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Caféアヴェク・トワ 君と共に16 

とくんと心臓の音が跳ねる。

「病院の帰り道の話の続きだけどな」
「……はい?」
「俺が拗ねていた理由を聞いただろ?」
「はい」
「教えてやるけど、絶対笑うなよ?後、口外無用。すぐ忘れろ、いいな?」
「大丈夫です。おれ、何があっても、店長のこと大好きですから……」

まじめな顔で、こくりとうなずいた直に、仕方なく松本は打ち明けた。

「あのな……覚えていないだろうけどな、酔っぱらった直が、俺の知らない奴の名前を呼んだんだよ。……寝言だと思う。どんな夢を見ていたのかもわからなかったが、俺はそれだけで付き合い始めたばかりのガキみたいに、そいつに嫉妬したんだ。」
「嫉妬……?」
「ああ。情けねぇよな。寝ている直の夢の中に、誰か知らない奴がいると思っただけで、頭に血が上った」
「俺、誰の名前を呼んだんですか?」
「名前というより愛称かな?まあちゃんって言ってたぞ。聞けば、オークジホテルのチーフの名前が正和っていうだろ?だから俺は邪推したんだ。……その、直とチーフができちまったんじゃないか……とかさ。悪かった」
「もしかして、店長は俺が……チーフと付き合ってると思ったんですか?」

直は不思議そうな顔をした。

「チーフの名前が正和っていうのも、初めて聞きました」
「そうなのか?荒木に名前を聞いたとき、ブチ切れそうになった……というか、切れてたけどな」
「ホテルでは、殆ど毎日仕事の話しかしていないです。たぶん、おれが呼んだのは従兄だと思います。正樹というんですけど、おれはまあちゃんって呼んでいたから」
「従兄がいたのか?初耳だな」
「ええ。話したことなかったですね。とても優しい人でした。あの……俺の家って、結構古いというか、大きかったの覚えてます?」
「ああ。タクシーの運転手が、直の家を知っていたし、陳情ですかって言われて、ちょいと驚いたたな。直の父親は俗に言う名士っていうやつだろ?」
「世間ではそう言われてるみたいです。厳格な人で、毎日のように相良家に生まれたからには、人の上に立ち模範になれるような生き方をしろって、言っていました」
「そういうのに縁がないから、よくわからないが、直は気持ちが優しいから親父さんのような社長業とかは無理な気がする」
「無理ですよ。おれには父親のように、業績次第で誰かを切り捨てるなんて、できません」
「だろうな」
「あの……」

松本の膝の間に座った直は、困ったような顔を向けた。
背後から抱きしめた松本の息が、剥かれた肩をくすぐる。熱い塊りが猛っているのを感じていた。

「店長、おれがイっただけで、いいんですか?」
「ん?」
「後ろに硬いのが当たってるから……店長、つらくないのかなって」
「いいんだよ。俺が悪かったんだから、今日は直に無理はさせないんだ。下手に力が入ったら、傷が痛むかもしれないだろう?それにどうやっても、直が無理しそうだから、今日は何もしなくていい」
「店長……」
「気にするな。これでも少しは反省してんだぜ?」

なぜいつもこの人は自分のことをここまで考えてくれるんだろうと、思う。
誤解だったとはいえ、ふと漏らした従兄のことさえ真剣に案じてくれた。
初めて出会った時から、いつも松本は信じられないほど直を甘やかしてくれた。不安になりそうなとき、折れそうなとき、その腕の中で見上げれば優しい顔があった。
絶対に許せないと思ってきた黒崎にすら、松本の支えで向き合うことができた。
もし、松本がいなかったら、自分は製菓の道を諦めて……それから、どう生きただろう。




本日もお読みいただきありがとうございます。
不器用な直と松本……素直なのは繋いだ身体だけなのかもしれません。
もう少し、大きな絵もあるのですが、まだまだへたっぴなのでこっそり……|д゚)
がんばれ~!と思ってくださったら、ご覧になってください。
B地区……頑張った~!
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直と松本・挿絵

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