です。ただ……実は、大二郎がお友達と一緒に居て、あんな風に子供らしい嬉しそうな顔をするのを、はじめて見ました。さすがに、親として胸が痛みます。」
「此度は、金剛さんとも思いがけずご縁が出来ましたし、ありがたい出会いだと思っております。」
「あの……。どうか、新しい親戚が出来たと思って下さいね。必ず近くに来たらお立ち寄りくださいね。お待ちしておりますから。」
「ありがとう存じます。倅ともども、金剛さまには厚いご好誼いただきまして、感謝いたします。いつか再びご当地に参りましたら、ぜひよろしくお願いいたします。」
父親の顔を束の間浮かべた柏木醍醐だったが、、大二郎だけを残してゆくわけにもいかなかった。
あくまでも時代がかったまま、別れを惜しみ本音を隠した。
*****
一か月という、長いようでいて短かった柏木醍醐劇団の興行は、大成功の内に幕を閉じた。
今日でお別れだと知らない禎克は、別れ際、大二郎に大きく手を振った。
「またね。大二郎くん。明日はブロックで遊ぼうね。」
「さあちゃん……、あの、あのね……。」
「またね~!」
「さあちゃん~!」
大二郎は別れを言えなかった。
「さあちゃ~ん!」
(´;ω;`) 大二郎「さあちゃ~ん……」
さようならと言えなかった大二郎くん。これから、二人はどうなるのかなぁ……
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「良かった~。さあちゃんたら、やっと大二郎くんと仲直り出来たみたい。」
「え?まだ、仲直り出来てなかったの?そんな風に見えなかったけど。手をつないで行ったわよ。ほら……大二郎くんがお振袖だから、小さな恋人同士みたい~、可愛い。」
「お母さんて、呑気すぎ。さあちゃんなんて、思ってることを中々外に出せない特別ややこしいタイプだよ。湊、喧嘩したままお別れになったら、どうしようって本気で考えてた。」
「あら、そうなの?さすがは、お姉ちゃんねぇ。頼りになる。」
「周囲がしっかりしてないから、湊だけでもしっかりしなきゃね。」
*****
視線の向こうで、禎克と禿のこしらえの大二郎は、帰ってゆくお客様一人一人に、一輪花を渡していた。
「どうぞ、またお越しください。」
「お待ちしております。」
「本日のご来場、まことにありがとうございました。」
花を貰って思わず咽ぶ人、笑顔になる人、帰り際に帯の間に分厚いお花(ご祝儀)を下さる人も大勢いて、いつか禎克は大二郎の傍で、大二郎がするように共に深々と頭を下げていた。
見送りを終えた醍醐が、母親と湊の傍にやってきて、二人に優しい眼差しを向けていた。
「小さいのに大した気配りだ。大二郎がお客様と握手した後に、さり気なく一輪ずつ渡してくれている。さあちゃんは、本当にいいお子さんですね。大二郎が惚れこむわけだ。」
「このまま当地に長く逗留できたら、大二郎も幸せなんでしょうが……。以前は舞台のことばかりだったのに、今は毎日、幼稚園から帰ったら、さあちゃんのことばかり話すんです。いっそ、さあちゃんを、大二郎のためにかっ攫っていけたらと思いますよ。」
「そうなんですか。うちの子も、馬が合うと言うんでしょうか、仲良くしてもらって嬉しかったみたいです。そう言えば、もうすぐ次の興行先に行かれるんですか?」
「はい。今夜遅くに、発つ予定です。夜っぴて走って、明日の午後には最初の興行が始まります。」
「まあ。そんなに早く……。せっかく仲良くなれたのに。」
それでも、残念……とは言えなかった。元より大衆演劇の一座を構えるという事はそういう事だ。新しい興行先で、また出会いを繰り返し、多くの客と一期一会の絆を結ぶ。それが大衆演劇に生きる柏木醍醐と、その息子大二郎の日常だった。
「あの……大二郎くんは、そのことを知って?」
「はい。当初からの予定でしたので、わかっていると思います。毎度のことですから。こういう稼業に生まれた子供は、一番に諦めることを覚えるんです。華やかに見えてなかなか因果な商売です。」
「醍醐さん。あの……お別れは寂しいですけれど、禎克は大二郎くんとお友達になれてよかったと思います。。」
「はい。辛いことや哀しいこともありますが、また新しいお客様の笑顔にお目にかかれます。柏木醍醐は、この稼業が天職と思っておりますから、精いっぱい精進して参る覚悟です。ただ……実は、大二郎がお友達と一緒に居て、あんな風に子供らしい嬉しそうな顔をするのを、はじめて見ました。さすがに、親として胸が痛みます。」
「此度は、金剛さんとも思いがけずご縁が出来ましたし、ありがたい出会いだと思っております。」
「あの……。どうか、新しい親戚が出来たと思って下さいね。必ず近くに来たらお立ち寄りくださいね。お待ちしておりますから。」
「ありがとう存じます。倅ともども、金剛さまには厚いご好誼いただきまして、感謝いたします。いつか再びご当地に参りましたら、ぜひよろしくお願いいたします。」
父親の顔を束の間浮かべた柏木醍醐だったが、、大二郎だけを残してゆくわけにもいかなかった。
あくまでも時代がかったまま、別れを惜しみ本音を隠した。
*****
一か月という、長いようでいて短かった柏木醍醐劇団の興行は、大成功の内に幕を閉じた。
今日でお別れだと知らない禎克は、別れ際、大二郎に大きく手を振った。
「またね。大二郎くん。明日はブロックで遊ぼうね。」
「さあちゃん……、あの、あのね……。」
「またね~!」
「さあちゃん~!」
大二郎は別れを言えなかった。
「さあちゃ~ん!」
(´;ω;`) 大二郎「さあちゃ~ん……」
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