沢木淳也・最後の日 19
隼が、木本の方を見た。
「木本さん……今の、周二くんのパパから?」
「はい。」
「面通しに来いって電話ですよね?署長さんから、ぼくに検死に来てくれないかって電話があったんですよね。」
「隼。」
周二は悲愴な顔で、最愛の恋人を見つめた。
「その位わかるよ。ぼくは刑事の息子で、パパのただ一人の身内だもの。行かなきゃ。周二くん……一緒に警察に……行ってくれる?」
「ずっと傍に居る。」
「もし、ぼくが崩れそうになったら、しっかりしろって叱って。」
「わかった。」
周二には、隼を抱きしめるしかなかった。この小さな身体に、これから向かう残酷な現場が耐えられるだろうかと思う。
小刻みに瘧(おこり)のように震える隼は、これから河川敷に遺棄された遺体を、父親かどうか確認するために警察の遺体安置室へと向かわなければならない。
そして、それが父親だと確認できれば、遺体は検死の後、大学病院まで運ばれて法医の司法解剖を受けることになるだろう。
「木本さん。アップルパイ……残してしまってごめんなさい。」
「気にするな、ねんね。送っていくからな。」
「はい。じゃあ、上着を取ってきます。」
周二はソファにどさりと腰を落とした。隼を支えてやらなければと思うが、正直、支えきれるか不安だった。目にするのが、もしも隼の父親の遺体だとしたら、本人よりも自分の方が狼狽してしまいそうだ。木本は落ち着かない周二を見やった。
「周二さん。何かしようなんて思わなくてもいいと思いますよ。周二さんは、傍に居るだけでいいんです。ねんねは、周二さんが思っているよりも、はるかに肝が据わってますから大丈夫です。」
「ああ……だがよ。たまんねぇんだ。いっそ、泣き喚いてくれた方がいい。あいつが女ならセクスでもすりゃ、一時は忘れさせることはできるけど、あんなふうに倒れそうな顔して気張ってる隼は、いつ壊れるか心臓に悪りぃ。可哀そうで、たまらなくなる。隼の親父も因果な商売だな。」
「そうですね……、今は落ち着いていますけど、発作が出たら厄介ですからね。」
隼は内面に未だに癒えない深い傷を抱えている。それを知っている木本も松本も暗かった。どうしても最悪の事態を想定してしまう。
(´・ω・`) 隼「……」
本日もお読みいただきありがとうございます。
段々、大変な方向に…… 此花咲耶
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