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朔良咲く 8 

朔良は直った車に乗り込むと自宅に向かった。
途中、コンビニの駐車場に入り父親に連絡を入れた。

「パパ……?うん、朔良だけど。車がバーストしてしまったんだ。ロードサービス?ああ……調度知り合いが通りかかって、タイヤは交換してくれたんだ。それでね、パパの会社に請求してくれるように言ったんだけど、いいかな?」
「それはいいが、朔良は何ともないのか?バーストした原因はなんだ?」
「うん。相手もいないし僕は平気……。猫を避けようとして縁石に乗り上げたんだ。それで車の下の方を……底を擦ったと思う。自損事故にするんだったら、警察に言ったほうが良いかなと思うんだけど、わからないから車を見てもらってくれる?」
「そうか。なるべく早く自宅に寄ってくれるように手配しておこう。必要なら迎えをやろうか?もうすぐ彩君も社に戻る頃だから、頼むか?」
「大丈夫。走るのは平気だから自分で帰るよ。……あの、ごめんね。せっかく買ってもらったのに、車……」

父は初めて買った車を、朔良が大切にしていたのを知っていた。
沈んだ声は、おそらく気落ちしているからなのに違いない。

「気にする事は無い。最初は誰でも運転には不慣れなもんだ。朔良に怪我がなければそれでいい。気を付けて帰ってきなさい。」
「……はい。」

朔良はくすんと鼻を鳴らした。やっと車に乗れるようにはなったが、いまだに親のすねをかじっている。
高級車ではないが、車も親に買ってもらった。
早く自立したいと気ばかり焦る朔良に、両親は甘かった。
特に母親は、幼い頃のこともあって、今も出来れば家から出したくないほどに溺愛している。自分の仕事があるから、朔良の側にずっといるのは叶わないが、できれば目の届くところにいて、自分の仕事を手伝ってほしいと考えているようだった。

「だから朔良はパパの会社じゃなくて、ママの仕事を継げばいいのよ。朔良がママのお店のネイリストにでもなったら、きっと予約が殺到するわよ。」

半ば冗談のように話しているが、本気だと顔に書いている。

「ならないよ。今更女の子だらけの学校に行くなんて、嫌だからね。それに僕はママみたいに器用じゃないしセンスも無いから、きっとお客さんをがっかりさせると思うよ。」
「つまらないわ。足の怪我さえなかったら、モデルにでもなれたのに……」
「ふふっ……ママは昔っから僕の事しか見てないね。世の中には僕なんかより綺麗な男はいくらでもいるのに。」
「ママにはどこの誰よりも朔良が一番なの。朔良はママにとっては、今までもこれからも誰よりも大事なの。元気でいてさえくれればそれでいいのよ……朔良。」

20歳も過ぎた男を、恥ずかしげもなくソファの背後から抱きしめた朔良の母親。
ただ一人の息子に襲いかかった災禍を思うたび、両親は自分たちを責めた。
何故、あの時小さな朔良を一人にしてしまったのだろう。

時折り朔良は考える。
どうすれば、この両親を安心させることができるだろう。
自分がなりたいものはどこにあるのだろう。
この先に、共に歩む誰かは存在するのだろうか……と。





本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)

気付けば、朔良も二十歳を超えているのでした。今、21歳設定です。
「朔良はママにとっては、今までもこれからも誰よりも可愛い天使なの……」という、朔良ママンのセリフを、幾らなんでもと思ったので変更しました。
「朔良はママにとっては、今までもこれからも誰よりも大事なの……」
どっちがいいか、実際に口にしてみたこのちん。ちょっと、照れました。(*ノ▽ノ)キャ~ッ



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