Caféアヴェク・トワ 君と共に21
「店長……匡さんに、まあちゃんの事を紹介していたんです。」
「会わせたい従兄がいると聞いて、何も考えずに来てしまいました。言い訳になりますけど、お宅には帰りに伺うつもりでした」
鼻の頭に浮いた汗をそっと清楚なハンケチで抑えた直の祖母は、思いがけないことを告げた。
「折角参ってくれたけど、そこのお墓に、正樹はいないのよ」
「え……っ?」
「知らなかったでしょう?あの子がなくなったとき、直はまだ幼かったから、誰も本当のことを教えなかったのね」
「おばあちゃん。じゃあ、まあちゃんはどこに?相良のお墓にも入れてもらえなかったってこと……?そんなの、ひどいよ……」
すっと青ざめた直が、必死に問う。
「ここで立ち話もなんだから、いったん家に帰りましょう。わたくし、すっかり疲れたわ」
「でも……」
「直。座る場所もないんだ。お言葉に甘えて、お邪魔しよう。な?」
「……はい」
「あら。直、その手の包帯はどうしたの?」
「あ、ちょっと怪我してしまって」
「どんくさいわねぇ。職人が手に怪我するなんて、松本さんにご迷惑かけたんじゃないの?大体あなたは、昔から思いつめると他が見えなくなる癖があるんだから、もう少し自覚なさい」
しょんぼりとしてしまった直を励ますように、松本は笑いかけた。
「まあちゃんの話を聞かせてもらうんだろ?行くぞ」
「はい」
*****
以前、Caféを去ろうとした直を探して、考えもなく訪れた久しぶりの相良の家は相変わらず門構えも圧倒的だ。
松本は思わず気圧されて笑ってしまった。
「どうしたんですか?」
「ああ。前に来たことを思い出したんだ。茶道の作法もまともに知らねぇで、直のばあちゃんと対峙したのは我ながら無謀だったと思ってな」
「あら。その割には堂々としてらしたわ。客間にいらしてね。すぐに飲み物を持ってこさせるから……直。ご案内して」
「はい」
小走りに先を行く直は、少し待っていてくださいと声をかけ、何やらアルバムを持ってきた。
「まあちゃんの写真です」
「そうか」
「おれがうんとちびの頃のばかりなんですけど、面差しは変わっていないから、見てください」
写真の中に切り取られた過去の記憶は、直にとっても懐かしいものだったらしく、直はしばしばと目を瞬かせた。
「懐かしいなぁ。これ、プールで遊んでもらった写真だ」
「へぇ、どこか近くの公園か?」
「いえ、自宅です。中庭に小さなプールがあって……」
「ブルジョアめ」
小さな直は、今と同じように伏し目がちで静かに困ったように微笑んでそこにいた。仲の良かったという従兄と一緒にいるときだけ、表情が明るく変わっているのは、ほかの写真と比べると一目瞭然だった。
「直に似ているな」
「そうですか?」
「ああ。目元とかそっくりだ」
「叔父さんたちが、従兄結婚だったからかもしれません」
二人して過去をたどっていると、直の祖母が顔を出した。
「お邪魔しても良くって?」
「あ、勿論です。すみません、よその家なのにすっかりくつろいでいました」
「おばあちゃん。まあちゃんの事を教えて」
「そのつもりですよ。直はどこまで知っているのかしら?正樹がホスピスに入院していたことは知っているわね?」
「何度か、お見舞いに行ったから。でも、あそこは遠くて自転車で行ったけど、帰りが遅くなってすぐにお父さんにばれてしまったんだ」
「そうねぇ。車でも40分かかるんですもの、あなたには無理な距離だったわね」
「一度バスで行ったけど、お父さんにすぐばれてしまって、すごく怒られたのを覚えてる」
「あのころから、直はどんくさかったのよ。わたくしに言えば何とかしてあげたのに、いつも一人で何とかしようとしては、必ず失敗するんですもの」
涼しい顔でそういう直の祖母は、どこか木庭組先代の妾を思い出させる。茶目っ気があって、厳しい中にも愛情があった。
本日もお読みいただきありがとうございます。(´・ω・`)
どうやらキーワードに引っかかったみたいだったので、変えてみました。
これで上がるといいんですけど……
「会わせたい従兄がいると聞いて、何も考えずに来てしまいました。言い訳になりますけど、お宅には帰りに伺うつもりでした」
鼻の頭に浮いた汗をそっと清楚なハンケチで抑えた直の祖母は、思いがけないことを告げた。
「折角参ってくれたけど、そこのお墓に、正樹はいないのよ」
「え……っ?」
「知らなかったでしょう?あの子がなくなったとき、直はまだ幼かったから、誰も本当のことを教えなかったのね」
「おばあちゃん。じゃあ、まあちゃんはどこに?相良のお墓にも入れてもらえなかったってこと……?そんなの、ひどいよ……」
すっと青ざめた直が、必死に問う。
「ここで立ち話もなんだから、いったん家に帰りましょう。わたくし、すっかり疲れたわ」
「でも……」
「直。座る場所もないんだ。お言葉に甘えて、お邪魔しよう。な?」
「……はい」
「あら。直、その手の包帯はどうしたの?」
「あ、ちょっと怪我してしまって」
「どんくさいわねぇ。職人が手に怪我するなんて、松本さんにご迷惑かけたんじゃないの?大体あなたは、昔から思いつめると他が見えなくなる癖があるんだから、もう少し自覚なさい」
しょんぼりとしてしまった直を励ますように、松本は笑いかけた。
「まあちゃんの話を聞かせてもらうんだろ?行くぞ」
「はい」
*****
以前、Caféを去ろうとした直を探して、考えもなく訪れた久しぶりの相良の家は相変わらず門構えも圧倒的だ。
松本は思わず気圧されて笑ってしまった。
「どうしたんですか?」
「ああ。前に来たことを思い出したんだ。茶道の作法もまともに知らねぇで、直のばあちゃんと対峙したのは我ながら無謀だったと思ってな」
「あら。その割には堂々としてらしたわ。客間にいらしてね。すぐに飲み物を持ってこさせるから……直。ご案内して」
「はい」
小走りに先を行く直は、少し待っていてくださいと声をかけ、何やらアルバムを持ってきた。
「まあちゃんの写真です」
「そうか」
「おれがうんとちびの頃のばかりなんですけど、面差しは変わっていないから、見てください」
写真の中に切り取られた過去の記憶は、直にとっても懐かしいものだったらしく、直はしばしばと目を瞬かせた。
「懐かしいなぁ。これ、プールで遊んでもらった写真だ」
「へぇ、どこか近くの公園か?」
「いえ、自宅です。中庭に小さなプールがあって……」
「ブルジョアめ」
小さな直は、今と同じように伏し目がちで静かに困ったように微笑んでそこにいた。仲の良かったという従兄と一緒にいるときだけ、表情が明るく変わっているのは、ほかの写真と比べると一目瞭然だった。
「直に似ているな」
「そうですか?」
「ああ。目元とかそっくりだ」
「叔父さんたちが、従兄結婚だったからかもしれません」
二人して過去をたどっていると、直の祖母が顔を出した。
「お邪魔しても良くって?」
「あ、勿論です。すみません、よその家なのにすっかりくつろいでいました」
「おばあちゃん。まあちゃんの事を教えて」
「そのつもりですよ。直はどこまで知っているのかしら?正樹がホスピスに入院していたことは知っているわね?」
「何度か、お見舞いに行ったから。でも、あそこは遠くて自転車で行ったけど、帰りが遅くなってすぐにお父さんにばれてしまったんだ」
「そうねぇ。車でも40分かかるんですもの、あなたには無理な距離だったわね」
「一度バスで行ったけど、お父さんにすぐばれてしまって、すごく怒られたのを覚えてる」
「あのころから、直はどんくさかったのよ。わたくしに言えば何とかしてあげたのに、いつも一人で何とかしようとしては、必ず失敗するんですもの」
涼しい顔でそういう直の祖母は、どこか木庭組先代の妾を思い出させる。茶目っ気があって、厳しい中にも愛情があった。
本日もお読みいただきありがとうございます。(´・ω・`)
どうやらキーワードに引っかかったみたいだったので、変えてみました。
これで上がるといいんですけど……
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