夏の秘めごと 1
膝を怪我した先輩も、きつい痛み止めを射って同行する。かなりの痛みを我慢しながら松葉杖をつかないのは、対戦相手に手の内を漏らさないためだ。
どこのチームも、ぎりぎりまで手の内は明かさない。先発メンバーを隠す情報戦も試合の内だった。
翌日から慌ただしく、各会場で試合が始まる。
*****
「先輩。足は大丈夫ですか?」
小声で禎克がささやく。
「ああ、走らなければ大丈夫だ。がちがちにテーピングで固めてあるから、球拾いくらいできるさ。それよりも、金剛は大丈夫か?夕べは緊張しないでちゃんと眠れたか?」
「はい。大丈夫です。」
「いくら全中選抜とはいえ、この舞台でいきなりの先発はないよな。すまん。」
「いえ。先輩こそ、初出場でどこまで行けるかって、力入りまくりだったのに。代わりにはなれないですけど、精いっぱい頑張ります。」
練習中にチームメイトと激しく接触し、古傷の膝を悪化させたキャプテンの代わりに、ポイントガードの経験者の禎克がゲームを組み立てる中心になった。
それぞれが持ち場が決まっている以上、新しいポジションに各自慣れる暇はない。
無理を承知の起用となった。
正直、睡眠時間はそれほど取れなかったが、いい意味で気が張っているせいか体のキレは普段よりも良かった。いつものように軽く、ボールを回しパス練習をする。
「金剛!動けてるな。」
「はい、上谷先輩。」
「いいか。下手に頭でパスコースを考えたりしないで、直勘を信じて出せよ。お前がひらめいて出したパスは、きっと相手チームには読めないから。考えすぎたらワンテンポ遅れるから、自分を信じろ。」
「はい。あ、そうだ、上谷先輩。」
禎克はちょいと手招きし、上谷を呼んだ。
「やれるかどうかわかりませんけど、スリー(3Pシュート)だけじゃなくて、練習してきたアリウープ忘れないでくださいね。チャンスが有ったら、狙いましょう。」
「よっしゃ!観客黙らすぞ!」
小さく拳をぶつけて、にっと笑った禎克に、童顔の割に、おまえはとびきりの強心臓だなぁと、上谷は皮肉気に笑った。
「今日は緊張しまくって、飯も食えてないだろうと思ったんだが、心配したことなかったか。」
「ホテルの朝飯、美味かったっす……つか、なんか、鈍いって言われてるみたいなんですけど。」
「ははっ。言ってんだよ。違いないだろ?」
*****
しかし意気込みとは対照的に、やがて始まった試合は、大舞台での経験値の足りない一年生の禎克にとって、正直かなり苦しいものだった。
1クォーターから、一年生の禎克は相手チームの標的になった。
禎克君の恋人、続編です。
今回こそは、大人の階段を登る予定のさあちゃんです。(*/∇\*) キャ~ッ!
でも色気も何もない、試合場面から始まります。しばらくお付き合いください。此花咲耶
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