朔良咲く 12
「織田は朔良姫のリハビリにも、付き合ってくれていたんだろ?卒業前も学校に来ていなかったから、ずっと病院に付き添っているんだろうと思っていた。」
「あんたはおにいちゃんの何を知っているの?」
「……朔良姫の父親の会社に入社したことくらいは、聞いているよ。同級生だから、その位の話は入って来る。良かったな。」
「なにが?」
「何がって……好きな奴が父親の会社に入社したってことは、ずっと傍に居てくれるんだろう?それって、ずっと朔良姫が望んできたことじゃないか。いくら鈍感な俺でもその位は分かる。やっと長年の思いが通じたんだなと思ったよ。」
「あんたさ……、馬鹿なのは知っていたけど、思い込みが激しいのは相変らずなんだね。少しは成長しているのかと思って理由を聞いてみたのに、がっかりした。」
「……え?」
がっかりしたと言われ、島本の視線が泳いだ。
確かに島本は朔良が事故に遭った時、言いようのないショックを受けた。
これまで自分が朔良にどれほど惨いことを課して来たか、嫌がるのを無理やり傍に置き弄り続けた朔良を突然失って、島本は非道に対する天罰を喰らったような気持ちになった。
失って知った朔良への思いと、激しい喪失感に島本は打ちのめされた。
自分勝手で我儘な一方的な思いを打ち付け、一つ下の美しい少年を蹂躙したことを、今となっては、どれだけ後悔しているか告げるのさえためらわれる。
どれ程なじられても、返す言葉もない。
好きな相手をいじめる不器用な小学生のように、島本は暴力で朔良を欲しいままに扱った。
その事実は、一生消える事は無い。
「おにいちゃんは事故の責任を感じて、大学に行くことも夢も全部諦めたんだ。それなのに良かったな、なんてよく言えるね。弟みたいな僕の為に、おにいちゃんは何でそこまでするんだよっ!馬鹿っ!」
「……朔良姫?」
島本は、突然激高し、支離滅裂な言葉をぶつけて来た朔良に驚いていた。
「違うのか?」
「自分は全部諦めたくせに、おにいちゃんは僕のリハビリにずっと付き合ってくれたんだ。事故だって自分が悪いわけじゃないのに、僕はそれを当たり前だと思ってたんだ。そんな話あると思う?どう考えたっておかしいだろ?おにいちゃんだけ夢を諦めるなんて、余りに理不尽で不公平だろ……?」
「朔良姫……」
「違う……馬鹿なのは僕の方だ……傍に居てくれるのが嬉しくて、何も気が付かなかったんだ。おにいちゃんに罪滅ぼしをしなきゃいけないのは、僕なんだ……だから、離れなきゃいけないって思って……」
不意に、ぽろ……と朔良の頬を涙が転がり落ちた。
島本は様子の違う朔良に戸惑っていた。織田彩と上手くいっているとばかり思っていたのに、朔良は傷ついていた。
気の強い朔良が、まさか泣くとは思わなかった島本は、思わず椅子を引き出して、座らせた。
「朔良姫。俺が理学療法士になったって、何の罪滅ぼしになるとも思っていない。ただ、馬鹿だけど、俺なりに考えたんだ。」
「何を……?」
「朔良姫がどこかで苦しんでいるなら、俺はせめて代わりの誰かを助けようって……。」
それは、島本なりの贖罪と言えるかもしれない。
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
ヾ(。`Д´。)ノ「綺麗事並べたって、駄目だからな、ぼけ~、かす~!」
Σ( ̄口 ̄*) 「さ、朔良姫泣いた……?」
(つд・`。)・゚ 「目にゴミが入った……」
(。´・ω`)ノ(つд・`。)・゚+「不器用だな、朔良姫。」
( *`ω´) 「うるさいわ、ぼけ~かす~」
- 関連記事
-
- 朔良咲く 19 (2014/03/10)
- 朔良咲く 18 (2014/03/08)
- 朔良咲く 17 (2014/03/07)
- 朔良咲く 16 (2014/03/06)
- 朔良咲く 15 (2014/03/05)
- 朔良咲く 14 (2014/03/04)
- 朔良咲く 13 (2014/03/03)
- 朔良咲く 12 (2014/03/02)
- 朔良咲く 11 (2014/03/01)
- 朔良咲く 10 (2014/02/28)
- 朔良咲く 9 (2014/02/27)
- 朔良咲く 8 (2014/02/26)
- 朔良咲く 7 (2014/02/25)
- 朔良咲く 6 (2014/02/24)
- 朔良咲く 5 (2014/02/23)