アンドロイドSⅤは挑発する 9
風呂上がりのあっくんは、素肌に白いバスローブだけを身に着ける。
家事はアンドロイドのショーくんがやってくれるので、ストレッチをして、仕事関係のメールの確認をしたら、他にすることはない。
ゆっくりとモード雑誌を広げたり、バロック音楽をかけて本を読んだりする優雅な時間が好きだった。
だが、長椅子に横たわった時、視界に入った景色が、いつもとどこか違うのに気づく。
「……ショーくん。マルセルが贈ってくれた薔薇のブーケは?見当たらないけど……どこかへやったの?」
「バラの花でしたら、花瓶に生けています」
「それじゃなくて、ブリザーブドフラワーにしたものだよ。ぼくと音羽の記念日のお祝いにマルセルが届けてくれたもの。大きなアクリルケースがそこにあったでしょう」
少し語気が荒くなって、驚いたアンドロイドは目を見開いて、言葉を探した。
自分が何かミスを犯してしまったのだと知って、ショーくんは後ずさると悲し気に主人を見つめた。
静かに両手を組んで胸に当てる。
「……ブリザーブドフラワーが……どういうものか、わたしには分かりません。枯れた花なら……捨てました。わたしの知る……花は……生体反応があります……。枯れた花は、必要ないと思いました」
「捨てた……oh、なんてこと……」
あっくんはふらついて、長椅子にぺたりと座り込んだ。
「わたしはいけないことをしましたか……?」
アンドロイドに、思い出を理解しろという方が無理なのかもしれない。
音羽の言うように、一つずつ気長に教えるのが正しい方法なのかもしれない。
しかし、復帰後初めての大きなショーで、喝采を浴びた日の大切な花が、不要なものだと認識された事実は、あっくんを打ちのめした。
「もう……ここはいいから。ショーくんは向こうの部屋に行って……」
顔も見ずに、何とか振り絞ったのが精いっぱいだった。
それでも、今夜は愛する音羽が傍に居てくれる。
音羽さえいれば、この気持ちも立て直すことができる……はずだった。
それなのに……
「あっくん。病院へ行ってくる。患者の容体が急変したらしいんだ」
「音羽、少し話があるの。アンドロイドの事で……」
「うん。ゆっくり聞きたいんだけど、担当医が出張でいないんだ。僕がいないと患者の命にかかわる。すぐに出かけなきゃいけない」
「……行ってらっしゃい、ハニー」
「この埋め合わせはきっとするからね」
「ん……」
「なるべく急いで帰るよ」
優しい嘘だった。
唇をついばむようなキスを落として、音羽は車上の人となった。
急いで帰ると言っていたけれど、きっと今夜は帰ってこない。いつもの事だった。
小さくなってゆく車を見送るあっくんは、ため息をついた。
「あの……」
背後から声をかけてきたアンドロイドに、優しくする余裕はなかった。
「ショーくんは、自分の部屋に行って休んで……」
「ご主人様に、お詫びをしたいのです」
「もう、いいから。ひとりにして」
自分でも、苛々していると分かっていた。
傍で主人の言葉を待っているアンドロイドの存在は、とても殊勝で健気で、誰もがきっと好きになる……きっと、音羽も……
話をしているうちに感情が高ぶって、あっくんは、らしくないことを言ってしまった。
本日もお読みいただきありがとうございます。
可愛そうなアンドロイドSVとあっくん……(´・ω・`)
※ランキングに参加しております。
よろしくお願いします。
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家事はアンドロイドのショーくんがやってくれるので、ストレッチをして、仕事関係のメールの確認をしたら、他にすることはない。
ゆっくりとモード雑誌を広げたり、バロック音楽をかけて本を読んだりする優雅な時間が好きだった。
だが、長椅子に横たわった時、視界に入った景色が、いつもとどこか違うのに気づく。
「……ショーくん。マルセルが贈ってくれた薔薇のブーケは?見当たらないけど……どこかへやったの?」
「バラの花でしたら、花瓶に生けています」
「それじゃなくて、ブリザーブドフラワーにしたものだよ。ぼくと音羽の記念日のお祝いにマルセルが届けてくれたもの。大きなアクリルケースがそこにあったでしょう」
少し語気が荒くなって、驚いたアンドロイドは目を見開いて、言葉を探した。
自分が何かミスを犯してしまったのだと知って、ショーくんは後ずさると悲し気に主人を見つめた。
静かに両手を組んで胸に当てる。
「……ブリザーブドフラワーが……どういうものか、わたしには分かりません。枯れた花なら……捨てました。わたしの知る……花は……生体反応があります……。枯れた花は、必要ないと思いました」
「捨てた……oh、なんてこと……」
あっくんはふらついて、長椅子にぺたりと座り込んだ。
「わたしはいけないことをしましたか……?」
アンドロイドに、思い出を理解しろという方が無理なのかもしれない。
音羽の言うように、一つずつ気長に教えるのが正しい方法なのかもしれない。
しかし、復帰後初めての大きなショーで、喝采を浴びた日の大切な花が、不要なものだと認識された事実は、あっくんを打ちのめした。
「もう……ここはいいから。ショーくんは向こうの部屋に行って……」
顔も見ずに、何とか振り絞ったのが精いっぱいだった。
それでも、今夜は愛する音羽が傍に居てくれる。
音羽さえいれば、この気持ちも立て直すことができる……はずだった。
それなのに……
「あっくん。病院へ行ってくる。患者の容体が急変したらしいんだ」
「音羽、少し話があるの。アンドロイドの事で……」
「うん。ゆっくり聞きたいんだけど、担当医が出張でいないんだ。僕がいないと患者の命にかかわる。すぐに出かけなきゃいけない」
「……行ってらっしゃい、ハニー」
「この埋め合わせはきっとするからね」
「ん……」
「なるべく急いで帰るよ」
優しい嘘だった。
唇をついばむようなキスを落として、音羽は車上の人となった。
急いで帰ると言っていたけれど、きっと今夜は帰ってこない。いつもの事だった。
小さくなってゆく車を見送るあっくんは、ため息をついた。
「あの……」
背後から声をかけてきたアンドロイドに、優しくする余裕はなかった。
「ショーくんは、自分の部屋に行って休んで……」
「ご主人様に、お詫びをしたいのです」
「もう、いいから。ひとりにして」
自分でも、苛々していると分かっていた。
傍で主人の言葉を待っているアンドロイドの存在は、とても殊勝で健気で、誰もがきっと好きになる……きっと、音羽も……
話をしているうちに感情が高ぶって、あっくんは、らしくないことを言ってしまった。
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