桃花散る里の秘め 19
対する高坂も思案を巡らせているようだった。
出血は思ったよりも酷いのだろうか。じんじんと熱いだけで痛みはなかったが、目がかすむ。
共に三すくみのように視線を絡ませ黙したままだったが、やがて義高が口を開いた。
「まだ、大姫さまにはお話して居りませんが、わたしは……いずれは武士を捨て、国境の山中で暮らそうと思っております……」
訝しげに見つめる高坂は、青ざめた義高の心の内をはかりかねていた。一体なぜ、そのようなことを言い出したのかわからなかった。
人質とはいえ義高は、文武両道、人柄も良く国許では部屋住みの三男という事だったが、おそらくどこぞの大名の跡取りに推挙されるだろうともっぱらの噂だった。
跡取りの無い大藩では、他藩から優れた男子を呼んで面接し、選んで養子に迎え家名を継がせることが多い。
「……いずれ、他藩に養子に行けばよいではないか。大槻殿なら、どこでも喜んで迎えてくれるだろう。教授方もそのような話を、父上にしておった。」
ふっと義高は笑った。
「買い被り過ぎですよ……。わたしは武門のほうは、高坂殿には遠く及びません。文の方もそうです。許されて藩校に行ったとき、わたしには最初殆どわかりませんでした。……必死だったのです。何しろ、人質ですから……殿の意向一つで、いつ胴体と頭が離れるかわかりません。」
「いつも自信にあふれているように見えた。」
「常に片意地を張っていただけです。小心者が大姫さまに弱い自分を見せたくなくて、必死に頑張ったのです。」
「……好いておるのか?姫が男子であっても?」
「はい。」
躊躇することなく、義高はまっすぐに告げた。
「心細くてどうしようもない幼い時、大姫さまはわたしの闇を照らす灯明でした。灯明に男子も女子もありませぬ。」
「そうか……それほどまでに。」
「ただ、わたしは大姫さまが高坂殿と一緒になって、この後……ずっとお幸せになるのなら、邪魔立てする気はございませんでした。なれど……高坂殿は……大姫さまが男子だからこそ、娶りたいと思われたはず……ち……がいます……か?」
ずる……と、社の扉にもたれた義高の身体が滑った。
「わたしは……義高は、天地神明に……誓ったのです。命を賭して大姫さまを……大津さまをお守りする……その為なら武門も捨てる、名も……捨て………」
「お、大槻殿!死んではならぬ!」
崩れた義高に、高坂が駆け寄った。
カタ……とつっかいが外れた。
Σ( ̄口 ̄*)高坂 「あっ!?」
(´・ω・`) 大津 「義高さまが心配……」
本日もお読みいただきありがとうございます。(*⌒▽⌒*)♪
いよいよ終盤です。此花咲耶
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