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小説・若様と過ごした夏・11 

「方々には、重々お詫び申し上げる。」


「これまでの失礼の段は、この通り。」


両手で綺麗な三角を作って、ちび宗ちゃんはお行儀よく頭を下げた。


「突然、周囲の様子が変わって驚きのあまり、宗太郎殿に取り憑いてしもうたのじゃ。」


「余りに取り憑きやすかったので、居心地が良く。

つい何度も入ってしまった・・・」


「わたしは、これからどうすればよいのであろう・・・」


「じょちゅ・・・真子とやら。その方は大層な法力の使い手のようだが、わたしの兄上と母上の行方はわからぬか?」


言い回しには、なれないけどちび宗ちゃんが身内を探して迷っているのは確かなようだった。


そういえば、前にも言ってたね。


「いつから、わからなくなったの?」


「城が、落城した折に。

わたしはその時、焔にまかれて死んだのじゃ。」


「鎧戸の隙間から、落ち行く者共が見えたが座敷の格子がどうしても外れず・・・」


「・・・皆、済んだ話じゃ。」


落ち着いた口調だったけど、うつむいたちび宗ちゃんは涙声だった。



篠塚宗太郎正英には、焔に巻かれた以外に、悲しくて深い過去があったらしい・・・


詳しい話は分からなかったが、そのことだけは、判った。


後であたしは、胸の痛くなるような事実を知ることになる。


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