アンドロイドSⅤは挑発する 14
仕事を終わらせたあっくんが、やっと帰宅した時、大学のロゴマークの入った大きな車が家の前に止まっていた。
「音矢……?」
アンドロイドの様子がおかしくなったと聞き、急ぎ音矢は訪れたらしい。
「今頃、どうしたの……?何かあった?」
「アンドロイドが故障したんだ」
「え……ショーくんが……?壊れてしまったの?どうして?」
「思いがけない結末だが、厚志は返品したがっていたそうだから、丁度良かったんじゃないか?音羽から引き取りに来いと、電話を貰ったんだ。モニターは終了だな」
アンドロイドSⅤは、静かに眠っていた……
王子の口づけを待つ黒髪の白雪姫のように、胸の上に腕を組み、薄く唇を開いて……。
「どんな夢を見ているのだろうね」
誰に言うでもなく、静かに音羽が口にした。
「ロマンチックな奴だな。機械は夢なんぞ見ないだろう?」
「そりゃそうだろうけど……浅い寝息を立てて眠っているようじゃないか」
「内部振動が、表皮に響いているだけだ。よっこらしょっと」
音羽の兄、工学博士の音矢が、アンドロイドを抱き上げて、ごとりと重い荷物のように乱暴に木箱に収めた。
髪が乱れたのを、直すでもなく、ばらばらと顔の上に無雑作に梱包材を移し込む。
細身のアンドロイドは、とても軽そうに見えるが、実際は精密機械が詰まっていて、とても重いんだと音矢はあっくんに教えた。
「軽量化も今後の課題だ」
あっくんは帰宅して以来、言葉もなく、物言わぬアンドロイドに加えられる作業の様子を恐々と見つめていた。
自分が、意地になってシャットダウンをしなかったせいで、最悪の事態を迎えたことは理解しているが、アンドロイドを作った音矢に打ち明けたりできなかった。
「残念だが、この子は、どうやら契約者とのコミュニケーションに失敗したようだね」
音矢が屈みこみ、組み込まれた器機のログを確かめていた。
「シャットダウンした痕跡がない……ということは、厚志の気に入らなかったってことなんだろう?」
「いや、そんなことはないよ。あっくんは忙しくしていたから、シャットダウンする暇がなかっただけだ。それで、仕方なく僕が代わりをしたんだ」
音羽が、さりげなくかばった。
「そうか。その辺りは改良の余地ありってことだな。誰にでも、初回起動やシャットダウンが出来たんじゃ、信頼関係が成り立たないと思ったんだけど……次回からはパスワードを使うか。この子はモデルのATUSHIが大好きでね、いつも雑誌から切り抜いた写真にキスをしていた位なんだ」
ずきんと、心臓が波打った。
「……どういう事……?ショーくんは機械で出来たアンドロイドなんでしょう?」
「ん?そういえば、アンドロイドSⅤの事を話してなかったか」
回収するアンドロイドの身体に薄紙を被せながら、音矢は答えた。
「アンドロイドの性格の元、つまり人工知能というのは、今の技術では、まだ人間の手では作れないんだ。感情を自在に操るような高度な技術は、未だ我々科学者の手の中ではなく神の住む領域にある。だから、AIの基本設計は人の記憶をベースに使うんだよ。アンドロイドSⅤは、ATUSHIのようになりたいという夢を持った少年だったんだ。黒髪で輝く瞳を持った、とてもかわいい子でね……生きていたらきっと、こんな風に成長しただろうと思う姿を計算して、アンドロイドにうつしたんだ」
「……生きていたらって……どういうこと……?」
「今の医学では、オリジナルは長くは生きられないと分かっていたんだ。俺たちの研究チームは、生前に色々な聞き取りをして、データを作ってアンドロイドSⅤの性格を作ったんだよ。勿論、本人と保護者の許可と協力も得てね。いつかATUSHIに会えるかもしれないというと、すごく喜んでいたよ」
ふと音羽は思い出す。
「そういえば、生まれる前から、ずっとご主人様に恋をしていました……と、言っていたな」
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「音矢……?」
アンドロイドの様子がおかしくなったと聞き、急ぎ音矢は訪れたらしい。
「今頃、どうしたの……?何かあった?」
「アンドロイドが故障したんだ」
「え……ショーくんが……?壊れてしまったの?どうして?」
「思いがけない結末だが、厚志は返品したがっていたそうだから、丁度良かったんじゃないか?音羽から引き取りに来いと、電話を貰ったんだ。モニターは終了だな」
アンドロイドSⅤは、静かに眠っていた……
王子の口づけを待つ黒髪の白雪姫のように、胸の上に腕を組み、薄く唇を開いて……。
「どんな夢を見ているのだろうね」
誰に言うでもなく、静かに音羽が口にした。
「ロマンチックな奴だな。機械は夢なんぞ見ないだろう?」
「そりゃそうだろうけど……浅い寝息を立てて眠っているようじゃないか」
「内部振動が、表皮に響いているだけだ。よっこらしょっと」
音羽の兄、工学博士の音矢が、アンドロイドを抱き上げて、ごとりと重い荷物のように乱暴に木箱に収めた。
髪が乱れたのを、直すでもなく、ばらばらと顔の上に無雑作に梱包材を移し込む。
細身のアンドロイドは、とても軽そうに見えるが、実際は精密機械が詰まっていて、とても重いんだと音矢はあっくんに教えた。
「軽量化も今後の課題だ」
あっくんは帰宅して以来、言葉もなく、物言わぬアンドロイドに加えられる作業の様子を恐々と見つめていた。
自分が、意地になってシャットダウンをしなかったせいで、最悪の事態を迎えたことは理解しているが、アンドロイドを作った音矢に打ち明けたりできなかった。
「残念だが、この子は、どうやら契約者とのコミュニケーションに失敗したようだね」
音矢が屈みこみ、組み込まれた器機のログを確かめていた。
「シャットダウンした痕跡がない……ということは、厚志の気に入らなかったってことなんだろう?」
「いや、そんなことはないよ。あっくんは忙しくしていたから、シャットダウンする暇がなかっただけだ。それで、仕方なく僕が代わりをしたんだ」
音羽が、さりげなくかばった。
「そうか。その辺りは改良の余地ありってことだな。誰にでも、初回起動やシャットダウンが出来たんじゃ、信頼関係が成り立たないと思ったんだけど……次回からはパスワードを使うか。この子はモデルのATUSHIが大好きでね、いつも雑誌から切り抜いた写真にキスをしていた位なんだ」
ずきんと、心臓が波打った。
「……どういう事……?ショーくんは機械で出来たアンドロイドなんでしょう?」
「ん?そういえば、アンドロイドSⅤの事を話してなかったか」
回収するアンドロイドの身体に薄紙を被せながら、音矢は答えた。
「アンドロイドの性格の元、つまり人工知能というのは、今の技術では、まだ人間の手では作れないんだ。感情を自在に操るような高度な技術は、未だ我々科学者の手の中ではなく神の住む領域にある。だから、AIの基本設計は人の記憶をベースに使うんだよ。アンドロイドSⅤは、ATUSHIのようになりたいという夢を持った少年だったんだ。黒髪で輝く瞳を持った、とてもかわいい子でね……生きていたらきっと、こんな風に成長しただろうと思う姿を計算して、アンドロイドにうつしたんだ」
「……生きていたらって……どういうこと……?」
「今の医学では、オリジナルは長くは生きられないと分かっていたんだ。俺たちの研究チームは、生前に色々な聞き取りをして、データを作ってアンドロイドSⅤの性格を作ったんだよ。勿論、本人と保護者の許可と協力も得てね。いつかATUSHIに会えるかもしれないというと、すごく喜んでいたよ」
ふと音羽は思い出す。
「そういえば、生まれる前から、ずっとご主人様に恋をしていました……と、言っていたな」
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