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波濤を越えて 第二章 22 

コンビニで買って来た飲み物を並べて車座になり、これまでのことを三人で話をした。
フリッツが、ギリシャの不良債権を殆どうまく回収できたと聞いて、正樹は自分の事のように喜んだ。

「すぐに手を打ったのが良かったんだね、きっと。本当に良かった。叔父さんの会社は大丈夫だったんだね?」
「大丈夫。それに、日本でも取り扱いをしてくれる店が、何軒か増えました。だから、これからもっと沢山の作品を作るつもりです」
「そう……フリッツは陶芸マイスターだものね。仕事はやっぱりローテンブルグでするの?」
「それについては、ゆっくり話をします。まず、田神さん。あなたにはどう感謝を伝えればいいかわかりません。正樹の事を知らせてくださって、ほんとうにありがとう」
「改まって言われると照れるよ。正樹が携帯の電源を落としているって、気づいたのが遅くて……もっと早くに知らせれば良かったんだけど、こっちもバタバタしていたから。ともかく間に合ってよかったよ」
「はい。わたしにもいろいろ準備がありましたから」
「正樹は意地っ張りだから、事前にフリッツが来るなんて言えば、どこかに雲隠れしてしまうかもしれないしね」
「そんなことないよ」

フリッツは手を伸ばし、正樹を引き寄せた。逃げ出さないように、手の甲を大きな手で覆い指を絡める。

「正樹はどうしていなくなろうとしたの?聞きたいです」
「どうしてって……田神に聞いたんじゃないの?」
「病気の事?なぜ、わたしに秘密にしようとしたのか知りたいです」
「……何故って……困らせたくないじゃないか。仕事で大変な時に心配かけたくなかったし、言えばフリッツが無理をすると思ったんだよ」
「わたしが正樹の為に無理をするから、言わなかったの?」
「うん……」
「大切な人と一緒に居るために、多少の無理をするのは当たり前のことです。わたしは、正樹が一人ぼっちで泣いている方が悲しい。長い間傍に居られなくて、寂しい思いをさせてしまったけれど……とても胸が痛いです。ずっと正樹の事ばかり考えてきました」
「フリッツ……」
「正樹が苦しい時、わたしは何も知らなかった。どうして正樹は傍に居て欲しいと言ってくれなかったの?」
「あの……」

フリッツの優しい空色の目に映る、自分の姿がゆがんで見えた。フリッツは正樹が話始めるのをじっと待っている。




本日もお読みいただきありがとうございます。
間もなく着地予定です。


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