Caféアヴェク・トワ 君と共に19
それに運が良かったと、松本は笑う。
「俺と出会っただろ」
「幸運でした」
「冗談だ、ばか。それよりもな、俺はこれまで不思議だったんだ」
「何がですか?」
「どういえばいいのかな。直は俺のことをまっすぐに好きだというだろう?普通に考えたら、男が好きだなんて後ろめたいと思うはずだろ?ましてや、直の家はあんなにでかくて、身内もちゃんとしているから……言い方は悪いが、俺みたいなタイプと一緒にいるのは道を外れるっていうか、親父さんとかまともな人間から見たら、普通じゃないだろ?だから、そこに怯えるんじゃねぇかと思っていたんだよ。俺は、どちらかというとまっとうじゃないって後ろ指指される方の部類だろうしな」
「おれのこと、変な奴だって思ってました?」
「そうじゃなくてな。折れそうに見えて芯が強いのが不思議だと思っていた」
「おれね、まあちゃんの事があって、自分に正直に生きようって思ったんです。誰かにそしられたり、常識から外れてるって言われても、自分の気持ちを信じるんです……」
「まあちゃんって従兄が、直は直らしく生きろって背中を押してくれたんだな」
「ええ。ぼくだけは何があっても、直の味方だよって言ってくれました。おれは何もまあちゃんに打ち明けたことなかったんですけど、お見通しだったんですね、きっと」
「直の感情は、いつだってわかりやすいからな」
「そうですか?」
「ああ。すごくわかりやすいぞ」
「好きなものは、好きって言っていいんだよ……っていうのが、まあちゃんがおれに言ってくれた最期の言葉だったんです。だから俺は店長の事、迷惑かもしれませんけど毎日大好きって言うんです。」
ふふっといたずらっ子のように、直が笑う。
その背後にやさしい青年が佇んでいるのが見えるような気がした。
「折角だから、まあちゃんに頼んでおくかな」
「え……?」
「直は必ず俺が幸せにします。どうか見守ってやってください」
「店長……」
「直の心配はいりませんって、ここで言っておけばゆっくり眠れるんじゃねぇか。俺じゃかえって不安にさせちまうかもしれねぇけどな」
涙ぐんだ直が、とんと胸に頭を預けてきた。
「生きてるうちに、会ってもらいたかったな。きっとすごく……すごく喜んでくれたと思うのに……」
直の従兄の悲しい恋の話は、同性愛者にはきっとよくある話なのだろう。
松本の兄分の持っている、同性愛者向けのメンズキャバクラでもそういう話は誰かがしていたように思う。どれほど日本が自由な国だといっても、それは一部の人間が語る綺麗ごとにしか過ぎない。
普通じゃない自分を恥じ、親の苦しみを我がことのように受け止めて、静かに存在を消すしかなかった心優しい人たちを、松本も何人も見てきた。
それでも、優しい従兄が直の苦しみを少しでも癒してくれたと知れば、感謝せずにはいられなかった。
苦しい恋をし、病を得て独り静かにこの世を去ったという直の従兄。
「直は、まあちゃんの分まで幸せにならなきゃな」
「はい」
「俺は馬鹿だから、すぐに暴走するし、思い込みが激しいから、今度みたいなことがまたないとも限らねぇ」
直の濡れた黒曜石の瞳が、じっと松本を見つめた。
「だけど金輪際、俺には直だけだ。直の一生を俺にくれ。その代り、俺を丸ごとお前にやるから」
「店長を……?」
「ああ。直は、要らないって言うかもしれないけどな」
「そんなこと……」
「直……?」
本日もお読みいただきありがとうございます。
誰かに支えられて生きている……二人して実感しています。
松本が少し焦っているのが笑えます。(*´▽`*)
「俺と出会っただろ」
「幸運でした」
「冗談だ、ばか。それよりもな、俺はこれまで不思議だったんだ」
「何がですか?」
「どういえばいいのかな。直は俺のことをまっすぐに好きだというだろう?普通に考えたら、男が好きだなんて後ろめたいと思うはずだろ?ましてや、直の家はあんなにでかくて、身内もちゃんとしているから……言い方は悪いが、俺みたいなタイプと一緒にいるのは道を外れるっていうか、親父さんとかまともな人間から見たら、普通じゃないだろ?だから、そこに怯えるんじゃねぇかと思っていたんだよ。俺は、どちらかというとまっとうじゃないって後ろ指指される方の部類だろうしな」
「おれのこと、変な奴だって思ってました?」
「そうじゃなくてな。折れそうに見えて芯が強いのが不思議だと思っていた」
「おれね、まあちゃんの事があって、自分に正直に生きようって思ったんです。誰かにそしられたり、常識から外れてるって言われても、自分の気持ちを信じるんです……」
「まあちゃんって従兄が、直は直らしく生きろって背中を押してくれたんだな」
「ええ。ぼくだけは何があっても、直の味方だよって言ってくれました。おれは何もまあちゃんに打ち明けたことなかったんですけど、お見通しだったんですね、きっと」
「直の感情は、いつだってわかりやすいからな」
「そうですか?」
「ああ。すごくわかりやすいぞ」
「好きなものは、好きって言っていいんだよ……っていうのが、まあちゃんがおれに言ってくれた最期の言葉だったんです。だから俺は店長の事、迷惑かもしれませんけど毎日大好きって言うんです。」
ふふっといたずらっ子のように、直が笑う。
その背後にやさしい青年が佇んでいるのが見えるような気がした。
「折角だから、まあちゃんに頼んでおくかな」
「え……?」
「直は必ず俺が幸せにします。どうか見守ってやってください」
「店長……」
「直の心配はいりませんって、ここで言っておけばゆっくり眠れるんじゃねぇか。俺じゃかえって不安にさせちまうかもしれねぇけどな」
涙ぐんだ直が、とんと胸に頭を預けてきた。
「生きてるうちに、会ってもらいたかったな。きっとすごく……すごく喜んでくれたと思うのに……」
直の従兄の悲しい恋の話は、同性愛者にはきっとよくある話なのだろう。
松本の兄分の持っている、同性愛者向けのメンズキャバクラでもそういう話は誰かがしていたように思う。どれほど日本が自由な国だといっても、それは一部の人間が語る綺麗ごとにしか過ぎない。
普通じゃない自分を恥じ、親の苦しみを我がことのように受け止めて、静かに存在を消すしかなかった心優しい人たちを、松本も何人も見てきた。
それでも、優しい従兄が直の苦しみを少しでも癒してくれたと知れば、感謝せずにはいられなかった。
苦しい恋をし、病を得て独り静かにこの世を去ったという直の従兄。
「直は、まあちゃんの分まで幸せにならなきゃな」
「はい」
「俺は馬鹿だから、すぐに暴走するし、思い込みが激しいから、今度みたいなことがまたないとも限らねぇ」
直の濡れた黒曜石の瞳が、じっと松本を見つめた。
「だけど金輪際、俺には直だけだ。直の一生を俺にくれ。その代り、俺を丸ごとお前にやるから」
「店長を……?」
「ああ。直は、要らないって言うかもしれないけどな」
「そんなこと……」
「直……?」
本日もお読みいただきありがとうございます。
誰かに支えられて生きている……二人して実感しています。
松本が少し焦っているのが笑えます。(*´▽`*)
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