2ntブログ

小説・若様と過ごした夏・10 

強引に納得したところで、あたしは向き直った。


「ちょっと。」


「なんじゃ、女中。」


な、なんだとぉ~このちび侍が・・・・と切れそうになるのを押さえてあたしは言った。


「もう、家の者には視えてるんだからさ、宗ちゃんに憑かなくてもいいんじゃないの?」


「でてきて、ここに座れば?」


「女中の分際でわたしに、指図いたすな。

何度も、頭が高いと言っておろう。」


ちんまりとしたちび宗ちゃんが、悪態ついて離れたとたん宗ちゃんは(ややこし~)やたらと咳き込んでいた。


一般的に、霊に憑かれると体力は、相当消耗するものらしい。


「言っておくけど、あたしはあんたの女中じゃないっ!」


宗ちゃんから離れた、ちび宗ちゃんの霊体を捕まえた。


真子をなめるなよ。


こう見えても、町を歩いてていきなり見知らぬおじさんに

「これはすごい、修行を重ねた修験者並みの力じゃ」

って言われたくらい霊力は強い(らしい)んだからっ!


全然、意識したことないけどっ!


「はっ、離せ、無礼者!」


「いいよ、ここで離しちゃって良いのね。」


ぷら~ん・・・・


「はっ、離すな!」



あたしは、二階の窓からわめくちび宗ちゃんをぶら下げた。


「真、真子。いくら何でも、それは・・・」


「宗ちゃん、止めないで。

これは、躾(しつけ)よ。」


考えても見てよ。


元々、その辺りをふわふわ飛び回っている霊を、軽くぶら下げたってどうってことないのよ。


「離せ~~!無礼者!」


おそらく、どんなに泣き喚いても篠塚の家系じゃない限り世間にはきっと声も聞こえないはず。


あたしには妙な確信すらあった。


この際、どっちが上かはっきりさせようじゃないの。


実体あるほうが強いんだから。


「その方、備前長船の刀の錆にしてくれる。」


「卑怯者~!」


「女中の分際で、身の程知らず~。」


「はい、はい。」


霊体なので重さは殆ど感じなかった。


しばらく大騒ぎしていたけど、そのうち借りてきた猫みたいに静かになったので、話をすることにした。


膝を揃えてしょんぼりとしおれかえった、ちび宗ちゃんは先までの威勢の良いのはどこへやら、えぐえぐと涙に濡れていた。


これまでこの若様は、こんな目に合ったこと無いんだろうと思う。


・・・ちょっと、やりすぎちゃったかな。


そして年相応の子供らしく、でも武士らしく、ちび宗ちゃんは語った。


関連記事

0 Comments

Leave a comment