Caféアヴェク・トワ 君と共に22
母親の居ない直を、きっと従兄と共に支えていたのだろうと思う。
「まあちゃんは県外のホスピスに転院したって聞いたよ。それからすぐに、お父さんから亡くなったって知らされて、おれはすぐに会いに行きたかったけど、葬儀も終わったからって会えなくて……お父さんは、あんな奴は一族の面汚しだから、遠くの病院で死んでくれて良かったって言ったんだ。」
唇を震わせる直の姿に、正樹という青年がどれほど直にとって、大切な存在だったか知る。松本は、そっと背中に手を添わせた。
「おれ、まあちゃんがかわいそうで……何もできないのが悔しかった……」
「あなたの父親は、正樹の生き方を理解できなかったから、そういう風に伝えるしかできなかったの。正樹が亡くなったのは確かだけれど、本当のことを言うと正樹は迎えに来た恋人とホスピスを出たのよ」
「え……?」
「直が大人になったら全部伝えてくださいって、正樹の遺言だったの。でも、直はいつまでたっても子供だし、甘ちゃんですぐにめそめそするし、わたくしはこの話は墓場まで持っていくしかないかしらと腹をくくりかけていたのよ」
「そんな……」
「あら。わたくし、間違っていて?ねぇ、松本さん?」
同意を求められて、松本は苦笑いを浮かべるしかなかった。繊細な直に、すべてを受け止めることはできただろうか。危惧する通り、従兄の死を知って、何日も泣き続ける直の姿が容易に想像できた。
「恋人がいたんだ、まあちゃん……良かった。おれが知っているまあちゃんは、独りでずっと寂しそうだったから。」
「短い間だったけど、正樹は恋人と暮らせて幸せだったと思うわ。正樹は相手のお荷物になりたくなくて、別れを告げて逃げるように田舎に帰ってきたみたいだけど、お相手は何もかも捨てて、正樹を追ってきたのよ」
「……う……ぇっ……」
はらはらと直の頬に雫が転がり、嗚咽が漏れた。
「良かったな、直」
「はい……教えてくれてありがとう、おばあちゃん」
「正樹は、好きな人の腕の中で眠るように逝ったそうよ。いつか二人で同じ墓に入りますって、葉書きが来ていたわ」
「どんな人だった?」
「金髪碧眼のゲルマン人ね。正樹はわたくしに似て、面食いだったみたい」
「……外国人だったの?」
「あら。直は、些細なことを気にするのね。」
直の祖母が広げた数枚の写真には、幸せそうな二人の青年の姿があった。視線をカメラに向けたまま、頬にキスを贈られた正樹がくすぐったそうにしている。
すっかり細くなった体は、愛する青年の腕の中にすっぽりと納まっていた。
「幸せそう……これ見て、お父さんや叔父さんたちは怒らなかった?」
「人を愛する気持ちは、誰にも責められるべきものではないわ。そうでしょう?正樹の人生は正樹のものですもの。」
「うん……」
「あなたのお父さんには、世間にしがらみがたくさんあって、それもかわいそうだと思うけれど、仕方がないわ。あの子は自分が強いから、身内の誰かが弱いのも許せなかったのね。直にもずいぶんきつく当たってきたけど、あれでも内心は誰よりも直のことを心配しているのよ」
「そうなのかな……おれ、中学の頃からお父さんとはまともに話していない気がする」
父親の話になると、直の顔はこわばる。進路の話をきちんと解決出来ないまま、家を出てしまった親子関係は未だ修復できていない。
互いに思いあえばこそ許せないのが親子というものだろうか。
本日もお読みいただきありがとうございます。(`・ω・´)
寂しくこの世を去っていたと思っていた従兄の最期は、光に包まれたものでした。
( ノД`) 良かったね~
直と松本のお話も、あと少しで終わります。
「まあちゃんは県外のホスピスに転院したって聞いたよ。それからすぐに、お父さんから亡くなったって知らされて、おれはすぐに会いに行きたかったけど、葬儀も終わったからって会えなくて……お父さんは、あんな奴は一族の面汚しだから、遠くの病院で死んでくれて良かったって言ったんだ。」
唇を震わせる直の姿に、正樹という青年がどれほど直にとって、大切な存在だったか知る。松本は、そっと背中に手を添わせた。
「おれ、まあちゃんがかわいそうで……何もできないのが悔しかった……」
「あなたの父親は、正樹の生き方を理解できなかったから、そういう風に伝えるしかできなかったの。正樹が亡くなったのは確かだけれど、本当のことを言うと正樹は迎えに来た恋人とホスピスを出たのよ」
「え……?」
「直が大人になったら全部伝えてくださいって、正樹の遺言だったの。でも、直はいつまでたっても子供だし、甘ちゃんですぐにめそめそするし、わたくしはこの話は墓場まで持っていくしかないかしらと腹をくくりかけていたのよ」
「そんな……」
「あら。わたくし、間違っていて?ねぇ、松本さん?」
同意を求められて、松本は苦笑いを浮かべるしかなかった。繊細な直に、すべてを受け止めることはできただろうか。危惧する通り、従兄の死を知って、何日も泣き続ける直の姿が容易に想像できた。
「恋人がいたんだ、まあちゃん……良かった。おれが知っているまあちゃんは、独りでずっと寂しそうだったから。」
「短い間だったけど、正樹は恋人と暮らせて幸せだったと思うわ。正樹は相手のお荷物になりたくなくて、別れを告げて逃げるように田舎に帰ってきたみたいだけど、お相手は何もかも捨てて、正樹を追ってきたのよ」
「……う……ぇっ……」
はらはらと直の頬に雫が転がり、嗚咽が漏れた。
「良かったな、直」
「はい……教えてくれてありがとう、おばあちゃん」
「正樹は、好きな人の腕の中で眠るように逝ったそうよ。いつか二人で同じ墓に入りますって、葉書きが来ていたわ」
「どんな人だった?」
「金髪碧眼のゲルマン人ね。正樹はわたくしに似て、面食いだったみたい」
「……外国人だったの?」
「あら。直は、些細なことを気にするのね。」
直の祖母が広げた数枚の写真には、幸せそうな二人の青年の姿があった。視線をカメラに向けたまま、頬にキスを贈られた正樹がくすぐったそうにしている。
すっかり細くなった体は、愛する青年の腕の中にすっぽりと納まっていた。
「幸せそう……これ見て、お父さんや叔父さんたちは怒らなかった?」
「人を愛する気持ちは、誰にも責められるべきものではないわ。そうでしょう?正樹の人生は正樹のものですもの。」
「うん……」
「あなたのお父さんには、世間にしがらみがたくさんあって、それもかわいそうだと思うけれど、仕方がないわ。あの子は自分が強いから、身内の誰かが弱いのも許せなかったのね。直にもずいぶんきつく当たってきたけど、あれでも内心は誰よりも直のことを心配しているのよ」
「そうなのかな……おれ、中学の頃からお父さんとはまともに話していない気がする」
父親の話になると、直の顔はこわばる。進路の話をきちんと解決出来ないまま、家を出てしまった親子関係は未だ修復できていない。
互いに思いあえばこそ許せないのが親子というものだろうか。
本日もお読みいただきありがとうございます。(`・ω・´)
寂しくこの世を去っていたと思っていた従兄の最期は、光に包まれたものでした。
( ノД`) 良かったね~
直と松本のお話も、あと少しで終わります。
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