アンドロイドSⅤは挑発する 7
清潔なテーブルクロスの中央にはライナーが敷かれ、センスの良いアレンジ花が飾られている。
あっくんの作る料理(恐らく、見た目はほぼ生ごみ)とは、どう控えめに見ても雲泥の差なのは、誰の目にも明らかだ。
マルセル・ガシアンにテーブルセッティングのセンスと、料理を手放しでほめられたアンドロイドのショーくんは、プログラムされているだけですと謙虚に微笑んだ。
何でもできるアンドロイドは、万能すぎてほんの少し気に入らないけれど、料理に罪はないのであっくんは黙って完食する。
「だって食べるのも、綺麗になる秘訣だもん……」
もぐもぐ……。
玄関のチャイムが、音羽の帰宅を知らせた。
「ただいま」
「きゃあ~、音羽~♡こんなに早く帰れるなら、知らせてくれればよかったのに。もう少し、待っていれば一緒に食事できたのに残念」
「君も仕事を持ってるんだから、僕のことは気にしなくていいんだよ。……あれ?そこの飾り棚のレイアウト変えたの?」
「ん?あ……!」
音羽の上着を受け取ったあっくんの顔色が、みるみる色を失ってゆく。
そこには、音羽と旅行した時の写真がたくさん飾られていたが、一番大切な一枚がなくなっていた。
オーロラの輝く氷の教会で、音羽に貰った指輪を嵌めて、永遠の愛を誓った二人の写真が……
二人のほかに、家の中の物を動かせたのは一人しかいなかった。
「ショーくん。ここに在った写真はどうしたの?」
アンドロイドは虚ろな目を向けた。
「あの……掃除をしているときに、落してしまって、写真立てのガラスが割れたのです。それで分別して捨てました」
「捨てた……?あの写真をゴミ箱に?」
あっくんはキッチンに走ると、割れ物の入ったペールをひっくり返した。
「あっくん!」
音羽が後を追う。
「お……音羽……二人の写真が……」
「いいから。ガラスの破片に触ったら、怪我をするよ」
「でも……」
「大丈夫だ」
ゴミの中から発見した二人の写真は、湿気を吸ってくしゃくしゃだった。写真を握りしめたまま涙がこぼれそうなあっくんを抱きしめて、音羽は励ました。
「いいかい?写真立ては、明日これよりも素敵なものを買ってくる。写真は僕のパソコンに入っているから、すぐにでもプリントできる。だから、あっくんは泣いちゃだめだ。目がはれたら明日の仕事に差し支えるだろう?君はプロなんだから、ほら、明日は何の仕事をするの?」
「……くすん……車のCM……」
「素敵だね。お手伝いロボットに、失敗はつきものだよ。気長に教えてあげればいいじゃないか」
「うん……」
音羽に優しく懐柔されて、あっくんは頷いたが、割り切れないものを感じていた。よりによって一番大切な写真が何故捨てられてしまったのか。
一番奥の中央に飾ってあったのに……。
あっくんがマルセル・ガシアンを送って家に入ったとき、音羽は、アンドロイドと話をしていた。
「君はどうして、あっくんが大切にしていた写真を捨ててしまったの?」
「掃除をしている時に、花を飾った花瓶を倒してしまいました。それで写真立てのガラスが割れたので捨てただけです……あの、誰かが怪我をすると危ないから……」
あっくんには譲れない所だったが、アンドロイドには理解できていない風だった。
「わたしは、ご主人様にそれほどひどいことをしたのですか?……ご主人様の哀しみの理由がよく分かりません……」
「アンドロイド・SV……君はご主人様が好き?」
アンドロイドはこくりと頷いた。
本日もお読みいただきありがとうございます。
ブログ村から離れて、しばらく経ちました。
覗いていただき、ありがとうございます。
色々考えることもありますが、マイペースで頑張ります。(`・ω・´)
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あっくんの作る料理(恐らく、見た目はほぼ生ごみ)とは、どう控えめに見ても雲泥の差なのは、誰の目にも明らかだ。
マルセル・ガシアンにテーブルセッティングのセンスと、料理を手放しでほめられたアンドロイドのショーくんは、プログラムされているだけですと謙虚に微笑んだ。
何でもできるアンドロイドは、万能すぎてほんの少し気に入らないけれど、料理に罪はないのであっくんは黙って完食する。
「だって食べるのも、綺麗になる秘訣だもん……」
もぐもぐ……。
玄関のチャイムが、音羽の帰宅を知らせた。
「ただいま」
「きゃあ~、音羽~♡こんなに早く帰れるなら、知らせてくれればよかったのに。もう少し、待っていれば一緒に食事できたのに残念」
「君も仕事を持ってるんだから、僕のことは気にしなくていいんだよ。……あれ?そこの飾り棚のレイアウト変えたの?」
「ん?あ……!」
音羽の上着を受け取ったあっくんの顔色が、みるみる色を失ってゆく。
そこには、音羽と旅行した時の写真がたくさん飾られていたが、一番大切な一枚がなくなっていた。
オーロラの輝く氷の教会で、音羽に貰った指輪を嵌めて、永遠の愛を誓った二人の写真が……
二人のほかに、家の中の物を動かせたのは一人しかいなかった。
「ショーくん。ここに在った写真はどうしたの?」
アンドロイドは虚ろな目を向けた。
「あの……掃除をしているときに、落してしまって、写真立てのガラスが割れたのです。それで分別して捨てました」
「捨てた……?あの写真をゴミ箱に?」
あっくんはキッチンに走ると、割れ物の入ったペールをひっくり返した。
「あっくん!」
音羽が後を追う。
「お……音羽……二人の写真が……」
「いいから。ガラスの破片に触ったら、怪我をするよ」
「でも……」
「大丈夫だ」
ゴミの中から発見した二人の写真は、湿気を吸ってくしゃくしゃだった。写真を握りしめたまま涙がこぼれそうなあっくんを抱きしめて、音羽は励ました。
「いいかい?写真立ては、明日これよりも素敵なものを買ってくる。写真は僕のパソコンに入っているから、すぐにでもプリントできる。だから、あっくんは泣いちゃだめだ。目がはれたら明日の仕事に差し支えるだろう?君はプロなんだから、ほら、明日は何の仕事をするの?」
「……くすん……車のCM……」
「素敵だね。お手伝いロボットに、失敗はつきものだよ。気長に教えてあげればいいじゃないか」
「うん……」
音羽に優しく懐柔されて、あっくんは頷いたが、割り切れないものを感じていた。よりによって一番大切な写真が何故捨てられてしまったのか。
一番奥の中央に飾ってあったのに……。
あっくんがマルセル・ガシアンを送って家に入ったとき、音羽は、アンドロイドと話をしていた。
「君はどうして、あっくんが大切にしていた写真を捨ててしまったの?」
「掃除をしている時に、花を飾った花瓶を倒してしまいました。それで写真立てのガラスが割れたので捨てただけです……あの、誰かが怪我をすると危ないから……」
あっくんには譲れない所だったが、アンドロイドには理解できていない風だった。
「わたしは、ご主人様にそれほどひどいことをしたのですか?……ご主人様の哀しみの理由がよく分かりません……」
「アンドロイド・SV……君はご主人様が好き?」
アンドロイドはこくりと頷いた。
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