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小説・若様と過ごした夏・6 

「女中、名は?」


「きゃ!・・・びっくりした。」


不意に声をかけられて、驚いた。


「あ、宗ちゃんもお墓参りに来てたの?」


「そうだ、水入れにお水あげてくれる?」


「・・・わたしがか?」


気が付いた、佳奈叔母さんが血相変えてやってきた。


「若様。それをこちらに。」


「うん。」


何?親子で時代劇ごっこ・・・・?


若様って・・・苦笑だよ、もう。


夕立が来るのだろうか。


西から急に、黒い雲が湧き上がってきた。


ゲリラ豪雨って、都会だけのものだと思っていたのに、最近田舎でも・・・


きゃ~~!何これ・・・!


ひど~~い!


一気にバケツをひっくり返したみたいな、水の量。


大粒の雨なんて表現じゃ足りないくらい。


突然の大雨に、少し下の大木の側に行こうと焦ったあたしは、あっと思った瞬間、急勾配の苔むした石段で思いっきり足を滑らせた。


「あっ!」


「真子ちゃんっ!」


佳奈叔母さんの金切り声。


・・・ああ・・・


落ちる時って意外とスローモーションな感じなのね。


運動神経の無さが、こんな所で発揮されるなんて・・・ご先祖様、真子は死んでも生きていますように。


ふわっとつんのめって、そのまま転がり落ちたはずだった。


「女中!」


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