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続 星月夜の少年人形 11 

桃李の真っ直ぐな眼差しに晒されたまま、花村はその場に立ち尽くしていた。花村が見やっただけで容を変えて勃ちあがった、幼い性器から目が離せなかった。
室内の空気が震え、熱を持つ気がする。

「花村さん・・・おれ、ね・・・ずっとね・・・」
「うん、桃李。わかってるよ。」

桃李の言いかけた言葉の先を、花村は知っている気がする。桃李の視線は幼い頃からいつも誰よりも饒舌に花村の姿を追っていた。
言いかけた桃李は、言葉をごくりと呑み込んで目を伏せた。この関係を失うのが怖かった。糸の切れた操り人形のようにぺたりとその場に座り込んで、いつしか桃李は小さく嗚咽を漏らしていた。
このまま気が付かない振りもできたのだろうが、うつむいたきりの桃李に手を伸ばし花村は、細い顎に手を掛け「桃李。」と、名前を呼んだ。

「花村さん・・・。」

見上げた瞳からどっと、堰を切って涙が溢れた。期待を求めて、動機が高鳴るのが伝わって来る。

「人形みたいだ、可愛い桃李。手始めに雑誌やってみるか?キス位はあると思うけど、女の子向けBLものの絡みの薄いやつがある。女の子みたいに綺麗な子が良いと言われてて、インディーズのビジュアル系にでも声掛けようと思ってたところだ。」

「おれ・・・その仕事に合格?・・ってこと?おれで、いいの?」

「ああ。そんな艷めかしい身体を晒しておいて、映像に関わるものとしては、ちょっと見逃せなくなってきたな。誰かに見せるのも、ちょっと惜しいくらいだ。」

やっと、緊張が解けて柔らかな表情になった。
花村は、薄い裸にシャツを拾って掛けてやった。
まるで少女のように、腕を胸で交差させたままソファに横たわった桃李を眺め、まだ、カメラは回っていたのを思い出す。まずいなと思いながら、それでも花村は桃李を抱き寄せた。
薄く汗をかいた桃李は、心臓が跳ねるのを懸命に抑えようとし、それがまたいじらしかった。
そっと胸に触れると、ふっと息を詰めた。薄暗い部屋に、陶器の肌の少年人形がくたと横たわり、愛人に抱き上げられるのを待っている。湿気と隠微の似合う、不思議な色合いの天性の肌だった。
耳朶に唇を寄せ、軽く噛んだ。ひくひくと、花村の指が桃李を確かめてゆくと腹の筋肉が固くなる。生き物のように、肌の上を指は滑ってゆく。もし、勃ちあがった少年の印が無かったら、感情を抑え込むのが大変だっただろうな・・・と、ふっと笑みが零れた。

「花村さん?」

「まずいなぁ、可愛いなぁ、桃李。キスしたのがばれたら、紘一郎に張り飛ばされそうだ。」

笑って部屋の明かりを点け、親子のような関係に戻った。

*******

桃李は常に、自分の恵まれた美貌を憎んでいた。
誰かを好きになれば、頭の片隅で母親を食い物した自分にそっくりだと言う父親のことを考えた。顔も知らない父に捕らわれてずっと生きて来たような気がする。父のようになるのが怖かった。

初めて頭よりも高く抱き上げてくれた、男のことを何度もお父さんなら良かったのに・・・と、思っていた。おぼろげな母の記憶もいつしか、男のことばかり追っているうちに忘れてしまいそうになっている。
母は、小さな桃李に恋人の面影を捜した。桃李の向こうに見える、酷薄な男をつなぎ止めるだけの役割で、母は桃李を手放さなかった。
母が誰よりも大切なのは、金を無心するときだけ優しい嘘でできた男だった。

花村が自分に優しいのは、自分が好きなわけではないと桃李は知っていた。誰も自分を好きになったりしないと、いつも思っていた。
いつか幼い時に、花村に風呂に入れて貰ったことがある。
母親が酷く酔いつぶれて、店で一夜を過ごした日、桃李は花村と一緒に銭湯に浸かった。「父ちゃんと一緒でいいな、坊主。」と、世間の声に笑っているだけで否定しなかった花村に、ほんの少し桃李は期待した。
温かい布団で眠りながら、花村の腕に鼻をこすり付けてまどろんでいた桃李に、花村は知らない誰かの名を呼んだ。

「ちゃんと温まらないと、風邪ひくぞ・・・優月・・・」

夢の中で花村が呼んだ名前に、桃李は嫉妬した。逢ったこともない、その子に成り代わりたかった。

「ぱぱ・・・。」

互いを抱きしめて、人肌を求めながら違う相手を思っていた。
あの日から、桃李は何かに「期待」することをやめた。求めれば悲しい思いをすると、知ってしまったから。





(´・ω・`) 花村:「桃李・・・何も知らなくてごめんよ。」

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