朔良咲く 10
朔良の様子のおかしいことに気付いた理学療法士……島本の行動は迅速だった。
伸ばされた手を、一番触れてほしくない男が掴んだが、すでに朔良は意識を手放しかけていて気付いてはいない。
床に叩きつけられる前に、島本は素早く朔良の身体を拾い上げた。
一目でパニックの発作だと見抜くと、すぐに食事療法指導室が空いていることを確かめて、抱き上げた朔良を運んだ。
パニックの症状は、本人の苦しみに反して、数値に出る事は少ない。救急車で運ばれるほど苦しんでも、僅かな時間で発作が治まり、病院に到着する頃には本人が驚くほど何ともなかったりする。
丸くなって震える朔良を思わず懐に抱えると、島本は見た目よりもはるかに細い朔良に驚いた。
榊原の話を聞き、相変らず尊大で不遜にさえ見える朔良を想像していた。
島本は、突然パニックを起こした朔良を、落ち着かせることに専念した。
子供のように頼りない朔良を包み込むように優しく抱きしめると、背中をゆっくりと繊細に撫でた。
「大丈夫だ。何も怖くないから……大丈夫。」
「……怖い……おにい……ちゃん……怖い……」
「大丈夫。直ぐに落ち着く。君はいつだって強かったじゃないか。直ぐに収まるよ。よしよし……」
10分もそうしていただろうか。
静かに朔良を抱いていた島本は、自分を見上げる視線に気が付いた。
「どうした?治まったか?」
「……何で、あんたが……」
島本は優しい目を向けた。
「ここに居るのかって?」
朔良は肯いた。高飛車な言葉が口を突いて出てくる。
「あんたの顔なんて、見たくもないんだけど?……つか、その手を離してくれない?キモイ。」
島本は苦笑した。朔良から手を伸ばして来たのだとは言えなかった。
「それとも、昔のように押し倒してみる?ここでも親の威光は健在なの?」
「……さっきまで、可愛かったのに相変らず毒気が多いな。とんだ野良猫だ。」
「ふん……僕が猫なら、あんたは死肉を喰らうハイエナじゃないか。」
島本の顔が歪む。
朔良の暴言は、容赦なく島本の心をえぐった。
自分が過去に朔良に何をしてきたか、決して忘れたわけではない。
何事もなかったように朔良は立ち上がった。一瞬軽く眩暈がしたが、その場から早く立ち去りたかった。
病院内でスタッフの持つPHSで島本が連絡し、さっき別れたばかりの主治医が飛んで来た。
「朔良君!倒れたんだって?驚いたよ。」
「もう……平気です。ちょっと胸が苦しくなっただけだから……」
「まだ顔色が良くないな。心療内科の診察を受けて帰るかい?」
「いいえ。まだ薬もありますし、大したことないです。それに……あの、理学療法士さんがちょうど傍に居てくれたので……」
「ああ、そうか。島本君がいたんだったね。運が良かった。」
「いえ。……仕事に戻ります。」
朔良と島本の過去を何も知らない主治医はそう言ったが、島本はいたたまれずその場から逃げるように去ろうとした。
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
朔良がチクチク嫌味を言っています。♪ψ(=ФωФ)ψふふ~んだ……
伸ばされた手を、一番触れてほしくない男が掴んだが、すでに朔良は意識を手放しかけていて気付いてはいない。
床に叩きつけられる前に、島本は素早く朔良の身体を拾い上げた。
一目でパニックの発作だと見抜くと、すぐに食事療法指導室が空いていることを確かめて、抱き上げた朔良を運んだ。
パニックの症状は、本人の苦しみに反して、数値に出る事は少ない。救急車で運ばれるほど苦しんでも、僅かな時間で発作が治まり、病院に到着する頃には本人が驚くほど何ともなかったりする。
丸くなって震える朔良を思わず懐に抱えると、島本は見た目よりもはるかに細い朔良に驚いた。
榊原の話を聞き、相変らず尊大で不遜にさえ見える朔良を想像していた。
島本は、突然パニックを起こした朔良を、落ち着かせることに専念した。
子供のように頼りない朔良を包み込むように優しく抱きしめると、背中をゆっくりと繊細に撫でた。
「大丈夫だ。何も怖くないから……大丈夫。」
「……怖い……おにい……ちゃん……怖い……」
「大丈夫。直ぐに落ち着く。君はいつだって強かったじゃないか。直ぐに収まるよ。よしよし……」
10分もそうしていただろうか。
静かに朔良を抱いていた島本は、自分を見上げる視線に気が付いた。
「どうした?治まったか?」
「……何で、あんたが……」
島本は優しい目を向けた。
「ここに居るのかって?」
朔良は肯いた。高飛車な言葉が口を突いて出てくる。
「あんたの顔なんて、見たくもないんだけど?……つか、その手を離してくれない?キモイ。」
島本は苦笑した。朔良から手を伸ばして来たのだとは言えなかった。
「それとも、昔のように押し倒してみる?ここでも親の威光は健在なの?」
「……さっきまで、可愛かったのに相変らず毒気が多いな。とんだ野良猫だ。」
「ふん……僕が猫なら、あんたは死肉を喰らうハイエナじゃないか。」
島本の顔が歪む。
朔良の暴言は、容赦なく島本の心をえぐった。
自分が過去に朔良に何をしてきたか、決して忘れたわけではない。
何事もなかったように朔良は立ち上がった。一瞬軽く眩暈がしたが、その場から早く立ち去りたかった。
病院内でスタッフの持つPHSで島本が連絡し、さっき別れたばかりの主治医が飛んで来た。
「朔良君!倒れたんだって?驚いたよ。」
「もう……平気です。ちょっと胸が苦しくなっただけだから……」
「まだ顔色が良くないな。心療内科の診察を受けて帰るかい?」
「いいえ。まだ薬もありますし、大したことないです。それに……あの、理学療法士さんがちょうど傍に居てくれたので……」
「ああ、そうか。島本君がいたんだったね。運が良かった。」
「いえ。……仕事に戻ります。」
朔良と島本の過去を何も知らない主治医はそう言ったが、島本はいたたまれずその場から逃げるように去ろうとした。
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
朔良がチクチク嫌味を言っています。♪ψ(=ФωФ)ψふふ~んだ……
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