Caféアヴェク・トワ 君と共に12
松本は慌てて顔を覗き込んだ。
「泣いているのか?傷が痛むか?」
「ち、違います……でも、朝からずっと、店長が目も合わせてくれなかったから……俺、悲しかったです。Caféに居場所がなくなるのかと思ったら、頭が真っ白になって……気が付いたら、手が血まみれになっていて……どうしていいか、わからなかった……」
「悪かった。お前が悪いんじゃない」
立ち止まって、松本は頭を下げた。
「これだけは言っておくが、直を信じていないわけじゃないんだ。」
「……?」
「自分勝手な思い込みで、拗ねていただけだ」
「どうしてですか?」
「直がオークジホテルで、どんどん頭角を現してパティシエとして立派になっていくのが、嬉しい反面、突然不安になっちまったんだ。言ってることが、矛盾しているよな。だが、向こうに直をくれないかと言われて、俺は直が向こうを選ぶんじゃないかと思った。」
「なんで……?俺はそんなこと、一度も考えたことないです……俺はいつだって、店長のそばで働くつもりで……向こうに行ったのだって、店長が行ってみるかって言ってくれたから決めたんです」
腑に落ちないという風に、直が問う。
「だよな。兄貴のダチがいるから、行ってみるかと俺が言ったんだよな。なのに、直がどんどん腕を上げて、向こうに馴染んでいくのを見ていると、いつか俺の手から離れていくような気がして不安になってな。女々しくて呆れただろ?俺は、昔から自分にからきし自信がねぇんだ」
松本はどこか恥ずかし気に、想いと行動がままならないんだと、ぶっきらぼうに語った。
「だけど、直が独り立ちしてぇとか、海外で本格的にケーキの勉強をしてぇというんだったら、本気で応援する気なんだぞ?」
「自信がないのはおれも同じです……おれは……店長がいたからここまで来れたんです。ホテルへの出向の話も、おれの腕が上がったらきっと店の役に立つと思ったし、店長が喜んでくれていると思ったから、受けたんです……本当は、ずっと店長の居るCaféにいたかったです」
直は思いを、必死に言葉に変えた。
「黒崎に落とされた暗闇から店長が引き上げてくれたこと……おれは一生忘れません。店長が何もできないおれをCaféに採用してくれたから、今のおれがあるんです。黒崎のことを吹っ切って、一度は捨てたケーキも作れるようになったんです」
「直」
「おれはできるなら、この先ずっと店長と一緒にCaféにいたいです。店長と一緒に、Caféを大きくしてゆくのが、今のおれの夢です……あの、勿論まだまだ、実力不足はわかっっているんですけど」
「そんなことねぇよ。オークジホテルのチーフが認めてるんだ。直の実力は本物だ」
「チーフが認めてくれるより、おれは店長が美味いって言ってくれる方がうれしいです」
「まいったな。直はずっと先を見ていたのにな。直のゆく道を照らしてやるなんて恰好のいいことを言っておきながら、この体たらくだ。ざまあねぇ」
直の吐露した本心に、さすがにいたたまれず松本は頭をかいた。
「ああ~、今すぐやりてぇなぁ」 、
「え?」
「怪我してるし、有休とって仕事は休めばいいな。よし、店長命令だ。今すぐ、アパートに帰って一発や……あっ、やべ、荒木が待ってる」
腕組みをして店の前に立っている荒木を見つけた松本は、前言を撤回した。
「え~と、心配させてしまったから、まずは皆に報告だな。やるのはそのあとだ」
「はい」
直が頬を染めて頷いた。
本日もお読みいただきありがとうございます。
まだ勘を取り戻せていませんが、松本と直を描きました。描くたび顔が違ってる……不思議~(´・ω・`)←実力
あれこれ頑張ります。 此花咲耶
「泣いているのか?傷が痛むか?」
「ち、違います……でも、朝からずっと、店長が目も合わせてくれなかったから……俺、悲しかったです。Caféに居場所がなくなるのかと思ったら、頭が真っ白になって……気が付いたら、手が血まみれになっていて……どうしていいか、わからなかった……」
「悪かった。お前が悪いんじゃない」
立ち止まって、松本は頭を下げた。
「これだけは言っておくが、直を信じていないわけじゃないんだ。」
「……?」
「自分勝手な思い込みで、拗ねていただけだ」
「どうしてですか?」
「直がオークジホテルで、どんどん頭角を現してパティシエとして立派になっていくのが、嬉しい反面、突然不安になっちまったんだ。言ってることが、矛盾しているよな。だが、向こうに直をくれないかと言われて、俺は直が向こうを選ぶんじゃないかと思った。」
「なんで……?俺はそんなこと、一度も考えたことないです……俺はいつだって、店長のそばで働くつもりで……向こうに行ったのだって、店長が行ってみるかって言ってくれたから決めたんです」
腑に落ちないという風に、直が問う。
「だよな。兄貴のダチがいるから、行ってみるかと俺が言ったんだよな。なのに、直がどんどん腕を上げて、向こうに馴染んでいくのを見ていると、いつか俺の手から離れていくような気がして不安になってな。女々しくて呆れただろ?俺は、昔から自分にからきし自信がねぇんだ」
松本はどこか恥ずかし気に、想いと行動がままならないんだと、ぶっきらぼうに語った。
「だけど、直が独り立ちしてぇとか、海外で本格的にケーキの勉強をしてぇというんだったら、本気で応援する気なんだぞ?」
「自信がないのはおれも同じです……おれは……店長がいたからここまで来れたんです。ホテルへの出向の話も、おれの腕が上がったらきっと店の役に立つと思ったし、店長が喜んでくれていると思ったから、受けたんです……本当は、ずっと店長の居るCaféにいたかったです」
直は思いを、必死に言葉に変えた。
「黒崎に落とされた暗闇から店長が引き上げてくれたこと……おれは一生忘れません。店長が何もできないおれをCaféに採用してくれたから、今のおれがあるんです。黒崎のことを吹っ切って、一度は捨てたケーキも作れるようになったんです」
「直」
「おれはできるなら、この先ずっと店長と一緒にCaféにいたいです。店長と一緒に、Caféを大きくしてゆくのが、今のおれの夢です……あの、勿論まだまだ、実力不足はわかっっているんですけど」
「そんなことねぇよ。オークジホテルのチーフが認めてるんだ。直の実力は本物だ」
「チーフが認めてくれるより、おれは店長が美味いって言ってくれる方がうれしいです」
「まいったな。直はずっと先を見ていたのにな。直のゆく道を照らしてやるなんて恰好のいいことを言っておきながら、この体たらくだ。ざまあねぇ」
直の吐露した本心に、さすがにいたたまれず松本は頭をかいた。
「ああ~、今すぐやりてぇなぁ」 、
「え?」
「怪我してるし、有休とって仕事は休めばいいな。よし、店長命令だ。今すぐ、アパートに帰って一発や……あっ、やべ、荒木が待ってる」
腕組みをして店の前に立っている荒木を見つけた松本は、前言を撤回した。
「え~と、心配させてしまったから、まずは皆に報告だな。やるのはそのあとだ」
「はい」
直が頬を染めて頷いた。
本日もお読みいただきありがとうございます。
まだ勘を取り戻せていませんが、松本と直を描きました。描くたび顔が違ってる……不思議~(´・ω・`)←実力
あれこれ頑張ります。 此花咲耶
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