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アンドロイドSⅤは挑発する 5 

メイクを落としたあっくんの大きな荷物を、マルセル・ガシアンは自ら車に運んだ。

「さあ、送ってゆくよ。わたしのヴィーナス。君のお手伝いロボットにも会ってみたい」
「もう仕事はいいの?遠回りになるのに」
「好奇心には勝てないよ」
「まだ、あの子の作ったものを食べたことはないけれど、きっと何か作ってくれているはずだから、食べてゆく?」
「嬉しいね。ロボットはどういう形?変身して戦闘形態になったりするのかい?」
「まさか。アメコミじゃあるまいし。指先から蜘蛛の糸も飛ばさないし、スーツも着ていません。彼はね、一見したところブルネットの可愛い少年のようなの」
「男性型なのか」
「うん……音矢の好みが満載されているの。オプションで、ちゃんとピンクのセクスも付いているし。小さくて可愛いから……ぼくは少し心配……」
「あの堅物が、心を惹かれるとでも?」
「うん」
「それだけは絶対にない。音羽はわたしのヴィーナス以外の誰にも目などくれない。賭けたって良い」
「そうかなぁ……」

隣のシートで、小さく肩をすくめたトップモデルのATUSHIの瞳は潤んでいた。

兄の厚一郎に生体肝手術をして肝臓を贈ると決めた時、傷のない綺麗な体を見て欲しくて、音矢の手を借りアンドロイドだと嘘をついて、音羽の前に現れた厚志。
マルセル・ガシアンは、身近にいる世界的トップモデルATUSHIの、健気で一途な思いを知っていた。
美貌のあっくんは、音羽の前に出ると、いつも醜かった幼い頃のひよこのように自信がなくなってしまう。

「心配するな。あの一重の東洋人は、わたしのヴィーナスにベタボレだ」
「そうだといいんだけど……」

黒髪の少年が、自分のように嘘をついて、アンドロイドになってやって来たとは思わないけれど、音羽を好きにならないとは限らない。

「……だって、音羽はあんなに格好良くて素敵なんだもの。誰だって夢中になると思うの」
「え~と……」

マルセル・ガシアンは一重の東洋人の顔を思い出して、反論しようと思ったが馬鹿々々しいのでやめた。
あっくんの目に、音羽はどう映っているのだろう。
それは日本語で、恋は盲目というんだよ。

あっくんが帰宅したとき、玄関の扉が開いてアンドロイドが現れた。
Tシャツにショートパンツを穿いている。
さすがに、七色Tバックでは目のやり場に困るので、音羽がとりあえずあっくんのものを着せたらしい。

「お帰りなさいませ。ご主人様」
「……ただいま。何か変わったことはなかった?」
「ございません。訪問者は新聞の勧誘だけです。後は、お荷物が届いています」
「そう……あ、そういえば、君の名前……何だっけ?こちら、マルセル・ガシアン。仕事でお世話になっている人だよ」
「わたしはアンドロイドSⅤです」
「ソフトバンク……?ライバル会社なの?」
「おっしゃっている意味がよくわかりません。それに、ソフトバンクならⅤではなくBなのでは?」
「確かに、そうだね」

隣でマルセル・ガシアンがくすりと笑った。
あっくんはアンドロイドAUという名前で、音羽のもとにやってきたのだ。
本名、上田厚志のイニシャルで。




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