星月夜の少年人形 15
羽藤は、言葉を重ねるたびに自分の心の中で、優月の輪郭がはっきりと際立って来ているのに気が付いた。
儚げな風情であっても、優月は決して流されるだけのか弱い少年ではなかった。
家族を思い、環境がどうあろうと、自分の好きなものを大切にきちんと持っている。それは同じ年の少年たちが欲するものとは違う気もするが、羽藤の求めるものと同じものだ。
仕事に追われ、いつしか夜空を見上げることもなくなった羽藤に、優月は天を指す聖ヨハネのように悩ましく愛おしい存在になっていた。
年甲斐もなく、清楚な少年の思い人になれたのが、素直にうれしかった。
「夏場はリビングで寝転がってね、星を見ながら眠りにつくんだ。なかなかいい眺めだよ。
優月君も、今夜はそうしてみるかい?」
優月は羽藤を見上げて、こく…と、頷いた。
「羽藤さんと、一緒に・・・星を眺めながら眠るって、夢みたい。」
逃げられるかもしれないと思いながら、そっと頬に触れる。優月は逃げなかった。
緊張して薄く汗をかいたのだろう、少し冷たくなった額を羽藤の胸にもたせてきた。
日頃の優月の様子と違っているような気がする。
「優月くん・・・?君、何かあった?」
腕の中で見上げた濡れた黒曜石の瞳が、綺羅と光る。そのまま、優月は俯いてしまった。
「何も・・・何もないです。ただ、緊張しているだけ・・・。ぼくは、恥ずかしいほど経験もなくて、羽藤さんの前で、こうして息をしているだけで精いっぱいだから・・・。」
「優月君。僕は無理強いするつもりはないよ。怖かったら怖いって言ってもいいんだよ。君が大人になるまで待つくらいのことはできるからね。」
優月は小さく頭を振った。羽藤はこれから優月と過ごす時間が、あると思っているのだろう。だが、優月には今夜一晩と、自分で期限を切っていた。「あ、そうだ・・・。」と、優月が顔を上げた。
「ぼく、羽藤さんの苗字しか知らないや。下の名前、教えて?なんていうの?」
「優しいに、成ると書いて「ゆうせい」というんだ。どこか、優月君の名前と似てるだろ?」
「ほんとだ・・・。何か、嬉しい。一字、似ているだけなのにね。優成さんって、呼んでもいい?」
勿論と、羽藤優成は答えた。年の離れた少年は、それから長い間何も言わずに、羽藤の腕の中に抱かれて静かに星を見上げていた。
静寂を切り裂いて、優月が決心を口にした。
「誕生日プレゼント、ねだってもいいかな、羽藤・・・優成さん。」
「いいよ。ぼくに出来る事ならね。優月君のお誕生日っていつ?」
ふふっと、優月は軽く笑い声をあげた。
「この星空を、ずっと忘れないようにしてくれる?大好きな羽藤さん・・・優成さんと一緒にいたこと忘れたくないから。」
「忘れなくてもいいだろう?これからだって、いつだって見上げればいい。夏休みになったら、石垣島へ星を見に行こう。色々な場所で、星を見よう。僕も優月君と見上げた星空を忘れないで居たいよ。」
雲間から一閃、煌々と差す月光が優月と優成を照らした。
声もなく静かに泣く優月を抱きしめて、優成は腕の中の幸せに酔いしれた。
「君が好きだよ。優月君・・・僕のものにしてしまっても、いいの・・・?」
ぎこちなく腕を回して、優月が優勢を抱擁した。
「はい。…優成さんが好きです。」
優成は、優月の零れる涙の理由に気が付かなかった。
(`・ω・´) 羽藤:「どうした、優月くん?」
(ノ_・。) 優月:「な、なんでもない・・・」
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