朔良咲く 9
新卒の看護師や、インターンが緊張した面持ちで、医師の後に付き従うのも良く見る光景だった。
廊下で主治医に出会った朔良は、話しかけられ肩を並べて歩いていた。
「話は聞いているよ。頑張っているようだね。もう杖が無くても、ゆっくりならほぼ健常者並に歩けるようになったじゃないか?」
「ええ。温水プールの成果かもしれません。先生が紹介してくださった方は、すごく褒め上手なので、僕はいつも頑張ってしまうんです。」
「そうか。朔良君は褒めて伸びるタイプだったのか?知らなかったなぁ。」
「そうですよ。先生は怒ってばかりでしたから、続かなかったんです。褒めてくれれば、僕、一生懸命頑張ったのに。」
「痛いのは嫌だって逃げてばかりだった癖に、よく言うなぁ。リハビリセンターから逃げ出したのは誰だったかな?」
「ふふっ……顔が見たいですか?」
主治医と朔良は笑いながら、軽口をたたいていた。
「そうだ。提案なんだが、思い切って診察の回数を減らしてみるかい?そうすれば待ち時間も減らせる。そろそろ君も、何か見つけなきゃな。リハビリは、もう少し通った方が良いから土曜日の予約チケットを出すよ。待ち時間が長いのを緩和させるために、理学療法士も数人入ったし、器械も最新のものが設置されたから早速試してみると良い。あ、ちょうど良かった。向こうから来る彼が、新人理学療法士の……朔良君?」
『どくん……』と、朔良の心臓が嫌な音を立てた。
『彼は新しく入った理学療法士の、島本君なんだ。朔良君とは年も近そうだね。』
主治医の声が、どこか遠くでくぐもってぼんやりと響いた。
「ああ、もうこんな時間だ。予約の患者が待ってるから、僕は行くよ。リハビリ頑張ってね。」
医師はその場に朔良を残すと、時計を気にしながらあっさりと立ち去ってしまった。
*****
残された朔良は、背筋をどっと冷たい脂汗が流れるのを感じていた。
胸を破りそうな勢いで、心臓が激しく動悸を打つ。指先の震えが全身に回るのを、朔良は耐えていた。
医師に会釈した相手が一歩ずつ自分に近寄ってくる。
背を向けたかったが、すでに立っているのがやっとだった。
「どうしよう……パニックが起こりそう……みんな、こっちを見てる……?」
ロビーにいる多くの人の視線が、全部、鋭い槍となって自分に向かってくるような気がした。
口が渇く……全身を震わせるほど激しく打つ心臓が、このままの状態が続くと止まってしまうのではないかと怯えた。
「……僕、ここで死ぬ?……助けて……おにいちゃん……」
朔良のパニック障害は、それほど重篤なものではなかった。
普通に外出もできるし、医師は自律神経失調による軽いものだから気にする事は無いと言い、薬を処方してくれた。
薬はよく効き、今は飲む必要もないのでお守りのようにしている。
しかし朔良の意識は、過度の緊張によって朦朧として来ていた。予期せぬ人との再会が、引き金になる様な事は無いはずだが、初めて激しい発作に襲われたと言ってもいいかもしれない。
意識を失う前に、手を求めて伸ばしたのは無意識だった。知らない内に、彩の手を求めていたのかもしれない。
「朔良姫っ……?」
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
此花のお友だちもパニックを持っていて、軽いのですが新幹線にも一人で乗れません。
もしここでパニックになったら……と思うと、怖いのだそうです。
トラウマなどで発症することはなさそうですが、少しは起因するかもしれないと思っています。
ストレスが原因かなぁと言っていますけど、発症理由は個々で色々あるみたいです。
(´・ω・`) 「つか……こんなやつに、助けられるのやだもん……」
(。´・ω`)ノ(つд・`。)・゚「まあまあ、そういわんと。」「だって……」
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