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小説・若様と過ごした夏・8 

「あいつ、篠塚家の6代目の息子らしいぜ。

俺と同じ名前で宗太郎ってんだ。

ほら、落城して死んだ城主のせがれだって。」


そこに姿が見えるから、頷くしかないけど何か不思議な感じ。


「女中、苦しゅうない。

そちの名を申せ。」


佳奈叔母さんが目配せした。


「篠塚真子です。

・・・て言うか、何ではなっから女中呼ばわりされてるのか、意味わかんないんですけど。」


宗ちゃんが、こっそり耳打ちした。


「今年は篠塚家の区切りの大法要があるだろ。

なんだかよくわからないんだけど、この世に未練があるらしいんだ、あいつ。」


よく見ると、どこか歌舞伎の・・・梨園っていうんだっけ?


そんなところの初舞台の子みたい。


紋付の紺の着物に、縞の袴で腰に小さいながら刀を差している。


・・・口の利き方だけでなく、格好まで生意気。

「つまり、あいつは俺らのご先祖様ってわけだ。」


「ええ~~っ!」


思わず、素っ頓狂な声がでてしまった。


「かまびすしい、女中じゃ。」


なんだ、この上から目線・・・


「いつから、そんなことに?」


「この間、寺から大法要の案内が来てさ、一族郎党集まって来るってんで、墓掃除に行ったら帰りにこいつが憑いて来た。」


宗ちゃんの言う大法要は、遠いご先祖様の城主が、誰かに滅ぼされてから始まったらしい。


家臣も大勢亡くなったので、不幸にして亡くなった魂を鎮めるために毎年行っている篠塚家の行事なのね。


今年は、何百年かの区切りなんだそうだ。


元々、霊媒体質(?)の宗ちゃんに、帰ってきたご先祖様が憑いたらしかった。


実は、篠塚の家のものは、そういった人が多い。


友達にも言ったことはないけど、あたしもどうやら、そうみたいで良く感は当たる。


意識して、余計なものは見ないようにしてるけど。


ともかく、このちんまりとしたご先祖様は、宗ちゃんが毎週行ってるお墓の掃除に行ったら、墓石の前にたたずんでいたらしかった。


「でもさ、落城したんだったら、でてくるのはもっと凛々しいお殿様とかじゃないの?

あんな、ちっこいんじゃなくて。」


「わたしは、母上に会いたかったのじゃ・・・」


なんだか切実な話みたいだった。


「兄上と母上は、どこにいるのだろう?」


「その方、知らぬか・・・?」


「わたしは、母上に会いたいのじゃ・・・」


いかんっ・・・そんな悲しそうな目であたしを見るな。


自慢じゃないけど、困ったことにあたしはやたら弱ったやつ、つまり「へたれ」に弱いのだった。


ほら、横を向いてうつむいた目元に、涙が溜まってるのは危険よ。


つつっ・・・と頬に一筋、涙が流れた・・・


う~・・・お姉さん、一肌脱いじゃいそうだ・・・

駄目だ、真子、気を確かにっ。



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