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白い開襟シャツの少年 2 

終戦の夏。

玉音放送が、戦争と初恋の終わりを告げたんだと、じいちゃんは言った。

「……で、結局、成城のじいちゃんとの恋はどうなったの?」

じいちゃんは、枕元に飾られている、大分前に亡くなったばあちゃんの写真を取り上げて笑った。

「おまえ、ちょっとは、ばあちゃんに気を使えよ。あいつとの恋が成就してたら、おまえがここにいるわけないだろうよ。初恋は神代の時代から清らかなもんと決まってるんだ。」

ふふっと笑う、孫は夏期講習帰りの白いシャツだ。
若い美佐雄に、とてもよく似ていた。
でもさ、と孫は口を尖らせた。

「じいちゃんの娘の母ちゃんと、初恋の成城のじいちゃんの息子の父ちゃんが結婚したんでしょ?」
「俺が生まれたって事はさ。ある意味、初恋が叶ったって事じゃないの?」

さあなぁと、病床のじいちゃんは遠くを見あげてほっと息をついた。

「向こうで、聞いてみるさ。直に、逢えるだろうからな」

まだ、あの日の宿題も残ってるしな……


あの日。

あれから、方法も分からぬまま、二人は乱暴に身体を重ねた。
半分皮をかむったお互いの前方を、ひたすら捏(こ)ね、忙しなくこするだけの幼い愛撫だった。

「あ……ぁっ!美佐雄っ」
「あぁーー……っ」

突然小さな悲鳴を発して、手のひらに粘着する薄い白濁の液体が散った。
顔を見合わせたら、美佐雄が泣きそうな顔をしていた。
しょんぼりと頭を垂れたのは、相手より先に達ってしまった切ない罪悪感だ。

「ぼく……」

腰の手ぬぐいで手を拭いてやり、まだ熱を持って起とうとする自分のモノを、ごまかしながらしまった。
赤い頬をうつむけたまま、目もとに滴を宿して美佐雄は黙りこくっていた。

「俺さ、今度お前に逢うときにはうんといい男になってさ、どうやったらいいか花街で男女郎(おとこえし)に男とのやり方ちゃんと習っておくからさ。う~んと泣かせてやるから、覚悟して待ってろよ。」
「ん……」

濡れた瞳が三日月になり、美佐雄は恒介の首に縋った。


長い長い月日が流れ、恋だったのか慕情だったのか、友情だったのか確かめる事もなく二人は老いた。
今生で、もう問うことは出来ない。
先に成城の祖父がみまかった。

入道雲が湧き上がる日。

じいちゃんは、初恋の人に会いに、彼岸へと旅立った。




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