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実るほど、愛の花咲く稲穂かな 1 

遠距離恋愛なんて、絶対上手くゆくはずが無い。
きっと、これでお終いになってしまう。
おまえは俺のことなんか忘れて、田舎のどこかですぐに可愛い相手を見つける。
そう言って春、遠く九州の大学に行くという穂(みのる)に、散々泣き言を言った。

「絶対、大丈夫。だってそんなゆるい絆じゃないでしょ。俺ら」

それは、そうなんだけどさ。
そう思いたいけどさ。
だったら、この電話は何?

「うっ……うっ……望(のぞむ)っ。純子が、もうだめだって言うんだ……うっ……うっ……」
「純子?」
「何とかならないかな……望……うっ、うっ……俺、辛くてどうしていいか……」

俺は携帯電話の向こうに、そういう電話を俺にかけてくるのはどうかしてるぞと怒鳴った。
穂(みのる)の泣き声は可愛いけど。
うっかりそう思ってしまったけど。
傍にいれば、肩の一つも抱くだろうとは思うけど。
……くすん。
何で、女の相談なんかしてくるんだよ。
仮にも、俺達は恋人同士なんじゃないのか?
少しはルールとか、遠慮とか、気遣いとかあってしかるべきなんじゃないかと思う。
遠く離れてしまって、今や次の夏季休暇にも逢えるかどうかわからないと言われたけど、帰ってこれない理由がこの「純子」と言う女なのかと思うと切なくて馬鹿馬鹿しくてたまらなかった。

「バカやろうっ!!ぴいぴい泣くなっ!」

そして、次の日も。

「うっ……うっ……望……っ。美代子が別れるときに泣くんだ。俺、俺……どうしたら……うっ……うっ、美代子~っ」

「バカやろうっ!!とっかえひっかえしてんじゃねぇ。ぴいぴい泣くなっ!」

うんざりとした俺は、次の日、いつもつるんでいる友人、遥(はるか)を呼び出して愚痴った。

「なあ、あいつさ。九州に行って女出来たみたいでさ……毎日、女が泣くって電話してくんのよ」
「は?女?そんなわけないでしょう?知ってるけど一途なヤツだよ、あいつ」

俺は毎日、純子や美代子との別れ話を聞かされているという話をした。
俺は、ただ慰めて欲しかっただけなのかもしれない。
しばらく黙って聞いていた遥(はるか)は携帯のニュース画面を開いた。

「見てみ」

携帯を操作しながら、遥はこちらを向く事無く告げた。

「望。穂(みのる)の専攻って畜産科だったかねぇ。あいつ、獣医になりたいとか言ってなかったっけ?」
「ああ。遠距離になるから散々近くにしろっていったのに、スーパー種牛だとか、スーパー種豚とかに興味があるって行っちまったのよ。挙句の果てに、二股、三股かけられて可哀想な俺……」
「馬鹿言え。可哀想なのは穂(みのる)の方だ。恋人がこんな薄情じゃ、もう電話もかけてこないな」
「ん?どういう意味?」
「ほら」

向けられて覗き込んだ画面には、九州で家畜に伝染病が流行って、畜産農家が大打撃を受けているという文字が踊っていた。
それと、純子と美代子のつながりって何なの?
わかんない。
そろそろ就活始めなきゃならないんだから、時事ニュースくらいきちんと押さえておけよ、と柳眉をひそめて遥が言った。

「女じゃなくてさ、たぶん患畜の話だと思うぜ。おまえさ、穂(みのる)の話、ちゃんと聞いてやったのか?」
「いや、女の名前で動転して、バカ野郎と・あいつを怒鳴りました。申し訳ない。」

遥は呆れ果てていた。
でも、遥は普段から俺のこと「ばかな子ほど、可愛い」といって甘やかしてるから、何とかしてくれるかな。
何度も焦って謝ろうと電話をかけたが、穂(みのる)の携帯には通じなかった。
傷ついてどこかで泣いているんだろうか。
まずい、すごい可哀想になってきた。

「どうしよう、遥~、俺、あいつが動物に異常に優しいの忘れてた。美代子って、きっと病気の豚かなんかだ」
「たぶんな。そんな一途なやつを、おまえってやつは怒鳴ったんだよな」
「……」

泣き濡れた穂の顔を想像すると、いてもたってもいられなかった。
だが、学生の分際で東京から九州までは果てしなく金がかかる。
バイトはしていたが、すねかじりの身の上では、とても運賃を捻出できなかった。

「どうしよう、遥。金がない」
「明日まで待ってな。何か良い方法ないか考えてやるから」

気が利く遥は本当に頼りになるやつだった。
二心さえなければ、親友と言ってもいいくらいだ。
穂(みのる)さえいなけりゃな~と、真顔で言うのが時々怖い。
4分の1、北欧の血が混じっているということだったが、一見した所、京人形師の作る男雛の頭(かしら)のように整った顔の男だった。

「穂と別れて俺と付き合うなら、今すぐにでも金貸してやるし、今夜一晩、ラブホに行くならヘリコプターをチャーターしてもやるけどどうする?」
「……明日まで待ちます」

遥は俺の頭をぐしゃぐしゃと掻き回すと、調べものがあるといってどこかへ行ってしまった。
ごめん、穂(みのる)。
ささやかな俺の貞操を、おまえへの愛のためとはいえ、もう少しで金に変えてしまうところだった。

早く、会いたいよ。







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