終(つい)の花 東京編 2
出身地を東北だと相手に告げる度、足元を見られ、食料を買うたび定価よりも高い金銭を要求された。
「……一衛。大丈夫か?」
「あ……い。申し訳ありません、直さま……」
数日、神社の境内で過ごしていた二人は、役人に目をつけられそうになり、そこを後にしていた。無人の寺は付近には無く、泊まれる場所を求めて二人は彷徨っていた。
無理な長旅の疲れのせいか、一衛は熱を出し動けなくなった。
「困ったな、熱が高い。せめてどこかに、雨露をしのぐ場所があれば良いのだが……。」
宿を探そうにも、北国の出身と告げれば、お上に仇なした輩を泊めるわけには行かないと、どこへ行ってもけんもほろろに断られた。
身分を明かさないで済む日雇い仕事で得た金も、清助にもらった路銀もとうにそこをついていた。
もう三日も、ちゃんとしたものは食べていない。
直正はこんこんと、時折咳き込む一衛を抱きしめ、静かに背中を撫でていた。
そうするしかない自分を情けなく思ったが、どうすることもできない。
一衛は瞳をうるませて、何度も詫びた。
「……直さまの、お荷物……になってしまいました。すみませぬ……」
「いいから気にするな。少し休んだら、どこか横になれるところを探して来よう。また、雨が降りそうだ。昨夜、夜露にぬれたのが良くなかったのだな。」
「……直さまお一人なら、こんなことにはならなかったのに……すみ……ませぬ」
「もう、謝るのはお止め。一衛は元々丈夫な質ではなかったのに、焦ったわたしが無理をさせてしまったのだ。ほら、こんなものでも何も腹に入れないよりはましだ。口をお開け。」
「あ……い……」
ぽんと放り込まれた金平糖の甘さに、清助に掛けられた温情を思い出し、思わず目頭が熱くなる。
会津の関で別れてから、何日経っただろうか。
「……すみませぬ……直さま……。」
「一衛。もういいというのに。」
一衛は、直正の重荷になっているのがつらかった。
二人で力を合わせて力をつけようと、国許を出てきたのに……もう、どうしようもない。
ゆく当てもなく路銀は尽き果ててしまった。
これ以上の重荷になるなら、いっそ直正の目を盗んで自害しようと、一衛は密かに心に決めた。
*****
その時、不意に頭上から声をかけられた。
「申し、申し。そこのお方……何かお困りですか。」
見上げれば長い板塀の向こうに、二階建ての漆塗りの豪奢な家があり、窓から家の主人らしき男がのぞいていた。
どうやら二人は男が商いをしている家の裏口に座り込んでいたらしい。
直正は、無意識に一衛を背に庇った。
「連れが熱を出し、いささか難儀している。」
「それはお困りでしょう。おや、また雨が降り始めましたね。」
「できれば、しばらく休ませてやりたい。頼めるか。」
「よろしゅうございますよ。少々お待ちください。」、
やがて、裏木戸が空き、大きな番傘を広げた男がどうぞと招く。
「旅の途中でいらっしゃいますか?どちらから江戸にいらっしゃったので?」
「……会津だ。」
いまさら、嘘をつく気もなかった。
藩主、松平容保公は正義の貫き方を間違えただけだ。
敵と味方、佐幕と勤皇、どちらにも国を思う正義があり、負けたほうは賊軍と呼ばれ排斥された。それだけのことだ。
直正は、半ば捨て鉢に告げた。
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
捨てる神あれば……なら良いのですが。 此花咲耶
(´;ω;`)「ぼろぞうきん……?」
(*つ▽`)っ)))「えっと~、まだわかんないから~」←
「……一衛。大丈夫か?」
「あ……い。申し訳ありません、直さま……」
数日、神社の境内で過ごしていた二人は、役人に目をつけられそうになり、そこを後にしていた。無人の寺は付近には無く、泊まれる場所を求めて二人は彷徨っていた。
無理な長旅の疲れのせいか、一衛は熱を出し動けなくなった。
「困ったな、熱が高い。せめてどこかに、雨露をしのぐ場所があれば良いのだが……。」
宿を探そうにも、北国の出身と告げれば、お上に仇なした輩を泊めるわけには行かないと、どこへ行ってもけんもほろろに断られた。
身分を明かさないで済む日雇い仕事で得た金も、清助にもらった路銀もとうにそこをついていた。
もう三日も、ちゃんとしたものは食べていない。
直正はこんこんと、時折咳き込む一衛を抱きしめ、静かに背中を撫でていた。
そうするしかない自分を情けなく思ったが、どうすることもできない。
一衛は瞳をうるませて、何度も詫びた。
「……直さまの、お荷物……になってしまいました。すみませぬ……」
「いいから気にするな。少し休んだら、どこか横になれるところを探して来よう。また、雨が降りそうだ。昨夜、夜露にぬれたのが良くなかったのだな。」
「……直さまお一人なら、こんなことにはならなかったのに……すみ……ませぬ」
「もう、謝るのはお止め。一衛は元々丈夫な質ではなかったのに、焦ったわたしが無理をさせてしまったのだ。ほら、こんなものでも何も腹に入れないよりはましだ。口をお開け。」
「あ……い……」
ぽんと放り込まれた金平糖の甘さに、清助に掛けられた温情を思い出し、思わず目頭が熱くなる。
会津の関で別れてから、何日経っただろうか。
「……すみませぬ……直さま……。」
「一衛。もういいというのに。」
一衛は、直正の重荷になっているのがつらかった。
二人で力を合わせて力をつけようと、国許を出てきたのに……もう、どうしようもない。
ゆく当てもなく路銀は尽き果ててしまった。
これ以上の重荷になるなら、いっそ直正の目を盗んで自害しようと、一衛は密かに心に決めた。
*****
その時、不意に頭上から声をかけられた。
「申し、申し。そこのお方……何かお困りですか。」
見上げれば長い板塀の向こうに、二階建ての漆塗りの豪奢な家があり、窓から家の主人らしき男がのぞいていた。
どうやら二人は男が商いをしている家の裏口に座り込んでいたらしい。
直正は、無意識に一衛を背に庇った。
「連れが熱を出し、いささか難儀している。」
「それはお困りでしょう。おや、また雨が降り始めましたね。」
「できれば、しばらく休ませてやりたい。頼めるか。」
「よろしゅうございますよ。少々お待ちください。」、
やがて、裏木戸が空き、大きな番傘を広げた男がどうぞと招く。
「旅の途中でいらっしゃいますか?どちらから江戸にいらっしゃったので?」
「……会津だ。」
いまさら、嘘をつく気もなかった。
藩主、松平容保公は正義の貫き方を間違えただけだ。
敵と味方、佐幕と勤皇、どちらにも国を思う正義があり、負けたほうは賊軍と呼ばれ排斥された。それだけのことだ。
直正は、半ば捨て鉢に告げた。
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
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(*つ▽`)っ)))「えっと~、まだわかんないから~」←
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