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風に哭く花 19 

そして、ベスト4を決める準々決勝。
連投でここまで善戦してきた青児は、ついに力尽きた。
祈るように見つめる翔月の目の前で、金属バットの小気味よい音が響き、白球は外野スタンドに吸い込まれていった。
しばしの静寂の後、敗者へのねぎらいの拍手が沸き起こった。

「終わった……」
翔月と青児は同時に空を見上げ、呟いた。
同じ言葉だったが、同じ意味を持たない。

*****

その日の夕刻、約束通り翔月は柏木の元を訪ねた。
にこやかに翔月を迎え入れた柏木は、生物実験室で弄っていたPCを指した。

「自宅から持って来たんだ。最近、君は野球部の応援で忙しかったから、寂しくてね。映像の君の姿に欲情していたよ……でも、もうそれもお終いだ。お帰り、うさぎちゃん。ちゃんと約束を守ったんだね、いい子だ。」

足を進めた柏木に、思わずごきゅと、翔月の喉が鳴る。強張った顔は、覚悟を決めていた。柏木は肩を抱き、覗き込んだ。

「教えてあげようか……?僕が動画を投稿したサイトでは、君のことが誰なんだろうって話題になっているらしいよ。掲示板の書き込みを見ると、色々と噂になっているみたいだ。制服のタイから、もうこの学校も割り出されているようだね。」

「え……っ、投……こう……?」

思いがけない話を聞かされて、翔月は理解できず訝しげな顔を向けた。

「ふふっ……知らないのかい?最近は、素人が自分達の絡みを堂々と動画としてアップするんだよ。」

「そんな……」

「心配しなくても、誰か判りはしないよ。ちゃんと画像を加工してあるからね。もっとも、君がその気なら顔出ししてあげてもいいんだよ。タイトルはどうしようか。そうだな……「幼馴染」……なんて、いいね。顔をすげ替えるくらい、簡単な作業だ。」

翔月は何も答える事が出来なかった。力なく否(いや)と、首を振ることしかできない。
そんな恐ろしい話は、これまで一度も聞いていない。背筋を冷たい汗が流れた。

ついこの間、PCに映像を保存した話を聞き、足元から崩れ落ちるほどの絶望の感覚を味わった。
それだけで茫然とした翔月に、柏木はさらに追い打ちをかけた。
動画投稿の話は初耳だった。どんどん追い詰められてゆくような気がする。どこでどう間違ったのか。雁字搦めの罠に絡まって捕食される自分の姿が見えるようだ。

翔月に触れる指先から、染み付いた薬品の匂いが微かに鼻をくすぐる。

「このまま、僕の家に行くかい?どうせ誰にも気兼ねのない一人暮らしなんだ。誰かと一緒に過ごせるなんて、嬉しいね。恋人以外では、僕の部屋に入るのは君が初めてだよ、うさぎちゃん。早く、僕のいい人に君を紹介したいよ……。」

さわさわと指先が走る度、怖気が走る。
翔月は虚しい嘆願を口にした。

「どうすれば……先生。ぼくはどうすれば……いいんですか……」

にっと片方の口角だけを上げる不遜な笑みを浮かべて、柏木は愉快でたまらない様子だった。

「うさぎちゃん。そんな悲しそうな顔をしないで。可哀想でたまらなくなるよ。……言っただろう?僕はいい子には優しいんだ。」





(´・ω・`) どんどん追いつめられてゆく翔月、可哀想に……←書いといて。

此花はいじめっ子ではないので、いじめっ子場面にはとても時間がかかるのです。■━⊂( ・∀・) 彡 ガッ☆`Д´)ノ
不定期更新が続いておりますが、よろしくお願いします。 此花咲耶


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