風に哭く花 18
柏木は自分の場所にパソコンを持ち込んで、作業をしていた。画像を加工して、昏くするのは容易い。昏い画面の中で、少年が苦悶の表情を浮かべていた。
「やっぱり声はまずいな。可愛い声なんだけどねぇ、身バレしちゃ元も子もないから、背後も消そうか……っと。」
画面の中で、蟻地獄に引き込まれた羽虫のように、張り付けられた翔月が自由を求めてもがいていた。
柏木は愛おしそうに、画面を指でなぞった。
「もうすぐ、予選が終わるね、更科翔月君。そうしたら、君は僕の所に来るんだよ。先生には君が判っているからね……荏田君には悪いけど、君は僕のモノだよ、うさぎちゃん。」
くつくつとこみ上げる笑いを、噛み締め切れず、柏木はついに声を上げ哄笑した。翔月の嫌いな下卑た歪んだ笑い声が響く。
*****
柏木は思い出す。
勇気を振り絞って自分の前に立った翔月の、握り締めた拳は小刻みに震えていた。
優しく脅して衣服を取り払ってやれば、蒼白で怯える翔月の頬は冷たかった。だが、ささやかな持ち物が、ふるりとそそり立ったのを柏木は見逃さなかった。
怖気ながら全身で拒絶する翔月の中に、柏木は自分と同じ深い闇を見て悦んだ。
更科翔月は、柏木の言葉に震えながら確かに屹立していた。
どれほど本気で抗ったとしても、密かに流れる被虐の血は確かに兆候を示していた。恐らく荏田青児も更科翔月本人も知らないはずだ。
下半身だけを裸に剥いた時、肌を這う指に粟立ちながら、翔月の腰は揺れていた。やっと見つけた無垢な理想の少年を、少しずつ自分好みへと換えてゆく。
柏木の描いた計画通り、少しずつ事は運んでいた。
*****
盛夏
真っ青に輝く空の下で、青児は躍動していた。見つめる翔月の前で、二個目の勝者のボールを掴むと、自慢げに応援席の翔月にかざして見せた。
ベスト8進出、学校設立以来の初めての快挙に、応援席は湧いた。
喧騒の中、視線だけを絡ませて二人は別世界に居た。離れていても、青児と翔月の心は近かった。
その日の夜、互いに持つ白いボールに、青児が試合の日付と自分の名前をかき込んだ。
「此処に、翔月の名前も書けよ。」
「ううん。青ちゃんが頑張った日付が入ってるだけでいい。このボールを見るたびに、きっとぼくは思い出すよ、青ちゃんの事。」
「翔月……?」
「ほら、もうすぐ夏休みだってことだよ。さすがに炎天下の練習の見学には付き合えないし。今回、成績酷かったから、親と相談して塾に行くことにしたんだ。」
「ああ、塾の話か。ん~、そうだよな。そろそろ進路も考えなきゃな。」
「青ちゃんは運動しながら、勉強も出来てすごいよ。……ぼくは、このままじゃ行ける大学ないからね。青ちゃんが野球頑張る間、勉強することにしたんだ。だから……しばらくは会えないけど……青ちゃん、泣かないでね。」
青児は手を伸ばし、さっさとTシャツをたくし上げてしまった。
「翔月に会えなかったら、欲求不満で絶対泣く。つか、おれに会えなかったら、翔月も寂しいだろ?」
じっと見つめる青児の視線は優しい。思わずすべてを打ち明けて、縋ってしまいそうになったが翔月は踏みとどまった。
「寂しいけど……ぼくも頑張らないとね。」
「くそ~。何で、勝手に悟りきった事言ってるんだよ。翔月はおれの後にくっ付いているんだとばかり思ってたのに。」
「人は成長するんです~。」
「翔月のくせに、生意気だぞ~。」
「あはは……ジャイアンだ。」
くすぐられて翔月は声を上げた。
上からふわりとキスが降りてくる。
求められて甘い吐息が零れる。
「好きだよ。青ちゃん。」
自分から求めて腕を伸ばした翔月を、青児はそのまま組み敷いた。
本日もお読みいただきありがとうございました。(〃゚∇゚〃)
此花の住んでいるところは、今日は室内温度38度だったらしいです。
まだ7月なのにね~(´・ω・`)
みなさま、気を付けてね。
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