風に哭く花 20
「荏田君も知らない本当の君を見せてあげるよ。ほら……一人で、ここにおいで。場所は分かる?」
翔月は柏木の住所が書かれたメモを受け取ると、ポケットにねじ込んだ。
自分が考えるよりも常に先手を打つ柏木に、どう対処すればいいのだろう。
もしも、柏木の言うのが事実ならば、投稿しているサイトを知らねばならない。動画を削除するには、そこに入るパスワードがどうしても必要だった。
パスワードを手に入れるために、何が翔月を待っているのか、想像もつかなかった。
「……青ちゃんには……言えない……」
翔月はふらふらと、夕暮れの学校を後にした。
*****
青児から翔月を奪い取ることに成功したと思っている柏木は、その後、翔月を迎え入れて、上機嫌だった。
空き部屋の多い古いマンションの部屋に、ついに翔月を引き込んだ柏木は、まるで久しぶりに会う恋人に接するように饒舌に語った。
促されてソファに腰掛けた翔月を、柏木は背後から抱きしめた。
「よく来たね、うさぎちゃん。胸がどきどきしてる。何か飲む?」
「いえ……。」
「そんなに固くならないで気を楽にして。ここは教室ではないのだからね。取りあえず、汗を流そうか。おうちには、友達の家に行きますって言って来た?明日は休みだから、今夜は泊ってゆくんだよねぇ?先生と気持ちいいこといっぱいしようね。」
翔月は思わず、ズボンのポケットに入れたボールを握り締めた。柏木の真意が見えない。
探るように口を開いた。
「先生……先生が投稿した……ぼくの動画ってどんなのですか?」
「気になるの?」
「はい……」
「そう?じゃ、シャワーでも浴びて、二人でゆっくり見ようか。中々、扇情的に色っぽく撮れてるんだよ。早く見せてあげたいな……」
「あの……。ぼくは……お風呂はちゃんと湯を張って入りたいです。シャワーだけだと、何かさっぱりしないから……あの……駄目ですか?」
「駄目なことなどあるものか。君が望むなら、なんでも聞いてあげる。辛くないようにお湯の中で、ゆっくり時間をかけて後ろを解してあげようね。僕のモノは、きっと荏田青児のモノよりは大きいはずだから、慣らしておかないと、身体を傷つけたら大変だ。」
「……」
むなしく時間稼ぎをしようとした翔月を、わざと手酷く煽るように、柏木は言葉を選んでいる。
柏木もまた、涙をこらえて俯く翔月の目元が染まるのが好きだった。
僅かな時間しかたっていないはずだが、恐ろしく長い時間二人きりで対峙している気がする。数時間前に別れたばかりの、青児の声と、自分に触れるまめだらけの武骨な手が恋しかった。
*****
「あ、来たかな……?」
玄関先の物音に、待ちかねたように嬉しげに柏木が立ち上がる。
翔月は不安でいたたまれないまま、じっと様子を伺った。誰かがこの場に来ることなど、何も聞かされてはいなかった。
「俊哉!」
現れたのは長身の青年だった。どこか冷血動物を思い起こさせるのは、ラメの入った黒いシャツと、すっきりとした切れ長の目元のせいだろうか。抑揚の無い声と冷ややかな真っ直ぐな視線は、翔月を射すくめ不安にさせた。初対面の男はじろじろと、まるで値踏みをするように翔月を眺めた。
「直樹、この子なの?」
名前を呼ばれた柏木が、笑みを浮かべてしなだれかかった。
「うん、そうだよ。更科翔月君というんだ。小さくて可愛いでしょう?僕の大切なうさぎちゃんだよ。俊哉も一緒に可愛がってあげてね。」
「ほんの子供じゃないか。ずいぶん執心しているようだったから、もっと……熟れている子を想像していたんだけど……がっかりさせるなよ?」
「この子ね……僕が苛めたら勃ったんだよ。楽しみにしてて。俊哉もきっと気に入ると思う。」
「へぇ……直樹がそう言うのなら間違いはないんだろう。どこまで仕込んだの?」
「調教はまだほんの入り口。好きな子がいるから、その子と少しは経験したはずだけど……おままごとみたいなものかな?先に、身体を見てみる?」
柏木は翔月を引き寄せると、衣服を剥ぎ始めた。翔月は、いや……と腕を上げて抗った。
「うさぎちゃん。服を着たままでお風呂に入る気なの?」
「あ……いいえ。」
「そうでしょう?それに、ほら。見られるの好きだって、うさぎちゃんのここが言ってる。素直だね。」
先端をなぞるようにして軽く指が触れると、翔月の持ち物は、意思に反してほんの少し勃ちあがった。
どんなふうに言おうと、決して柏木が翔月の言葉を聞き入れる事はない。
先端を弄られて、青ざめた翔月の肌が粟立った。
その場から思い切って逃げ出すには、柏木の切ったカードは余りに重かった。
本日もお読みいただきありがとございます。(〃゚∇゚〃)
♪ψ(=ФωФ)ψいじめっ子モードに入ってきました。うふふ~ 此花咲耶
「がんばれ、翔月。きっとおれが助けるから。」(。´・ω`)ノ(つд・`。)・゚+ 「青ちゃん……」
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