Caféアヴェク・トワ 君と共に11
上から伸縮性の包帯を巻いてもらって、処置は終わった。
「数日たてば、仕事にも差し支えはないと思いますよ」
「ありがとうございます」
「水仕事をしても大丈夫なようにしておきましたけど、一応明日、見せに来てください。傷がつくまでしばらく絆創膏はそのままですけど、包帯は毎日交換に来てください」
「わかりました」
看護師の言葉に二人して神妙に頷く。
「はがれないテープだから入浴もできるけど、お風呂に入るときもそのままにしてくださいね。まあ、しばらくはシャワーの方がいいかな」
「はい」
右の中指と左の手のひらの傷の上に貼った特殊な透明なテープは、ぴったりと強力に張り付いて、傷口を小さく見せた。幸い、利き手の方が傷は浅かった。
「今は麻酔が効いているけど、数時間たったら痛み出すと思うよ。一応、痛み止めを出しておくけど、傷がくっつくまでは、できれば二日は位は動かさない方がいいね」
「大丈夫です。しばらく仕事は休ませます」
「え?でも、それは……先生も仕事はできるって……」
「何とかなる。直の方が大事だろ?今、無理をして取り返しのつかないことになったらどうするんだ」
軽く怒気を含んだ松本の声に、直はそれ以上何も言えなかった。
「傷の方は、なるべく跡が残らないように処置をしましたから、安心してね」
「ありがとうございます。お世話になりました」
支払いを待つ間、病院の待合室で安堵した松本は、ふと周囲を見渡し目をむいた。
「ここ……」
「……赤ちゃんのポスター多いですね?」
「まじかよ」
産婦人科の待合室で、二人は顔を見合わせ赤面した。
「すみません……」
「直が謝ることじゃねぇだろ。まあ、産科医でも腕は確かなようだから、よかったな。少し休めば、これまで通りだ」
「はい」
いつも通りの松本の優しい声にほっとして、やっと笑みを浮かべた直だった。
「帰るぞ」
菅谷ウイメンズクリニックと書かれた袋をもらって会計を済ませ、松本は軽傷の方の手首を引いた。
直はどこか嬉しそうだ。
「産婦人科だったとはな。当分あいつらのネタだぞ、直」
「すみません」
「謝るのは俺の方だ。悪かったな。大人げなく八つ当たりしちまって……俺のせいで、大事な指に怪我をさせちまった……」
「おれの不注意ですから。それに大した怪我じゃありません」
直の指は出血のわりに、それほど重傷ではなかった。
互いにほっとしたせいか、饒舌になっていた。
「あ~あ!それにしても、直のばあちゃんになんて言えばいいんだろうな。任せてくださいなんて、大見栄切ったのに、怪我させましたなんてどの面下げて報告すりゃいいんだ、情けねぇ」
「そんな……大丈夫ですよ。おばあちゃんは、直は本当にどんくさいわねぇって、笑うと思います」
「そうか?」
「松本さんに、迷惑かけるんじゃありませんって、俺の方が叱られるかも……です」
「安心しろ。俺が全力で謝るから」
直は今朝までの松本の不機嫌の理由はわからなかったが、どうやら自己完結しているらしい今なら聞けるかもしれないと思った。
「あ……の。店長の様子がおかしかった理由……聞いてもいいですか?」
「ん?」
「おれ……自分が何かしてしまったのだと思っていました。……でも思い当たる事がなくて……酔っぱらって迷惑かけたのかなと考えたけど……っ、もし……おれに、悪いところがあるんだったら教えてください」
「直?」
「店長に嫌われたら……おれ……Caféにいられないから……」
足を止めて振り返ったら、直は真横をむいて顔を見られまいとした。松本は、頬につっと、光るものが零れたのを認めた。
本日もお読みいただきありがとうございます。(`・ω・´)
直くんは、胸がいっぱいです。こんなに一途でどうしましょう。好きだけど。(*^▽^*)
「数日たてば、仕事にも差し支えはないと思いますよ」
「ありがとうございます」
「水仕事をしても大丈夫なようにしておきましたけど、一応明日、見せに来てください。傷がつくまでしばらく絆創膏はそのままですけど、包帯は毎日交換に来てください」
「わかりました」
看護師の言葉に二人して神妙に頷く。
「はがれないテープだから入浴もできるけど、お風呂に入るときもそのままにしてくださいね。まあ、しばらくはシャワーの方がいいかな」
「はい」
右の中指と左の手のひらの傷の上に貼った特殊な透明なテープは、ぴったりと強力に張り付いて、傷口を小さく見せた。幸い、利き手の方が傷は浅かった。
「今は麻酔が効いているけど、数時間たったら痛み出すと思うよ。一応、痛み止めを出しておくけど、傷がくっつくまでは、できれば二日は位は動かさない方がいいね」
「大丈夫です。しばらく仕事は休ませます」
「え?でも、それは……先生も仕事はできるって……」
「何とかなる。直の方が大事だろ?今、無理をして取り返しのつかないことになったらどうするんだ」
軽く怒気を含んだ松本の声に、直はそれ以上何も言えなかった。
「傷の方は、なるべく跡が残らないように処置をしましたから、安心してね」
「ありがとうございます。お世話になりました」
支払いを待つ間、病院の待合室で安堵した松本は、ふと周囲を見渡し目をむいた。
「ここ……」
「……赤ちゃんのポスター多いですね?」
「まじかよ」
産婦人科の待合室で、二人は顔を見合わせ赤面した。
「すみません……」
「直が謝ることじゃねぇだろ。まあ、産科医でも腕は確かなようだから、よかったな。少し休めば、これまで通りだ」
「はい」
いつも通りの松本の優しい声にほっとして、やっと笑みを浮かべた直だった。
「帰るぞ」
菅谷ウイメンズクリニックと書かれた袋をもらって会計を済ませ、松本は軽傷の方の手首を引いた。
直はどこか嬉しそうだ。
「産婦人科だったとはな。当分あいつらのネタだぞ、直」
「すみません」
「謝るのは俺の方だ。悪かったな。大人げなく八つ当たりしちまって……俺のせいで、大事な指に怪我をさせちまった……」
「おれの不注意ですから。それに大した怪我じゃありません」
直の指は出血のわりに、それほど重傷ではなかった。
互いにほっとしたせいか、饒舌になっていた。
「あ~あ!それにしても、直のばあちゃんになんて言えばいいんだろうな。任せてくださいなんて、大見栄切ったのに、怪我させましたなんてどの面下げて報告すりゃいいんだ、情けねぇ」
「そんな……大丈夫ですよ。おばあちゃんは、直は本当にどんくさいわねぇって、笑うと思います」
「そうか?」
「松本さんに、迷惑かけるんじゃありませんって、俺の方が叱られるかも……です」
「安心しろ。俺が全力で謝るから」
直は今朝までの松本の不機嫌の理由はわからなかったが、どうやら自己完結しているらしい今なら聞けるかもしれないと思った。
「あ……の。店長の様子がおかしかった理由……聞いてもいいですか?」
「ん?」
「おれ……自分が何かしてしまったのだと思っていました。……でも思い当たる事がなくて……酔っぱらって迷惑かけたのかなと考えたけど……っ、もし……おれに、悪いところがあるんだったら教えてください」
「直?」
「店長に嫌われたら……おれ……Caféにいられないから……」
足を止めて振り返ったら、直は真横をむいて顔を見られまいとした。松本は、頬につっと、光るものが零れたのを認めた。
本日もお読みいただきありがとうございます。(`・ω・´)
直くんは、胸がいっぱいです。こんなに一途でどうしましょう。好きだけど。(*^▽^*)
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