朔良咲く 7
「あのさ、朔良姫。島本さんの事なんだけど、今何をやってるか知ってる?」
「知らない。聞きたくもない。」
「まあ、そう言うなよ。気持ちはわからないでもないけど……。あの人はさ、朔良姫のこと本気だったんだ。ガキだったから、言葉に出来ないし酷いことしかしなかったけど、今になってみたら方法がわからなかっただけだと思うぜ。」
「……あんた、日本人だよね?そう言うのって、日本語で盗人猛々しいっていうんだよ。知ってる?」
「盗人って……取りつく島もないな。許さないってことか。」
男は困ったような表情を浮かべた。
「一応、あんたには助けてもらったから礼は言うけど。かかった費用はパ……父の会社に請求して下さい。連絡先は、ここに書いたから。金額と一緒に振込先も知らせてくれれば、支払います。」
朔良は努めて冷淡に、父の会社の連絡先を書いて手渡した。
この男が知るわけはないが、今も時々、朔良は過去に苦しめられていた。
何かの拍子にパニック状態に陥り、叫び出しそうになる。抑え込むと脂汗が滲み、ひどく胸が苦しくなった。
忘れかけた古傷をえぐった上に、塩を塗り込めた島本の名前など、聞きたくない。
「相変わらず上から目線でつれないなぁ、朔良姫。せっかく出会えたから、耳に入れておきたかったんだがな。」
「……僕には関係ない。」
「そう思うのも無理はないと思う。俺たちが朔良姫にやったことは、言い訳できないからな。俺も島本さんがやりすぎてると思っても、止められなかったしな。悪かったよ。」
「だから、許せって?」
「いや。そうは言わないよ。」
それ以上語らず、男は諦めたように何度か頭を振ると、後部トランクを閉めた。
「……じゃな。もし、首とかが痛むようだったら、病院に行った方が良いぞ。」
「ええ、そうします。」
「スペアタイヤだけは、新しくしておけよ。もしまた、こういうことになったら困るから。それとパンクしても走れるタイヤがあるから、聞いてみると良い。その傘はやるよ。」
「要りません。お返しします。」
受け取りを拒否するように、男は軽く手を上げると自分の車に乗り込んだ。
朔良は、ふと自分の運転席に置かれた男の名刺に気が付いた。
摘み上げて破り捨てようと思ったが、思い直して眺めた。
「ふ~ん……榊原って名前だったんだ。」
何か言いたそうだった榊原に、きちんと礼を言っていなかったとやっと気付いたが、もう相手の車の姿は見えなかった。
*****
朔良と別れた榊原が、その後島本に連絡を取ったことを朔良は知らない。
榊原は、残念ながら島本の今の様子を朔良に伝えられなかったと話をした。
「……ああ、島本さん。仕事中にすみません。今日、偶然朔良姫に会いましたよ。元気そうでした。」
「……ええ。怪我も大分良くなったみたいで、今は花菱町の温水プールでリハビリ中みたいです。島本さんの事を話そうと思ったんですけど、相変わらずのお姫さまっぷりで伝えられませんでした。」
電話を切ると、榊原はふっと息を吐いた。
「切ないっすね、島本さん。」
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
過去に関わった冷酷な男の名前を聞いて、朔良は表情を硬くしています。
( *`ω´) 「ぷんっ。思い出したくもない、あんなやつ。」
|゚∀゚) 「まぁまぁ……」
ヾ(。`Д´。)ノ 「出してくんな!此花!ぼけ~、かす~」
(´-ω-`) 「…………」
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