星月夜の少年人形 21
その夜遅く優月の父、神村から優成に電話があった。
「社長、神村です。優月が遅くまでお邪魔してすみません。」
「え?優月君、まだ帰っていないんですか?おかしいな・・・もうすぐ、11時ですよね。」
優成は、手短に優月が友人と会うからと言って、朝早くに出かけたことを説明した。神村も、電話の向こうで首をかしげたようだ。
「おかしいですね、朝早くに今日はずっと社長と過ごすから、食事は要らないからって電話があったんですが・・・。」
互いの胸で、いやな予感が騒いでいた。
優生は優月との会話に、どこか不自然なやりとりが幾つもあったことを思い出していた。
最後のようなことを言うと、不思議に思い、確か優月にも問うたはずだ。そうだ・・・キスマークを付けてもいいかと自分は優月に聞いた。
「付けてください。」と、優月は不思議なくらい真っ直ぐな目を向けてそういった。
『ぼくがずっと優成さんを好きなこと、忘れないように、いっぱい・・・付けて・・・ください。』と・・・。
それだけじゃない。浮かれていて失念していたが、優月の様子は明らかにいつもと違っていた。いつも静かに微笑んで、何を言っても恥ずかしそうに頬を染めた優月が、優成の前でずいぶん積極的だった。
まるで最後の思い出を作るように、優月にしては余りに大胆ではなかったか・・・?
大人しい優月が、おずおずと風呂にさえ一緒に入ろうと誘ったのだ。
「優月君!」
鍵を握り車を駆ったが、優月の行方に当てはなかった。
じっとしていられず、慌ただしく神村の家を訪問した。
「社長!」
「優月君は?どこか思い当たる場所とか、学校の友人はいないんですか?」
神村は羽藤優成にリビングに上がってくれと、促した。あちこちに電話をして、高校に現れた男の話を担当教師から聞き出したのだという。
大人たちの知らないところで、優月の運命は変わろうとしていた。
*******
数時間前。
優月は約束通り、休日の会社を訪ねた。
目立たないように顧問弁護士に会い、話をする必要があった。
銀縁眼鏡の冷ややかな男は、淡々と優月のこれからの行く末について語った。
「高校は転校していただきます。土光一族の皆さまは大抵が、私立華桜陰高校を卒業していらっしゃいます。手続きは、もう済んでおりますから、月曜日から通学してください。」
「高校まで・・・。このままじゃいけないんですか?ぼくは、できるなら高校だけは今のところに通いたいです。あの・・・弟の送り迎えもあるし・・・。」
「・・・土光財閥の後継者に選ばれた方が、血のつながらない園児の送り迎えですか?」
抱えた書類を低いテーブルに音を立てて広げ、男はやれやれと盛大にため息を吐いた。
「どんな決心をして、ここにおいでになったかと多少期待をしていたのですがね。その程度のお考えでは、先が思いやられます。あなたのたっての望みで、義理のお父様の務める会社、HATOU…でしたか?今回、手を引いたんですが意地悪したくなってしまいますよ。」
羽藤という名を聞き、優月の血がざっと逆流し顔色は蒼白になった。
今の優月の守りたいものは、家族と羽藤だけだった。守る為に、全てと決別する決心をしてここに来た。
「羽藤さんの会社の事は、そのままにしておいてください。父の事も。ぼくのせいで、羽藤さんの会社に何かあるなんて・・・絶対に、いやです。」
優月は唇を噛み、弁護士と名乗った男は、どこか愉快そうに優月を眺めた。
「せいぜい頑張ってください。覚えることは山ほどありますよ。とりあえず、なるべく早く数か国語位は扱えるようになってください。取引先のご家族とのコミニュケーションを取るのも、若社長の大事な役目ですよ。優月君はお可愛らしいから、皆様きっとお喜びになるでしょう。」
「差し当たって、あなたが住むのはこちらです。」そう言って、シティホテルの住所と鍵を渡された。
「食事の心配も要りませんし、ここなら学校に近いでしょう。学校が終わりましたら、家庭教師が数時間ほど付きます。何か、ご質問がおありになりますか?」
「あの・・・たまには・・・時間が出来たら、帰宅してもいいんでしょうか?」
「帰宅・・・?土光本宅にお帰りになるのは、ある程度の体裁が整ってからになります。ただの高校生に、我々は誰も興味はないんですよ、優月さん。覚悟をしていただきます。」
「直系だからと言って、無能な輩を組織は必要とはしません。なるべく早く求められる人間になってください。あなたの大切な、HATOUよりもはるかに多くの人間の命運を、この先握っていると自覚してください。」
よろしいですね、と言われた優月には選択の余地はなかった。
遅くなってしまいました。
(ノ_・。) 優月:「・・・がんばる・・・。」
(´・ω・`) 優成:「どこへ行ってしまったんだ、優月くん。」
拍手もポチもありがとうございます。
励みになりますので、応援よろしくお願いします。
コメント、感想等もお待ちしております。 此花咲耶
「社長、神村です。優月が遅くまでお邪魔してすみません。」
「え?優月君、まだ帰っていないんですか?おかしいな・・・もうすぐ、11時ですよね。」
優成は、手短に優月が友人と会うからと言って、朝早くに出かけたことを説明した。神村も、電話の向こうで首をかしげたようだ。
「おかしいですね、朝早くに今日はずっと社長と過ごすから、食事は要らないからって電話があったんですが・・・。」
互いの胸で、いやな予感が騒いでいた。
優生は優月との会話に、どこか不自然なやりとりが幾つもあったことを思い出していた。
最後のようなことを言うと、不思議に思い、確か優月にも問うたはずだ。そうだ・・・キスマークを付けてもいいかと自分は優月に聞いた。
「付けてください。」と、優月は不思議なくらい真っ直ぐな目を向けてそういった。
『ぼくがずっと優成さんを好きなこと、忘れないように、いっぱい・・・付けて・・・ください。』と・・・。
それだけじゃない。浮かれていて失念していたが、優月の様子は明らかにいつもと違っていた。いつも静かに微笑んで、何を言っても恥ずかしそうに頬を染めた優月が、優成の前でずいぶん積極的だった。
まるで最後の思い出を作るように、優月にしては余りに大胆ではなかったか・・・?
大人しい優月が、おずおずと風呂にさえ一緒に入ろうと誘ったのだ。
「優月君!」
鍵を握り車を駆ったが、優月の行方に当てはなかった。
じっとしていられず、慌ただしく神村の家を訪問した。
「社長!」
「優月君は?どこか思い当たる場所とか、学校の友人はいないんですか?」
神村は羽藤優成にリビングに上がってくれと、促した。あちこちに電話をして、高校に現れた男の話を担当教師から聞き出したのだという。
大人たちの知らないところで、優月の運命は変わろうとしていた。
*******
数時間前。
優月は約束通り、休日の会社を訪ねた。
目立たないように顧問弁護士に会い、話をする必要があった。
銀縁眼鏡の冷ややかな男は、淡々と優月のこれからの行く末について語った。
「高校は転校していただきます。土光一族の皆さまは大抵が、私立華桜陰高校を卒業していらっしゃいます。手続きは、もう済んでおりますから、月曜日から通学してください。」
「高校まで・・・。このままじゃいけないんですか?ぼくは、できるなら高校だけは今のところに通いたいです。あの・・・弟の送り迎えもあるし・・・。」
「・・・土光財閥の後継者に選ばれた方が、血のつながらない園児の送り迎えですか?」
抱えた書類を低いテーブルに音を立てて広げ、男はやれやれと盛大にため息を吐いた。
「どんな決心をして、ここにおいでになったかと多少期待をしていたのですがね。その程度のお考えでは、先が思いやられます。あなたのたっての望みで、義理のお父様の務める会社、HATOU…でしたか?今回、手を引いたんですが意地悪したくなってしまいますよ。」
羽藤という名を聞き、優月の血がざっと逆流し顔色は蒼白になった。
今の優月の守りたいものは、家族と羽藤だけだった。守る為に、全てと決別する決心をしてここに来た。
「羽藤さんの会社の事は、そのままにしておいてください。父の事も。ぼくのせいで、羽藤さんの会社に何かあるなんて・・・絶対に、いやです。」
優月は唇を噛み、弁護士と名乗った男は、どこか愉快そうに優月を眺めた。
「せいぜい頑張ってください。覚えることは山ほどありますよ。とりあえず、なるべく早く数か国語位は扱えるようになってください。取引先のご家族とのコミニュケーションを取るのも、若社長の大事な役目ですよ。優月君はお可愛らしいから、皆様きっとお喜びになるでしょう。」
「差し当たって、あなたが住むのはこちらです。」そう言って、シティホテルの住所と鍵を渡された。
「食事の心配も要りませんし、ここなら学校に近いでしょう。学校が終わりましたら、家庭教師が数時間ほど付きます。何か、ご質問がおありになりますか?」
「あの・・・たまには・・・時間が出来たら、帰宅してもいいんでしょうか?」
「帰宅・・・?土光本宅にお帰りになるのは、ある程度の体裁が整ってからになります。ただの高校生に、我々は誰も興味はないんですよ、優月さん。覚悟をしていただきます。」
「直系だからと言って、無能な輩を組織は必要とはしません。なるべく早く求められる人間になってください。あなたの大切な、HATOUよりもはるかに多くの人間の命運を、この先握っていると自覚してください。」
よろしいですね、と言われた優月には選択の余地はなかった。
遅くなってしまいました。
(ノ_・。) 優月:「・・・がんばる・・・。」
(´・ω・`) 優成:「どこへ行ってしまったんだ、優月くん。」
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