朔良咲く 13
「自分勝手な事言うね。そんなの自分満足で、あんたが楽になるだけだ。」
「うん、都合の良い詭弁かもしれないな。だけど、信じられないかもしれないけど、俺には朔良姫に会う気はなかったよ。本当に二度と会わないつもりだったんだ。それが朔良姫に酷いことをした自分への罰だと思っていたからな。」
「ふ~~~~ん……」
「やはり信じられないか?この病院で会ってしまったけど、これは偶然だった。俺は朔良姫はずっとリハビリセンターに長期入院していると思っていたんだ。」
「へぇ。良く知ってるね。」
「朔良姫の事なら知ってるさ。」
さすがにそこは朔良も、痛いのが嫌で逃げ出したとは言えなかった。
「あんたの事だから、榊原って人に聞いて、ここで待ち伏せしたのかと思った。」
思わず声を上げて、島本は笑った。
「まさか……!榊原は俺が朔良姫の話を良くするんで、良かれと思って知らせてくれただけだ。バーストしたんだって?」
「だって、猫が……」
島本の向けた笑顔は、以前の朔良が知る、どこか暗さのある卑屈な笑顔ではなかった。
時と共に、こんな風に人は印象まで変わるのだろうか。
「あ……っと。」
島本の胸元のPHSが振動した。
「はい、島本です。直ぐ戻ります。……ごめん。朔良姫。仕事に戻らなきゃ。」
「そう。」
「気を付けて帰れよ。」
島本がドアを開けて、朔良を促した。
「初めて任された患者なんだ。7歳の女の子なんだけど、頑張り屋でね。」
「僕と違って……って言いたいの?」
「ん……?俺が知る限り、朔良姫は頑張り屋だったぞ。たった一人で陸上部の記録会にも行ったじゃないか。それに、足を見れば少しは分かる。そこまで回復するの大変だっただろ?」
「……別に。」
「相変わらずそっけない。でも、らしくて安心したよ。誇り高い朔良姫。変わらずにいてくれて良かった。」
*****
手を上げた島本はリハビリ室へと向かい、その先にヘッドギアを付けた小さな女の子が歩行具を押して待っていた。
朔良は何となく気になって眺めていた。
「せんせいっ!いずちゃんね、せんせいの事お迎えに来た~。」
「ここまで歩いて来たの?すごいなぁ。」
「いずみは、大好きな先生に、歩いてる所見せたかったのよね。」
「うんっ。」
女の子の母親らしき女性が、深々と頭を下げた。
「ここに通い始めてから、毎日、薄紙を剥ぐように良くなっているのが分かるんです。本当にありがとうございます。」
「良かった。一日も早く、学校に戻れると良いですね。」
「ねぇ、先生。あそこにいるのだぁれ?……ぷりきゅあの王子さま?」
「ん?いずみちゃんは王子さまが好きなのかな。」
「うん。ちゃんと歩けるようになったら、お姫さまのドレス、パパに買ってもらうの。いずちゃんにもいつか王子さまが会いに来るんだよ。ね、ママ。」
「そうね。」
母親はにこにこと笑って頷いた。
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
リハビリをする小さな少女に向ける、島本の目はとても優しいです。
(〃゚∇゚〃) 「わ~、ぷりきゅあの王子さまだ~」
(〃ー〃) 「……」←さすがに冷たくできないで困っている朔良
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