朔良咲く 3
運悪くと言うべきか、運良くというべきか。
同じ高校へ入学したものの、朔良は彩の傍にはいられなかった。
学年が違う上に、彩は相変わらず部活動に夢中だった。
そればかりか、彩の傍らには自分と同じ年の少年、片桐里流が現れて朔良を苛立たせた。
凛とした眼差しを持った野球部の後輩は、朔良が居たいと望んだ場所に何の苦労もなく平然と立っていた。その視線は、朔良と同じ熱を持って彩を見つめている。
「おにいちゃんの隣は、ぼくの場所なのに、なんであんな奴が……」
「もっと早く打ち明ければ良かったのかなぁ……」
心はざわめき波だったが、どうしようもなかった。
身体の弱い朔良を丈夫にしてくれた方法で、彩が笑顔を向け片桐里流を励ましているのを見つめた。
一方で朔良は再び、過去に封印したはずの恐ろしい夢魔に喰われることになる。
*****
家族と彩以外、誰も信用しない孤高の朔良の傍には、昔から友人と名のつく者はいなかった。
周囲には外見に惹かれ、取り入ろうとする輩だけが多く、誰も寄せ付けない朔良は結局いつも一人だった。
「朔良姫」とありがたくもないふざけた二つ名で呼ばれても、何とも思わなかった。やめてくれと言うのも、話をするきっかけを作る様で、億劫でしかない。
どれ程、玲瓏とした外見を賛美されても、朔良は自分に仇なすだけの、花めいた顔が大嫌いだった。
朝、身だしなみを整えるのに洗面所を覗くくらいで、自室には鏡も置いていない。鏡を覗けば自分に加えられる「嫌なこと」の原因が全て自分にあると、鏡の中の自分の後に立つ醜悪な夢魔が告げる。
「そんな顔してるからいけないんだよ。」
「君がそそるから、ほら……」
夢魔は黒い詰襟を着ていた。
*****
朔良は野球部に在籍する彩の姿を、遠くから見る為だけに、廃部寸前の陸上部に籍を置くことにした。
朔良の思いを、兄弟に向けるような思慕としか思っていない彩には、何も打ち明けられない。
いっそ異性ならば、傍に居る手立てがあったかもしれないが、顔だけは少女のようでも、れっきとした男子の朔良にはうっかり心を打ち明けて、大切な彩を失う訳にはいかなかった。男が好きだなんて言ったら、軽蔑されるかもしれないと思うと恋心は封印するしかない。
高い自尊心に隠された、恋に奥手な朔良を誰も知らない。
軽い柔軟をしながら、グラウンドを見つめる朔良の視線の向こうには、いつも彩がいて、その隣には片桐里流がいた。
朔良はふっと息を吐いた。
「よく飽きないね……」
彩が存在したから、朔良は自我を手放さずに済んでいたと言っても、過言ではない。
あの日、公園の裏で最初に朔良を見つけたのが彩じゃなかったら、恐怖に壊れかけた柔らかな子供の精神は、鉄条網に破られたゴム風船のように二度と元に戻る事は無かっただろう。
パニックに陥る度、根気よく朔良を抱きしめ、呪文のようにささやく彩の「だいじょうぶ。おにいちゃんが傍にいるからね。」という言葉が無かったら、きっと体と心は引き裂かれたままだったに違いなかった。
そんな機会はなかったが、自分を助けてくれた唯一無二の彩を守る為なら、きっと朔良はどんなことでもやってのけたはずだ。
彩の存在だけが朔良を支えていた。
夕暮れの自転車置き場で、二人の影が重なったのを見てショックを受けた。
「あ……っ……」
心に刃を突き立てられるような風景を見ても、彩に向ける思慕だけは変わらなかった。
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
粗筋をなぞっている感じですが、一応朔良目線でお届けしています。
なんか書いてて、ちょっとだけ朔良のことが可哀想になってきました。(´・ω・`) 「ごめんよ、朔良……」
( *`ω´) 「ふんっ。許さないからな~」
同じ高校へ入学したものの、朔良は彩の傍にはいられなかった。
学年が違う上に、彩は相変わらず部活動に夢中だった。
そればかりか、彩の傍らには自分と同じ年の少年、片桐里流が現れて朔良を苛立たせた。
凛とした眼差しを持った野球部の後輩は、朔良が居たいと望んだ場所に何の苦労もなく平然と立っていた。その視線は、朔良と同じ熱を持って彩を見つめている。
「おにいちゃんの隣は、ぼくの場所なのに、なんであんな奴が……」
「もっと早く打ち明ければ良かったのかなぁ……」
心はざわめき波だったが、どうしようもなかった。
身体の弱い朔良を丈夫にしてくれた方法で、彩が笑顔を向け片桐里流を励ましているのを見つめた。
一方で朔良は再び、過去に封印したはずの恐ろしい夢魔に喰われることになる。
*****
家族と彩以外、誰も信用しない孤高の朔良の傍には、昔から友人と名のつく者はいなかった。
周囲には外見に惹かれ、取り入ろうとする輩だけが多く、誰も寄せ付けない朔良は結局いつも一人だった。
「朔良姫」とありがたくもないふざけた二つ名で呼ばれても、何とも思わなかった。やめてくれと言うのも、話をするきっかけを作る様で、億劫でしかない。
どれ程、玲瓏とした外見を賛美されても、朔良は自分に仇なすだけの、花めいた顔が大嫌いだった。
朝、身だしなみを整えるのに洗面所を覗くくらいで、自室には鏡も置いていない。鏡を覗けば自分に加えられる「嫌なこと」の原因が全て自分にあると、鏡の中の自分の後に立つ醜悪な夢魔が告げる。
「そんな顔してるからいけないんだよ。」
「君がそそるから、ほら……」
夢魔は黒い詰襟を着ていた。
*****
朔良は野球部に在籍する彩の姿を、遠くから見る為だけに、廃部寸前の陸上部に籍を置くことにした。
朔良の思いを、兄弟に向けるような思慕としか思っていない彩には、何も打ち明けられない。
いっそ異性ならば、傍に居る手立てがあったかもしれないが、顔だけは少女のようでも、れっきとした男子の朔良にはうっかり心を打ち明けて、大切な彩を失う訳にはいかなかった。男が好きだなんて言ったら、軽蔑されるかもしれないと思うと恋心は封印するしかない。
高い自尊心に隠された、恋に奥手な朔良を誰も知らない。
軽い柔軟をしながら、グラウンドを見つめる朔良の視線の向こうには、いつも彩がいて、その隣には片桐里流がいた。
朔良はふっと息を吐いた。
「よく飽きないね……」
彩が存在したから、朔良は自我を手放さずに済んでいたと言っても、過言ではない。
あの日、公園の裏で最初に朔良を見つけたのが彩じゃなかったら、恐怖に壊れかけた柔らかな子供の精神は、鉄条網に破られたゴム風船のように二度と元に戻る事は無かっただろう。
パニックに陥る度、根気よく朔良を抱きしめ、呪文のようにささやく彩の「だいじょうぶ。おにいちゃんが傍にいるからね。」という言葉が無かったら、きっと体と心は引き裂かれたままだったに違いなかった。
そんな機会はなかったが、自分を助けてくれた唯一無二の彩を守る為なら、きっと朔良はどんなことでもやってのけたはずだ。
彩の存在だけが朔良を支えていた。
夕暮れの自転車置き場で、二人の影が重なったのを見てショックを受けた。
「あ……っ……」
心に刃を突き立てられるような風景を見ても、彩に向ける思慕だけは変わらなかった。
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
粗筋をなぞっている感じですが、一応朔良目線でお届けしています。
なんか書いてて、ちょっとだけ朔良のことが可哀想になってきました。(´・ω・`) 「ごめんよ、朔良……」
( *`ω´) 「ふんっ。許さないからな~」
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