続 星月夜の少年人形 14
施設に入ったころの桃李は、やせっぽちで何をしてもみそっかすだった。
ボールに触ったこともなかったから、野球もサッカーもまるでできなかった。右往左往を繰り返す桃李に大抵は上級生が切れて、あっちに行ってろと引導を渡した。
何しろ、たまに人数合わせに入れて貰っても、サッカーボールを抱えて走る始末だった。しかも、盛大に転んで、膝小僧や顔、あちこちすりむいた。
グラウンドの隅っこに出され、膝を抱えた桃李に優しい言葉がふってくる。
「桃李。ほら、魔法の絆創膏だぞ。」
涙ぐんで見上げると、いつも紘一郎が温かい笑顔を浮かべて立っていた。
しゃがんで「ほら。」と、背中を向けてくれる。
膝小僧の絆創膏は、擦り傷だけじゃなく寂しい心にも「ぺたり」と貼られた気がする。
広い背中にぎゅっとしがみついて手を回し、桃李は紘一郎に甘えた。
「・・・紘ちゃん。おれ、野球もサッカーも下手くそなんだ。」
「そっか。まあ、みんながプロになるわけじゃないからな。桃李一人くらい、下手くそでもいいさ。」
「・・・紘ちゃん。おれ、あんまり勉強もできないんだ。圭くんが、おれのことばかだって言う。」
背中にぽつりと涙が落ちたのを、紘一郎は見逃さなかった。
「勉強わかんないくらい、大したことないさ。教えてやるよ。桃李は、ばかなんかじゃないさ。勉強を始めたのがみんなより、ちょっと遅かっただけだ。」
「うん・・・。」
向けられた背中に負ぶさると、お日さまの匂いがしたのを覚えている。
いつも優しかった紘一郎が、こんな風に桃李を拒絶する冷たい背中を向けたのは初めてだった。
「紘ちゃんの、ばか・・・。」
ぐいと顔をこすって、涙を拭いた。
膝小僧に滲んだ血を、ぺろと舐めるとしょっぱかった。
*******
紘一郎の誤解も仕方がなかったかもしれない。
自覚はなかったが、どこにいても桃李は目立つ。その上、住んでいる町の住人は、桃李の顔に冷たかった。
紘一郎と二人で歩いていても、どこからか「ハイエナの子」という言葉が聞こえて来た。何のかかわりもない父親の「つけ」を、町を歩く度に押し付けられている気がする。紘一郎は、いつもいわれのない理不尽から桃李を庇ってやった。
つい先日も、二人で居る時にどこかのスカウトに声を掛けられたばかりだ。
「ね、君等、友達なの?・・・親戚とかじゃないよね。」
「当ててみてよ。」と、冗談気に振った桃李を相手はまじまじと眺め、やがて「恋人同士かな。」と、言ったのだ。一瞬で沸騰した紘一郎は、ふざけるなと怒声を上げて掴みかかったが、男は急いで名刺を出しながらこう言った。
「まあまあ、軽い気持ちでさ、こずかい稼ぎに二人で絡んでみないか?君ら二人だったら、絵になるからはずむよ。」
桃李をそんな目でみたのが許せないと言って、紘一郎は怒鳴り散らし、相手は考えてみてね~と言いながら退散した。
そんな話を思い出した紘一郎は思い立ち、花村に相談してみようと思った。桃李の持ってきた金の出所をはっきりさせなければと思った。大切な桃李に、感情のまま思わず当たってしまったのを頭の冷えた紘一郎は後悔していた。
きっと、今頃はどこかでしょんぼりと肩を落とし、目をこすっているだろう。
不意に気になり、部屋を飛び出した。
柏手もポチもありがとうございます。
励みになりますので、応援よろしくお願いします。
コメント、感想等もお待ちしております。 此花咲耶
← 見れば見るほどきゅんきゅん~♪です。
ボールに触ったこともなかったから、野球もサッカーもまるでできなかった。右往左往を繰り返す桃李に大抵は上級生が切れて、あっちに行ってろと引導を渡した。
何しろ、たまに人数合わせに入れて貰っても、サッカーボールを抱えて走る始末だった。しかも、盛大に転んで、膝小僧や顔、あちこちすりむいた。
グラウンドの隅っこに出され、膝を抱えた桃李に優しい言葉がふってくる。
「桃李。ほら、魔法の絆創膏だぞ。」
涙ぐんで見上げると、いつも紘一郎が温かい笑顔を浮かべて立っていた。
しゃがんで「ほら。」と、背中を向けてくれる。
膝小僧の絆創膏は、擦り傷だけじゃなく寂しい心にも「ぺたり」と貼られた気がする。
広い背中にぎゅっとしがみついて手を回し、桃李は紘一郎に甘えた。
「・・・紘ちゃん。おれ、野球もサッカーも下手くそなんだ。」
「そっか。まあ、みんながプロになるわけじゃないからな。桃李一人くらい、下手くそでもいいさ。」
「・・・紘ちゃん。おれ、あんまり勉強もできないんだ。圭くんが、おれのことばかだって言う。」
背中にぽつりと涙が落ちたのを、紘一郎は見逃さなかった。
「勉強わかんないくらい、大したことないさ。教えてやるよ。桃李は、ばかなんかじゃないさ。勉強を始めたのがみんなより、ちょっと遅かっただけだ。」
「うん・・・。」
向けられた背中に負ぶさると、お日さまの匂いがしたのを覚えている。
いつも優しかった紘一郎が、こんな風に桃李を拒絶する冷たい背中を向けたのは初めてだった。
「紘ちゃんの、ばか・・・。」
ぐいと顔をこすって、涙を拭いた。
膝小僧に滲んだ血を、ぺろと舐めるとしょっぱかった。
*******
紘一郎の誤解も仕方がなかったかもしれない。
自覚はなかったが、どこにいても桃李は目立つ。その上、住んでいる町の住人は、桃李の顔に冷たかった。
紘一郎と二人で歩いていても、どこからか「ハイエナの子」という言葉が聞こえて来た。何のかかわりもない父親の「つけ」を、町を歩く度に押し付けられている気がする。紘一郎は、いつもいわれのない理不尽から桃李を庇ってやった。
つい先日も、二人で居る時にどこかのスカウトに声を掛けられたばかりだ。
「ね、君等、友達なの?・・・親戚とかじゃないよね。」
「当ててみてよ。」と、冗談気に振った桃李を相手はまじまじと眺め、やがて「恋人同士かな。」と、言ったのだ。一瞬で沸騰した紘一郎は、ふざけるなと怒声を上げて掴みかかったが、男は急いで名刺を出しながらこう言った。
「まあまあ、軽い気持ちでさ、こずかい稼ぎに二人で絡んでみないか?君ら二人だったら、絵になるからはずむよ。」
桃李をそんな目でみたのが許せないと言って、紘一郎は怒鳴り散らし、相手は考えてみてね~と言いながら退散した。
そんな話を思い出した紘一郎は思い立ち、花村に相談してみようと思った。桃李の持ってきた金の出所をはっきりさせなければと思った。大切な桃李に、感情のまま思わず当たってしまったのを頭の冷えた紘一郎は後悔していた。
きっと、今頃はどこかでしょんぼりと肩を落とし、目をこすっているだろう。
不意に気になり、部屋を飛び出した。
柏手もポチもありがとうございます。
励みになりますので、応援よろしくお願いします。
コメント、感想等もお待ちしております。 此花咲耶
← 見れば見るほどきゅんきゅん~♪です。
- 関連記事
-
- 続 星月夜の少年人形 番外編 「それから・・・」 (2011/07/05)
- 続 星月夜の少年人形 17 【最終話】 (2011/07/03)
- 続 星月夜の少年人形 16 (2011/07/02)
- 続 星月夜の少年人形 15 (2011/07/01)
- 続 星月夜の少年人形 14 (2011/06/30)
- 続 星月夜の少年人形 13 (2011/06/29)
- 続 星月夜の少年人形 12 (2011/06/28)
- 続 星月夜の少年人形 11 (2011/06/27)
- 続 星月夜の少年人形 10 (2011/06/26)
- 続 星月夜の少年人形 9 (2011/06/25)
- 続 星月夜の少年人形 8 (2011/06/24)
- 続 星月夜の少年人形 7 (2011/06/23)
- 続 星月夜の少年人形 6 (2011/06/22)
- 続 星月夜の少年人形 5 (2011/06/21)
- 続 星月夜の少年人形 4 (2011/06/20)