終(つい)の花 東京編 9
日向は男の前で、一衛に着せ掛けた薄い布団を剥いだ。
「詫びたいのなら、いっそ一衛さまが染華花魁の代わりをするというのはいかがですか。」
「戯言を言うな。これを早く解け……。」
「そうおっしゃいますな。いい眺めでございますよ。」
一衛はやっと自分を戒めているものが、遊女が、緩い着付けに使う絹の平紐だと知った。
遊女は体に跡が残らないように、柔らかい絹を使う。
男は近づくと、一衛の顔を覗き込んだ。
「お主は、会津から来たそうだな。なるほど、染華と同じ雪白の肌だな……どれ、奥を見分してやろうか。」
「は、放せっ!何を……!日向さんっ!」
「一衛さま。諦めが肝心でございますよ。さ、大久保さま。お手伝いいたしましょう。」
「何をするっ」
日向が楽しげに厚い掛け布団を四つ折りにすると、一衛の体を押し付けて埋めた。戒められている一衛は、柔らかい布団に包まれて動けなくなった。
男の手が、ひらと単衣の着物の裾を割る。
冗談ではないと知り、一衛は蒼白になった。
薩長軍が攻めてくると、婦人は凌辱されるという話は聞いていたが、こんな話は聞いていない。
武家のたしなみとして、男色のことを何も知らないわけではなかったが、戦火の渦中でそれどころではなかった。
一衛はこんな風に自分が対象になるとは、考えてもみなかった。
「放せーー……!いやだ……!」
「仕方がありませんね。」
日向は違う平紐を取り上げると、大きな結び玉をこしらえて、逃げようとばたつく一衛の口に、手慣れた様子で押し込んだ。
優男に見えた日向の力は思ったよりも強く、得物のない一衛には払いのけられなかった。
膝を割ろうとする手を必死に避けようとして敵わず、瞬く間に下帯を抜かれた一衛は、その場に抗するも虚しく褥に転がされた。
日向が帯を奪うと、単衣の前がはらりと割れた。
「ううっ……!」
「おお、これは……。」
驚いたように男の指が止まる。
「なんと……。若茎の先まで穢れなく真っ白とは……。陰間がしおらしく芝居をしても、使い込んだ道具は隠しようもないと思っていたが、此度は島原屋の言う通りだったな。手付かずとは……」
「いやですねぇ。島原屋は、嘘と坊主の頭を結ったことはございませんよ。でも、大久保さま。何の因果も含んでおりませんから、今宵はそのくらいにしていただいて……。可愛らしい鈴を転がすのは、また後日にしていただきます。」
「そうか。残念だが仕方がない。一先ず預けておくから、早く使えるようにしてくれ。」
「はい。お任せ下さい。」
肌を泡立てて歯を食いしばった一衛の下腹に、無骨な指で触れていた大久保という男が、ふと一衛を見つめた。
「確か、染華太夫も会津の生まれだといったな。」
「ええ。あの子はね、年貢が払えなくて、親が女衒に売ったんですよ。12で禿(かむろ)、たんとお金を使ってやっと振袖新造になった日にこんなケチがついて、この先はほかの店に安く下げ渡して格子女郎にでもするしかありませんかねぇ。せっかく、ここまで来たものを……。」
こちらも、ちらりと一衛を見る。
「一衛さまの、お気持ち次第……ということです。染華を苦界から助けてやるのも、相馬さまを仕官させるのも。」
そっと猿轡を外して、乱れた着物を直してやった日向は、耳元にささやいた。
「大久保さまは、新政府のお役人です。きっとお力になってくださいますよ。お情けにお縋りされてはいかがです。」
「卑怯者……。直さまは、清廉な方だ。そのような姑息な手は好かぬ。」
「聞き分けなさいませ。木に縁りて魚を求むという諺もございましょう。手段を誤れば何も手に入れられません。一衛さまは、まるで穢れのない赤子のまま大きくなったような方ですねぇ。」
その言葉に、なぜか清助のことを思い出した一衛だった。
世間を知らぬ愚か者だと言われた気がする。
「足抜けしようとしたあの娘はどうしたのですか?」
「染華ですか?奥の仕置き部屋で、足抜けの責めを受けておりますよ。」
「責め……?捕えた時にあれほど打ち据えていたものを。」
「廓での足抜けは、花魁の一番の御法度です。二度とそんな気を起こさないように、体に傷を残さぬように、牛太郎が4人がかりで染華を嬲っているはずですよ。あれをご覧になれば、一衛さまもお気が変わるのではないでしょうか。」
「か弱い女子に、なぜそこまでの無体をする?」
「苦界というのはそういうものですよ。その為にわたくしどもは、三味線も弾けない百姓娘に大金を払うのです。廓の仕置きをご覧になりますか?」
「要らぬ……」
遠くで女の高い悲鳴が響いた。
日向がずいと足を進める。
「さあ……参りましょう。一衛さま。」
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃) えへへ……
ヾ(。`Д´。)ノ「こら~!此花~!一衛に何をする!」
(´;ω;`) 「直さま~え~ん……」
大丈夫よ~。痛くしないから。(*つ▽`)っ)))←ぬけぬけ
「詫びたいのなら、いっそ一衛さまが染華花魁の代わりをするというのはいかがですか。」
「戯言を言うな。これを早く解け……。」
「そうおっしゃいますな。いい眺めでございますよ。」
一衛はやっと自分を戒めているものが、遊女が、緩い着付けに使う絹の平紐だと知った。
遊女は体に跡が残らないように、柔らかい絹を使う。
男は近づくと、一衛の顔を覗き込んだ。
「お主は、会津から来たそうだな。なるほど、染華と同じ雪白の肌だな……どれ、奥を見分してやろうか。」
「は、放せっ!何を……!日向さんっ!」
「一衛さま。諦めが肝心でございますよ。さ、大久保さま。お手伝いいたしましょう。」
「何をするっ」
日向が楽しげに厚い掛け布団を四つ折りにすると、一衛の体を押し付けて埋めた。戒められている一衛は、柔らかい布団に包まれて動けなくなった。
男の手が、ひらと単衣の着物の裾を割る。
冗談ではないと知り、一衛は蒼白になった。
薩長軍が攻めてくると、婦人は凌辱されるという話は聞いていたが、こんな話は聞いていない。
武家のたしなみとして、男色のことを何も知らないわけではなかったが、戦火の渦中でそれどころではなかった。
一衛はこんな風に自分が対象になるとは、考えてもみなかった。
「放せーー……!いやだ……!」
「仕方がありませんね。」
日向は違う平紐を取り上げると、大きな結び玉をこしらえて、逃げようとばたつく一衛の口に、手慣れた様子で押し込んだ。
優男に見えた日向の力は思ったよりも強く、得物のない一衛には払いのけられなかった。
膝を割ろうとする手を必死に避けようとして敵わず、瞬く間に下帯を抜かれた一衛は、その場に抗するも虚しく褥に転がされた。
日向が帯を奪うと、単衣の前がはらりと割れた。
「ううっ……!」
「おお、これは……。」
驚いたように男の指が止まる。
「なんと……。若茎の先まで穢れなく真っ白とは……。陰間がしおらしく芝居をしても、使い込んだ道具は隠しようもないと思っていたが、此度は島原屋の言う通りだったな。手付かずとは……」
「いやですねぇ。島原屋は、嘘と坊主の頭を結ったことはございませんよ。でも、大久保さま。何の因果も含んでおりませんから、今宵はそのくらいにしていただいて……。可愛らしい鈴を転がすのは、また後日にしていただきます。」
「そうか。残念だが仕方がない。一先ず預けておくから、早く使えるようにしてくれ。」
「はい。お任せ下さい。」
肌を泡立てて歯を食いしばった一衛の下腹に、無骨な指で触れていた大久保という男が、ふと一衛を見つめた。
「確か、染華太夫も会津の生まれだといったな。」
「ええ。あの子はね、年貢が払えなくて、親が女衒に売ったんですよ。12で禿(かむろ)、たんとお金を使ってやっと振袖新造になった日にこんなケチがついて、この先はほかの店に安く下げ渡して格子女郎にでもするしかありませんかねぇ。せっかく、ここまで来たものを……。」
こちらも、ちらりと一衛を見る。
「一衛さまの、お気持ち次第……ということです。染華を苦界から助けてやるのも、相馬さまを仕官させるのも。」
そっと猿轡を外して、乱れた着物を直してやった日向は、耳元にささやいた。
「大久保さまは、新政府のお役人です。きっとお力になってくださいますよ。お情けにお縋りされてはいかがです。」
「卑怯者……。直さまは、清廉な方だ。そのような姑息な手は好かぬ。」
「聞き分けなさいませ。木に縁りて魚を求むという諺もございましょう。手段を誤れば何も手に入れられません。一衛さまは、まるで穢れのない赤子のまま大きくなったような方ですねぇ。」
その言葉に、なぜか清助のことを思い出した一衛だった。
世間を知らぬ愚か者だと言われた気がする。
「足抜けしようとしたあの娘はどうしたのですか?」
「染華ですか?奥の仕置き部屋で、足抜けの責めを受けておりますよ。」
「責め……?捕えた時にあれほど打ち据えていたものを。」
「廓での足抜けは、花魁の一番の御法度です。二度とそんな気を起こさないように、体に傷を残さぬように、牛太郎が4人がかりで染華を嬲っているはずですよ。あれをご覧になれば、一衛さまもお気が変わるのではないでしょうか。」
「か弱い女子に、なぜそこまでの無体をする?」
「苦界というのはそういうものですよ。その為にわたくしどもは、三味線も弾けない百姓娘に大金を払うのです。廓の仕置きをご覧になりますか?」
「要らぬ……」
遠くで女の高い悲鳴が響いた。
日向がずいと足を進める。
「さあ……参りましょう。一衛さま。」
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃) えへへ……
ヾ(。`Д´。)ノ「こら~!此花~!一衛に何をする!」
(´;ω;`) 「直さま~え~ん……」
大丈夫よ~。痛くしないから。(*つ▽`)っ)))←ぬけぬけ
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