沢木淳也・最後の日 21
周二の呼びかけに、隼は力なく頭を振る。
振り絞るように、言葉を発した。
「違います……この人は、パパじゃない。」
だが、そこにある遺体の顔は誰もが知る、沢木淳也の顔をしていた。きっと間違いであってほしいと言う気持ちが強すぎて、隼は願望を口にしたと周二は思った。周二が見る限り、高い鼻梁も額も沢木のものだ。思わず周二は、隼を引き寄せた。
「隼。動転するのも判るけど……なぁ、良く見て間違えんなよ?」
「ぼくが、パパと誰かを間違えるはずないよ。パパはお腹に傷があるもの。ぼくが小さい頃、入院してたことが有るの。抗争に巻き込まれて撃たれて重傷を負って……ぼく、施設に預けられていたから覚えてる。」
「そうだった。沢木には右わき腹に古傷が有ったな。よく覚えていてくれた、隼君。」
「そうなのか?隼。」
「この傷は古い傷を隠すために、作られた傷じゃない。同じ場所につけられた新しいものだよ。古い傷痕の痕跡がないもの。署長さん、詳しく調べてください。お医者さまが見れば、きっとわかると思います。」
「よし!」
色めき立って署長は直ぐに、各方面に手配をした。巧妙に細工をされた遺体は沢木淳也のものではない。だが、マスコミには遺体は「沢木淳也」のものとして発表された。
そして、隼はどこのだれか分からない遺体に、長い間手を合わせていた。もしも、沢木の為に殺されたのだとしたら、誰かが泣くことになるかもしれない。
沢木の代わりになったのだとしたら……と思うと、たまらなかった。
*****
「ねんね、偉かったなぁ。」
話を聞いて涙ぐんだ松本が、隼の好きなグレープフルーツジュースを急いで運んできた。
「松本にも見せたかったぞ。隼は肝が据わってるって木本も言ってたが、本気の隼はまじで凛々しかった。二度惚れしたぜ。」
「周二くんが一緒に居てくれたからだよ。ぼくね……周二くんが一緒に居てくれると、いつも心が強くなるんだよ。」
「そうなのか?」
「うん。だって、ぼくが周二くんを守らないとって思うから。ぼく、お兄さんだもん。」
「がんばるからね……」
え~と。
いろいろ間違ってるけど、今は良いと思う。周二は、隼を抱きしめ甘い匂いをかいだ。
今は、抱きしめているだけでいい。ほっと小さく息を吐いた腕の中にいる小さな体が、丸くなって寝息を立てた。
今だけは、ゆっくり眠れ、隼。
くそ親父が見つかったら、思いっきりあんあん言わしてやるからな。それまでは、ぴんくのぞうさんとは、しばしの別れだ。
ぱお~……
(〃゚∇゚〃) ほら、このちんドsじゃなかった~♪
本日もお読みいただき、ありがとうございます。此花咲耶
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