沢木淳也・最後の日 29
*****
「し、周二くん。そ……そんなに強くしごいちゃだめ……」
「こうか……?」
「だめ。出ちゃう……出ちゃう。乱暴にしちゃ、先っちょから垂れちゃう……。」
「ええいっ!まだるっこしいっ!もう、そこいらに塗りたくって、苺でも乗っけとけばいいじゃねぇか。かせって!」
「や~~ん。」
ボールで追加の生クリームを泡立てていた木本は、ぷっと吹いた。
「まったく。沢木の旦那には、聞かせたくない会話ですね。何をやってんだって、まじで銃口向けられますよ。」
「まったくだよ!大体さぁ、しごいちゃだめ……じゃなくて、生クリームは絞っちゃだめって言うんじゃねぇのかよ。隼のピンクのぞうさんなら、今すぐ扱きたいけどなっ。」
「(´;ω;`)う……りゅ。ぼくが作ったクリスマスケーキ……周二くんは食べたくないんだ……こんなに、がんばってるのに……も、いいよ。パパの病院にクリスマスケーキ持ってってみんなで食べようって思ったけど、できなかったって言うもん。」
正しくは木本が焼いたスポンジに、隼が生クリームでデコレーションしているだけなのだが、涙ぐんだ隼に周二は慌てた。
「いや……っ!隼の手作りが食えるなんて、俺はまじでうれしいぞ。ほら。この辺のクリームの角の立ち方なんて、パティシエとかも思わず裸足で逃げ出す勢いだなっ!なっ!木本っ!お前もそう思うよな?」
木本は真面目くさって答えた。
「ケーキのデコレーションって言うのは、センスですからね。ねんねには……木本はいつも脱帽です。」
「ほらっ!木本もああ言ってるじゃねぇか。機嫌治せよ、な?」
「……ん。じゃあ、もう少しだから手伝ってね。」
「お、おうっ!」
周二は隼の作ったマジパン(菓子)の飾りを見て思わずごちた。
「こ……個性的だなぁ、隼。」
「うふふ~。可愛いでしょう?これ、何かわかる?」
「これか~?なまは……」
「周二さん!ねんねの作ったサンタは、特別可愛いですよね!」
「お……おうっ!そうそう、サンタな!サンタ!サンタ以外の何者でもないなっ!ほら、なんたってクリスマスなんだから。そうだよな~、隼?」
さすがに木本の目配せに気付いた周二は、マジパンで作られた小さな人形が、なまはげではなくサンタクロースだったのだと、すんでのところでごまかした。
「うんっ。ちょっとだけ、顔が赤くなっちゃったから、周二くんがサンタさんじゃなくなまはげとか言い出したらどうしようかと……ん?なまはげ……?」
隼は周二をじっと見つめた。
「周二くん。なまはげって言おうとした?」
「……まさか~。」
「ぼくが作ったサンタさん……ひくっ。」
図星だった。隼の頬を涙がポロリと転がった。
「隼!違うんだ。なまは……なまハ……ムだ!生ハム食いたいなって言いたかったんだ!ほら、ケーキだけじゃなくてさ、メロンに生ハムとか、フライドチキンとか持って行こう。な?」
「……ん。パパ、このケーキ喜ぶかな?」
「隼の作ったケーキ食ったら、くそ親父の怪我もあっという間に治っちまうって。」
「うん!周二くん、ぼく頑張る。」
「よし、そうと決まったら、早いとこクリーム塗りたくって、マンモスイチゴとなまはげ飾るぞ。」
「周二さんっ!」
「あ。」
隼はピンクのエプロンの紐をしゅっと解いた。
「わ、わたくし……実家に帰らせていただきます。」
「隼!あっ、ま、待てっ!」
「うわ~~~~ん!パパの所に行く~~~!」
泣きぬれた隼をなだめるのに、それから小一時間もかかった周二だった。
ウワァァ-----。゚(゚´Д`゚)゚。-----ン!!!!隼「パパ~~!」
\(゜ロ\)(/ロ゜)/周二「だから、え~と、サンタがなまはげで、生ハムで、メリークリスマスで……」
( -ω-)y─┛~~~~木本 「成長しませんねぇ、周二さん。」
本日もお読みいただきありがとうございました。(*⌒▽⌒*)♪ 此花咲耶
- 関連記事
-
- 年賀状のこと (2012/12/26)
- 沢木淳也・最後の日 32 【最終話】 (2012/12/25)
- 沢木淳也・最後の日 31 (2012/12/24)
- 沢木淳也・最後の日 30 (2012/12/23)
- 沢木淳也・最後の日 29 (2012/12/22)
- 沢木淳也・最後の日 28 (2012/12/21)
- 沢木淳也・最後の日 27 (2012/12/20)
- 沢木淳也・最後の日 26 (2012/12/19)
- 沢木淳也・最後の日 25 (2012/12/18)
- 沢木淳也・最後の日 24 (2012/12/17)
- 沢木淳也・最後の日 23 (2012/12/16)
- 沢木淳也・最後の日 22 (2012/12/15)
- 沢木淳也・最後の日 21 (2012/12/14)
- 沢木淳也・最後の日 20 (2012/12/13)
- 沢木淳也・最後の日 19 (2012/12/12)