朔良咲く 16
父親から、明日は会社の休日だと聞いて、メールを入れていた。
「おにいちゃん……お帰りなさい。」
「ああ、朔良。ただいま。寒いのに、家に入っていれば良かったな。」
「ううん。僕が上がり込むと、叔母さんに気を使わせてしまうから……」
「そうか。じゃ、このままちょっと外に出ようか。寒かったんだろう?鼻の頭が赤くなってる。ほら。」
彩は巻いていたマフラーを外すと、冷えた朔良の首に巻いてやった。
彩の体温に、ふわりと包まれた気がする。
*****
彩は朔良を居酒屋へ誘った。
「僕……こういうところ、初めて来た。良い匂いがするね。」
個室の中を見渡した朔良は、物珍しそうに置いてあったメニューを取り上げた。
「そう言えば、朔良を連れて食事に来たことなかったな。酒でも飲むか?」
「ううん、お酒はいらない。秋月とは、ちょっと感じが違うね。」
「朔良~……居酒屋と高級料亭を比べるなよ。失念してたな、朔良の口に合うかな。魚は好きか?」
「生魚以外は、たぶん何でも食べられるよ。後ね、生でも鰆の昆布締めとかなら少しは食べられるし、マグロの炙りは好き。大丈夫。」
「朔良。いくら大丈夫でも、それは俺の給料じゃ無理だ。ここは俺がいつも食ってるものを注文する。それでいいか?」
「うん。おにいちゃんが好きなものを頼んで。」
真面目な顔で、時価でしか食べられないようなものを口にする朔良に、彩は内心違う店にすればよかったかなと思う。
焼き鳥と、串カツ、温野菜の盛り合わせ
ポテトのチーズ明太子焼き
ホッケの塩焼き
焼きおにぎり茶漬け
運ばれてきた料理に、朔良は子どものように感動している。
こんなに喜ぶのなら、リハビリ帰りにでも連れてきてやれば良かったと、彩は思う。
「お酒が進むように、味が濃いのかな。でも、どれもおいしいね。僕、これ好き。」
「そうか?社長から、杖なしで歩けるようになったと話は聞いていたんだ。今日はおごってやるよ。ご褒美だ。」
「お小遣い、大丈夫?」
「この店とラーメンと、カレー位ならいつでもおごってやる。」
「ふふっ、ありがと、おにいちゃん。」
「それで、話って?」
ふと真顔になった朔良は、思い切って切り出した。
「あの……おにいちゃん、大学へはもう行かないの?行くつもりはないって、パパに言ったって聞いたよ。」
「ああ、その事か。朔良が気にすることない。自分で決めた事だからな。」
「でも……ずっと大学に行きたいって言ってたのに……僕のせいだよね。事故の後も引っ張り回しちゃったから……。」
朔良は彩の前だと素直になれる。
いつもの片意地を張った朔良ではなく、彩を慕う小さな朔良がおずおずと顔を出す。
「馬鹿だなぁ。何を気にしてるんだ。もう済んだ話じゃないか。それに、朔良は知らないだろうけど伯父さんの会社の人達ってすごいんだぞ。」
「……何?」
「みんな、専門学校の講師並のレベルなんだ。俺は毎日勉強させてもらってるよ。」
「でも、本当は学校の先生になりたいんじゃなかったの?ママもパパも僕には甘いから、……一杯我慢させたよね。おにいちゃんに無理を言ったでしょう?あの……ごめんなさい。」
しょんぼりとうつむく朔良に、彩は驚いていた。
これまで朔良が無理を言う事はあっても、頭を下げたことはない気がする。
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
自分のせいで大学を諦めた彩に、進学したいと報告に来た朔良なのです。
(〃゚∇゚〃) 「おにいちゃん、久しぶり~」
(〃^∇^)ノ 「朔良、元気だったか?」
(*/д\*) 「うん……元気~」
[壁]ω・) 「彩の前だと、態度違うね~」
( *`ω´) 「うるさい、ぼけ~、かす~」
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