沢木淳也・最後の日 24
初めて自分自身を認めてもらった気がしていた。何も逡巡することなく真っ直ぐに頑張ったと認めてもらったのが嬉しかった。もっと、早く沢木と出会っていたら……と思わずにはいられない。
この先自分がどうなろうと、荻野慶介の手から沢木を守りたかった。
「雄ちゃん~。コーヒー飲んだらベッドへ行こう?」
「けいちゃん。寒いから部屋を暖めて。ね?」
「わかった。あ~あ、雄ちゃん、スーツのボタン飛んじゃったね。新しいの買わなきゃ。」
どこか子供のようになってしまった荻野慶介を見つめて、鹿島雄一は涙ぐんだ。出会った小学生のころからずっと、荻野だけが鹿島の理解者だった。
ここまで墮ちてしまった以上、今更、荻野の手を放すわけにはいかないと思った。
寒さで粟立った互いの肌を、冷たい指が這う。
「雄ちゃん……乳首、固いねぇ。」
「気持ちいいからだよ。けいちゃん、もっと触って。温かくなるまで、強くこすって。」
「いいよ……。僕は何でも雄ちゃんの好きなようにしてあげる。」
「けいちゃんは、いつも優しいね。好きだよ、けいちゃん……ずっと、一緒に居ようね。」
どれ程時間をかけても鹿島の持ち物が、芯を持つことはなかった。破滅だけが二人に優しくしくれるのだと思う。
*****
やがて、気の毒な犠牲者を車に押し込み、荻野は出て行った。
出てゆく前に荻野が一瞥した沢木は、微動だにせず固く目をつむったまま寝台の上に居た。……正しくは、少しずつ戻る感覚を確かめながら、気配だけを読んでいた。
「行って来るね。直ぐに帰って来るから、待ってて、雄ちゃん。」
「うん。」
荻野は機嫌よく出て行った。積み込んだ遺体の手術には自信がある。
果たしてその後のニュースは、荻野の想像通りの結果を伝えた。
『……○○河川敷にて、30代~40代の男性の遺体発見、連続死体遺棄事件との関わり濃厚。身元を明らかにする目立った所持品などは発見されず……』
『犠牲者は連続遺体遺棄事件の捜査にかかわっていた、沢木刑事と断定』
鹿島は手術室までやって来ると、沢木の頬に触れ声を掛けた。
「沢木さん。気付いているんでしょう?もうお分かりですよね。全て僕と荻野がやりました。」
鹿島の言葉に、沢木は薄く目を開けた。
終幕へと向かいます。
鹿島に救いはあるのか……
本日もお読みいただき、ありがとうございました。(〃゚∇゚〃) 此花咲耶
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