沢木淳也・最後の日 20
「隼君。こんなことになってすまないね。」
「いいえ。パパの身内は、ぼくしかいないから。」
「そちらは木庭組の?」
「はい。親父の代理で参りました。木本と申します。」
「商売上手らしいな。木庭(組長)が喜んでいたよ。」
「いえ、まだまだ若輩者です。今回は、沢木君がうちの周二さんの級友なんで、こちらに来るのはさすがに尻がこそばゆいんですが、お邪魔しました。」
「そうだったのか。不思議な取り合わせだと思っていたよ。同級生なのか。」
隼はうん、そうなの。仲良し。と頷いた。
「こっちだよ。」
署長自ら、遺体安置所のある別棟まで案内してくれた。
大切な部下の家族を前に、署長も歯切れが悪かった。しかも隼の事を昔からよく知っていたから尚更だった。
「隼君……大丈夫かい?その初めて見るだろうけど……死体と言うのは、なかなかよそよそしくてね。しかも少しばかり、状態が良くないんだ。傷付けられていてね。」
「ぼくは……大丈夫です。いつもパパが、パパにどんなことが遭っても……覚悟だけはしておきなさいって言ってるから。」
「そうか。沢木は君にそんなことを。」
扉を開けると、すぐに横たわっている姿が見えた。
ステンレスの寝台の上に、何もつけない状態であおむけに置かれた遺体がある。身体の中央に、申し訳程度にバスタオルだけが置かれていた。扱いは雑と言って良いくらいだ。確認作業が済むまでは、たとえ身分がどうであろうと遺棄死体はどれも同じ様に扱われる。
隼は遺体の傍に静かに近付いた。
*****
これまでに発見された遺体と同じように、随所に暴行を受けた痛ましい姿だった。髪は引きちぎられるように乱暴に切り刻まれたらしく、傷ついた頭皮に血が滲んでいた。指先は焼かれ、指紋の採取は出来ない。ひどく殴られたせいで、苦悶の表情を残した顔は腫れ、歪んでいた。隼は知らなかったが、ただ一つ幸いなことに、その腹にディスクを入れたポケットはなかった。
覗き込んだ隼が、ごくりと息を飲む。
腹に置かれたバスタオルを手に取ると、隼は視線を巡らせて、縋るように周二の顔を見た。
大きな瞳から、ぱたぱたと涙が溢れた。
「周二……く……」
「隼―――!!」
そのまますとんと力が抜けて、隼はその場にへたり込んだ。
|ω・`) ……つ、続く~
このちん、「ドs」ではありませんことよ……。
本日もお読みいただき、ありがとうございます。此花咲耶
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