Caféアヴェク・トワ 君と共に10
血相を変えた松本は、転がり込むように目当ての病院に到着すると、入り口にある救急用の緊急ボタンを連打した。
「すみませんっ!急患です!」
インターホンから、どうされましたかと声がする。
「お願いしますっ。すぐに診てください。血が止まらないんです!」
「出血されているんですね?わかりました。すぐに先生を呼びますから、落ち着いてお待ちください。解錠しますから、お入りになって」
「はいっ!」
慌ただしく白衣に袖を通しながらかけてきた医師が、看護師に指示をする。
「出血だね?切迫流産かな?初めての患者さん?……あれっ……?」
足を止めた医師に、松本は深く頭を下げた。
「近くの飲食店のものです。従業員が怪我をして出血がひどかったので、一番近い病院に駆け込んだんです。お騒がせしてすみません」
「ああ、そうなの。出血してるっていうから、一刻の猶予もないのだろうと焦ってしまったよ。見せてごらん。深いね……なんで両手を怪我したの?ああ、右手の傷は浅いかな」
「ガラス瓶を割ってしまって……驚いて思わず……」
「握りこんでしまったのかな。処置するから、すぐに診察室に入って」
傷を見た医師は、ん~、これは縫った方がいいね~とつぶやくと、看護師に準備をするように命じた。
「あのっ。直はパティシエなんです。どうか元通りに直してやってください。お願いします」
「そう、職人さんなの。」
血染めの指を曲げて、一本ずつ筋や骨に異常がないのを確かめると、医師は穏やかに微笑んだ。
「うん。大丈夫そうだ。利き腕は右かい?筋を痛めてなくてよかったね。ガラスの傷は馬鹿にできないんだよ。筋を痛めていたら、大きな病院で腱を繋ぐ手術をしなくちゃいけない。それに、傷を洗っておいてくれて、よかった。ガラス片が中に食い込んだままだと、面倒なことになっていたよ。」
そういわれてやっとほんの少し安堵した松本だった。
「これから手のひらを何針か縫うんだけど、指に麻酔するからね、少し痛いけど、まあ男の子だし我慢できるかな」
「指に直接、針を刺すんですか?」
「そうだよ」
看護師が運んできた数本の注射器を見て、松本が思わずげっと口走ったのに、ちらりと医師は視線を送り、こともなげに言った。
「麻酔しないと、直接縫うことになるけどいい?」
「うわぉ、無理っす……先生、よろしくお願いします。なるべく痛くないようにしてやってください」
痛みを想像するだけで、肌が泡立つ松本だった。
「がんばれよ、直」
「はい」
医師と看護師が手当てしている間、松本は直の反対側の手首をぎゅっと握っていた。
おそらく親指の付け根への麻酔注射は、かなりの痛みを伴うのだろう。横顔を窺うと、直の額に脂汗が浮かんでいる。
苦痛にゆがむ顔を見ながら、いっそ代わってやりたいと思った。
直は、普段厨房で注意散漫になるようなことはない。蜂蜜の瓶を取り落とし、慌てて素手でガラスの欠片を触るなど、これまでの直からは想像できなかった。
松本の冷淡な態度が、きっと直を平常心でいられないほど傷つけたのに違いない。
心の中で自分を責めた。
「俺のせいだ。すまん、直。すまん……」
本日もお読みいただきありがとうございます。(`・ω・´)
最近は、深い切り傷もほとんど痕を残さないで治るのです。お友達が顔に深い傷を負ったのですが、テープを張って貰って、きれいに治ってびっくりです。←ネタに使った~(*´▽`*)
(´・ω・`) 「痛いか、直」
(´;ω;`) 「だいじょぶ……」
「すみませんっ!急患です!」
インターホンから、どうされましたかと声がする。
「お願いしますっ。すぐに診てください。血が止まらないんです!」
「出血されているんですね?わかりました。すぐに先生を呼びますから、落ち着いてお待ちください。解錠しますから、お入りになって」
「はいっ!」
慌ただしく白衣に袖を通しながらかけてきた医師が、看護師に指示をする。
「出血だね?切迫流産かな?初めての患者さん?……あれっ……?」
足を止めた医師に、松本は深く頭を下げた。
「近くの飲食店のものです。従業員が怪我をして出血がひどかったので、一番近い病院に駆け込んだんです。お騒がせしてすみません」
「ああ、そうなの。出血してるっていうから、一刻の猶予もないのだろうと焦ってしまったよ。見せてごらん。深いね……なんで両手を怪我したの?ああ、右手の傷は浅いかな」
「ガラス瓶を割ってしまって……驚いて思わず……」
「握りこんでしまったのかな。処置するから、すぐに診察室に入って」
傷を見た医師は、ん~、これは縫った方がいいね~とつぶやくと、看護師に準備をするように命じた。
「あのっ。直はパティシエなんです。どうか元通りに直してやってください。お願いします」
「そう、職人さんなの。」
血染めの指を曲げて、一本ずつ筋や骨に異常がないのを確かめると、医師は穏やかに微笑んだ。
「うん。大丈夫そうだ。利き腕は右かい?筋を痛めてなくてよかったね。ガラスの傷は馬鹿にできないんだよ。筋を痛めていたら、大きな病院で腱を繋ぐ手術をしなくちゃいけない。それに、傷を洗っておいてくれて、よかった。ガラス片が中に食い込んだままだと、面倒なことになっていたよ。」
そういわれてやっとほんの少し安堵した松本だった。
「これから手のひらを何針か縫うんだけど、指に麻酔するからね、少し痛いけど、まあ男の子だし我慢できるかな」
「指に直接、針を刺すんですか?」
「そうだよ」
看護師が運んできた数本の注射器を見て、松本が思わずげっと口走ったのに、ちらりと医師は視線を送り、こともなげに言った。
「麻酔しないと、直接縫うことになるけどいい?」
「うわぉ、無理っす……先生、よろしくお願いします。なるべく痛くないようにしてやってください」
痛みを想像するだけで、肌が泡立つ松本だった。
「がんばれよ、直」
「はい」
医師と看護師が手当てしている間、松本は直の反対側の手首をぎゅっと握っていた。
おそらく親指の付け根への麻酔注射は、かなりの痛みを伴うのだろう。横顔を窺うと、直の額に脂汗が浮かんでいる。
苦痛にゆがむ顔を見ながら、いっそ代わってやりたいと思った。
直は、普段厨房で注意散漫になるようなことはない。蜂蜜の瓶を取り落とし、慌てて素手でガラスの欠片を触るなど、これまでの直からは想像できなかった。
松本の冷淡な態度が、きっと直を平常心でいられないほど傷つけたのに違いない。
心の中で自分を責めた。
「俺のせいだ。すまん、直。すまん……」
本日もお読みいただきありがとうございます。(`・ω・´)
最近は、深い切り傷もほとんど痕を残さないで治るのです。お友達が顔に深い傷を負ったのですが、テープを張って貰って、きれいに治ってびっくりです。←ネタに使った~(*´▽`*)
(´・ω・`) 「痛いか、直」
(´;ω;`) 「だいじょぶ……」
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